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解体工事が行われていたビルでの転落事故での負傷に関する損害賠償請求が認められた事例

2026 1/18
労働問題 労働災害の問題(過労死・過労自殺・過労うつ等)
2026年1月18日
弁護士栄田国良(神奈川県弁護士会所属)

はじめに

 令和4年4月25日東京地方裁判所判決は、会社の従業員であった原告が、解体工事が行われていた鉄筋コンクリートビルにおいて転落する事故に遭って負傷したところ、孫請会社、元請会社、及び下請会社に対して安全配慮義務違反があったとして、不法行為に基づく損害賠償請求をした事案です。

 結論としては、約3800万円の損害賠償請求に対して、約780万円の損害賠償義務が認められています。

事故や原告の負傷状況等

 原告は、ビルの内部から地下1階に転落する事故によって、高エネルギー外傷、右胸椎横突起骨折、両側閉鎖性肺挫傷、脛骨骨折、外傷性脳出血、頭部挫傷及び脳挫傷の傷病を負いました。

 事故態様については労働者と使用者側で事実関係が争点になっていたところ、裁判所は、「原告が本件ビルの内部から地下1階に転落した可能性のある開口部として、本件1階開口部が存するところ(前記第2の2の前提事実(2)エ)、原告が本件事故後に発見された別紙の平面図及び立面図の「墜落地点」と記載のある地点が本件1階開口部の南端の直下に当たること(前記(1)の認定事実ウ)、原告が、C病院において「高さ3mの解体現場2階から半地下」に転落したことを前提に治療を受けており(甲9の3)、本件事故による原告の負傷状況(前記第2の2の前提事実(4))が本件1階開口部からの転落という事故態様とも矛盾しないこと、労基署長作成の意見書(甲1)及び原告の障害補償給付支給請求書に原告が本件1階開口部の端部から誤って転落した旨の記載があること(上記(1)の認定事実オ)などに照らせば、本件事故当日は1階において作業をすることが予定されていなかったこと(上記(1)の認定事実ウ)などを踏まえても、本件事故当日、何らかの理由で本件ビルの1階に立ち入った原告が、本件1階開口部の南端部から誤って地下1階に転落したものと推認するのが相当であり、この推認を覆すに足りる的確な証拠は見当たらない。」と判断しました。

 なお、労災認定され、後遺障害が併合第9級と認定され、同等級に応ずる障害補償給付も支給されています。

安全配慮義務違反について

 原告の使用者であった孫請会社に対しては、次のように判断されています。

 「被告Y1は、解体作業中の本件ビルにおいて原告を含む従業員を作業に従事させていたものであるところ、本件ビルにおいては、本件事故の当日までに本件切下げ工事が行われて本件1階開口部が設けられており、本件1階開口部から高低差約2.7メートルの地下1階に転落する危険性のある状況にあったと認められるから(前記(1)の認定事実ア(ア)、前記第2の2の前提事実(2)エ)、原告を含む従業員が本件1階開口部から転落することのないよう、転落防止のための適切な措置を講じ、労働者の安全に配慮すべき義務を負っていたものと認められる。

 しかしながら、被告Y3は、被告Y2の指示を受けて、本件1階開口部に本件立入禁止措置1及び同2を講じたにとどまり、他に本件1階開口部付近に転落防止用の手すりや囲い等は設置されていなかった上、被告Y1は、本件事故当日、原告を含む被告Y1の従業員に対し、本件ビル1階に立ち入らないよう指示をしたり、本件立入禁止措置1及び同2を超えて本件1階開口部に接近しないよう具体的に指示をしたことはなかったことが認められる(前記(1)の認定事実イ(ア)及び同(イ))。本件1階開口部は、地下1階との高低差が約2.7メートルあり(前記(1)の認定事実(ア))、高さが2メートル以上の開口部で墜落により労働者に危険を及ぼすおそれがあるため囲い等を設けなければならず(労働安全衛生規則519条1項)、その囲い等として、床面からの高さが90センチメートル以上の手すり(中さん等を設けたもの)、囲い等の丈夫な構造の防護設備を設けるものとされていること(建設業労働災害防止規程20条)に照らすと、本件立入禁止措置1及び同2が転落防止のための措置として十分なものであったとは認められない。本件事故当日に具体的な作業が予定されていたのが本件ビルの6階であり、1階において作業をすることが予定されていなかったこと(前記(1)の認定事実ウ)を考慮しても、被告Y1は、原告を含む被告Y1の従業員に対し、本件工事の現場である本件ビル内に存在していた本件1階開口部に接近しないよう、具体的に指示をする義務があったものというべきであり、本件立入禁止措置1及び同2をもって、その義務が尽くされていたということもできない。
 したがって、被告Y1には、原告を含む従業員が本件1階開口部から地下1階に転落することを防止するための安全対策を怠った点において、安全配慮義務違反があったと認められる。」

 元請会社に対しては次のように判断されています。

 「被告Y2は、本件工事の安全管理計画を立案し、被告Y3に対し、毎朝の朝礼後にKY活動を行うこと、本件工事を施工する上で安全対策を取る必要があると判断した場合にはその都度個別に安全対策を取ることを指示しており、本件事故前日には、安全帯を結ぶ親綱を使用する前に損傷の有無を点検するよう指示し、本件事故当日には、解体作業が進むにつれて現場の状況が変化することから、適時に安全対策を行うよう指示していたことが認められる。
 しかしながら、本件1階開口部には、被告Y2の指示により、本件立入禁止措置1及び同2が講じられたにとどまり、他に転落防止用の手すりや囲い等が設置されなかったことは、上記(ア)において認定し説示したとおりである上、被告Y2は、本件事故当日、被告Y3、被告Y1及び原告を含む被告Y1の従業員に対し、本件ビル1階に立ち入らないよう指示をしたり、本件立入禁止措置1及び同2を超えて本件1階開口部に接近しないよう具体的に指示したことはなかったことが認められ(前記(1)の認定事実イ(イ))、本件立入禁止措置1及び同2が転落防止のための措置として十分なものであったとは認められないことは、上記(ア)において認定し説示したとおりであるから、被告Y2は、下請である被告Y3、孫請である被告Y1及び原告を含む被告Y1の従業員に対し、本件工事の現場である本件ビル内に存在していた本件1階開口部に接近しないよう、具体的に指示をするべき義務があったものというべきであり、本件立入禁止措置1及び同2をもって、その義務が尽くされていたものということはできない。
 したがって、被告Y2には、原告を含む被告Y1の従業員が本件1階開口部から地下1階に転落することを防止するための必要な措置を講ずる義務を怠った点において、安全配慮義務違反があったと認められる。

 詳細を割愛しますが、下請会社に対しても、安全配慮義務違反が認められています。

 孫請会社、元請会社や下請会社の安全配慮義務違反が認められた大きな理由は、立入禁止措置や転落防止措置が不十分であったことと考えられます。

過失相殺について

 過失相殺については、次のように判断され、原告の過失が6割とされています。

 「原告は、本件事故当時、8年以上にわたり被告Y1と雇用契約を締結して解体工として稼働しており(前記第2の2の前提事実(1)ア)、本件事故当日は本件ビルの1階において作業をすることが予定されておらず(上記1(1)の認定事実ウ)、1階の南側出入口及び1階スラブ上に本件1階開口部への立入りを禁止する趣旨であることが明らかな本件立入禁止措置1及び同2が講じられていたにもかかわらず(上記1(1)の認定事実イ(ア))、何らかの理由で本件ビルの1階に立ち入り、漫然と本件立入禁止措置1及び同2を乗り越えて本件1階開口部に接近し、本件1階開口部の南端部から誤って地下1階に転落したものであるから(上記1(2)ア)、本件事故の発生につき、原告にも大きな過失があったものといわざるを得ない。上記のような本件事故の態様及び被告らの安全配慮義務違反の内容等に照らすと、原告の過失割合は6割と認めるのが相当である。」

 経験があったこと、工事での必要性がなく立入が禁止されているのに何らかの理由で立入り、漫然と立入禁止措置を乗り越えて落下地点に接近したことが、大きな理由のようです。

損害について

 損害については、逸失利益や慰謝料等の損害の金額が約3800万円とされ、6割の過失相殺後(約1530万円)、労災保険給付金額の損益相殺(損害からの控除)がなされ、約710万円と判断されています。

 そして、弁護士費用相当額として70万円が加算され、合計として、約780万円となっています。

さいごに

 仕事中の転落事故等の会社への損害賠償請求は、弁護士にご相談ください。労災認定を受けると休業補償給付や障害補償給付等を受給できます。ですが、慰謝料や、逸失利益等の損害の全額が労災保険で補償されるわけではありません。

 当事務所もご相談をお受けしています。

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