令和7年3月26日名古屋地方裁判所判決は、仕事内容や仕事量の変化等から過労自死と判断された事例として本ブログで紹介しております1。
当該判決では、長時間勤務等の量的な過重性も認められているところ、ご遺族と労基署において、労働時間についても応酬がありました。
そのうちの一つが、入門記録・退門記録と、勤怠月報とに齟齬がある場合の労働時間の考え方です。
ご遺族側からは、勤怠月報記載の残業時間が実際よりも過少な時間である旨主張していたところ、当該判決は、まず、入門記録と勤怠月報の記載について、次のとおり判断しました。
「原告は、原則として、入門時刻から10分後を始業時刻とすべきである旨の主張をし、他方で、被告は、原則として、勤怠月報によるべきである旨の主張をする。
この点について検討するに、①ダイクエンチチームは本件担当業務見直し後の11月及び12月にかけて個々の業務量が大幅に増加し、特に繁忙であったこと(認定事実ア(イ))、他方で、②本件会社は月45時間又は月55時間以上の時間外労働を原則禁止していたこと(認定事実ウ(ア))、③Aを含むダイクエンチチーム所属の従業員らは、労働時間の過少申告をしていたこと(認定事実ウ(イ))、④Aの勤怠月報による残業時間は、8月55時間、9月45時間、10月45時間、11月55時間となっており、一貫して、上記の時間外労働時間規制と全く同じ時間となっていること(乙1の1・92頁)がそれぞれ認められる。これらの事実によれば、ダイクエンチチームでは、業務量が大幅に増加した11月頃の前後を通じて、時間外労働を余儀なくされる程度に繁忙な状況にあり、Aは、本件会社の時間外労働時間の上限規制内に抑えるために、自らの労働時間を過少に申告していたことが推認されるから、Aの始業時刻につき、勤怠月報の記載によって、直ちに認定することはできない。
次に、出勤直後におけるAの勤務状況に関し、Eは、Aがダイクエンチチームの事務所に到着後すぐに仕事に取り掛かっていた旨の証言をし(証人E・34頁)、Iも、Aは朝早くに本件会社に出社して20分、30分と何もせずに過ごしていたことはあり得ず、仕事ができる準備が整えば、仕事をしていたはずである旨の陳述をしているところ(甲A51・8頁)、これらの証言及び陳述は、前記にみた事実関係、すなわち、当時ダイクエンチチームは繁忙期でありかつ個々人の業務量がかなり多かったことと整合しているということができ、上記の証言及び陳述のとおり、Aは、出勤してから可能な限り速やかに業務を開始していたと認められる。また、入門時刻が記録される本件会社の正門からダイクエンチチームの事務所までの移動所要時間は徒歩約3分ないし5分程度であること(証人E・34頁、証人H・10頁、甲A51・8頁)が認められる。これらを総合すると、Aは、入門時刻から10分後には業務を開始していたと推認することができる。
よって、Aの始業時刻については、原則として、入門時刻の10分後とするのが相当である。」
次に、当該判決は、退門記録と勤怠月報の記載については、次のとおり判断しました。
「原告は、退門時刻の10分前を終業時刻とすべき旨の主張をし、他方で、被告は、原則として勤怠月報の記載によるべき旨の主張をする。
この点について、H及びIは、退勤時刻を付けた後に、退門までの間に、仕事をすることがあった旨を陳述する(乙1の1・720頁、733頁)。上記(ア)aと同様、勤怠管理システムにおける退勤時刻の記録を直ちに信用することができないことに加えて、実際に、Aが勤怠月報における退勤時刻の後にメールを送信していたこと(乙1の1・463、473、489、510、517、528、558、565、579、590、610頁)が認められることに照らし、退門時刻の直前まで可能な限りの業務を行っていたと認めるのが合理的であり、上記の陳述は信用することができる。同陳述に加え、上記(ア)aと同様、入門記録及び退門記録がされる本件会社の正門からダイクエンチチームの事務所までの移動所要時間が徒歩約3分ないし5分程度であることを総合すると、原則として退門時刻の10分前を終業時刻と認めるのが相当である。」
通常は、少なくとも就業月報の記載のような、会社の勤怠管理システムの出退勤時刻については、労働時間の前提として良いことが多いと思われます。
ただ、実際にはそれ以上の業務を行っていたとすると(出退勤時刻が過少に申告されているとすると)、当該判決の事案のように、申告されていない時間が労働時間か否かが争われ、労働者側が立証を求められることが多いと思われます。
当該判決の事案では、ご遺族側が、労働時間が過少に申告されていた実態や、亡くなられた方の働き方の実態等を主張・立証することで、労基署が主張するような過少申告された内容以上の労働時間を主張・証明しています。証拠(やそれに基づいた十分な分析・主張)が不十分であれば、労働時間が実際よりも少なく認定され、過労自死と認定されなかった可能性もあります。
長時間労働等の量的な過重性があるうつ病や過労自死等の精神疾患の労災申請では、証拠が極めて重要です。弁護士によっても、労災申請前に証拠を集めるか、労災申請をして労基署に調査をさせるか等、進め方が変わってきます(上記の裁判例では、労基署からは、実態よりも過少申告された労働時間を主張されています。)。
労働実態を明らかにすることは、通常、多大な負担が伴います。うつ病や過労自死等の精神疾患の労災申請は、弁護士にご相談ください。
当事務所もご相談をお受けしています。
