過労自殺に至るプロセスについて、過労死問題に取り組んでおられる天笠崇医師、上畑鉄之丞医師は、次のように模式化して捉えられる旨述べられています1。
①長時間労働・過重労働をはじめとした現代型労働等を背景にして、私たちは、誰でも経験する疲労を経験する。この疲労は、ぐったり疲労に陥りやすい。
②ぐったり疲労に陥った状態で仕事をし続けると、累積・慢性疲労状態に至る。累積・慢性疲労状態に至ると、身体症状と精神症状が出現してくる。身体症状については、例えば、頭痛、めまい、耳鳴り、肩こり、微熱、吐き気などが生じる。
③さらに仕事を続けると、疲れているはずなのに眠れない状態が必発する。バーンアウト症候群に陥る場合もある。燃え尽き度が大きければ、些細な生活上の出来事が重なっただけで疲弊うつ病に至る。
④そうすると、自殺に至る場合もある。
うつ病は自殺の危険性が高く2、うつ病に至った場合には、たとえ軽症でも、自殺の危険性があります3。
うつ病等の精神疾患の発病に至らないようにする必要があるため、電通事件最高裁判決は、「使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負うと解するのが相当であり、使用者に代わって労働者に対し業務上の指揮監督を行う権限を有する者は、使用者の上記注意義務の内容に従ってその権限を行使すべきものである(平成12年3月24日最高裁第二小法廷判決・電通事件最高裁判決)。」と述べています。
電通事件最高裁判決の調査官解説であるいわゆる八木論文では、「長時間労働の継続などにより疲労や心理的負荷等が過度に蓄積すると労働者の心身の健康を損なうおそれがあることは周知のとおりであり、うつ病り患又はこれによる自殺はその一態様である。殊に、Aの健康状態が悪化したことが外見上明らかになっていた段階では、既にうつ病り患という結果の発生を避けられなかった可能性もあることを考えると、使用者又はその代理監督者が回避する必要があるのは、やはり、右のような結果を生む原因となる危険な状態の発生であるというべきで、予見の対象も、右に対応したものとなると考えられる。」と述べられています4。
上記の過労自殺に至るプロセスでも「過重労働」と指摘されていますが、髙橋祥友医師も指摘するように、過労自殺については、長時間労働のみならず、十分な訓練も受けないままに本人の経験や知識をはるかに超えた重い責任を突然背負わされて自殺に至ることや、初めから到底達成不可能な目標を立てさせられてその目標を達成できないことが原因となって自殺に至ることもあれば、不本意な配置転換、退職の強要、職場におけるいじめなどによって自殺に至ることなどもあります5。
また、上記の過労自殺に至るプロセス等ではうつ病について述べられていますが、適応障害、双極性障害や統合失調症等も自殺の危険性がある疾患であり、労災として認定されることもあります。
過労自殺やうつ病等の労災申請への取り組みは、私が弁護士になるずっと前から行われています。それでも、未だに無くなっていません。現在も、長時間労働や、パワハラ、いじめ等の過労によるご相談が多くあります。
ご本人やご遺族に正当な補償・賠償がなされるとともに、少しでも過労死等が減るよう、一人の弁護士として望んでいます。
