第1 はじめに
長時間残業、パワハラやセクハラ等によって地方公務員である警察官がうつ病や適応障害等の精神疾患を発病したり、自死した場合、警察官やそのご遺族は、公務災害による補償を受けることができます1。
第2 地方公務員災害補償制度
地方公務員災害補償制度は、地方公務員等が公務上の災害(疾病又は死亡)等を受けた場合に、その災害によって生じた損害を補償し、必要な福祉事業を行い、被災した職員及びその遺族の生活の安定と福祉の向上に寄与することを目的とする制度です。
地方公務員の警察官やそのご遺族は、公務災害の認定を受けることで、補償等を受けられます2。
第3 公務災害認定請求の手続の流れ
1 公務災害認定請求
地方公務員災害補償基金が行う補償は、被災者である警察官又はそのご遺族からの請求によって行われます。
被災者である警察官又は遺族は、地方公務員災害補償基金支部長に対して、被災職員の所属長の証明を受け、任命権者を経由して、その災害が公務災害等であることの請求を行います。
認定請求書は、所属長を通じて、任命権者に提出します。
所属長は、警察署長等です。任命権者は、県警察本部長です。
2 公務災害認定請求の結果
地方公務員災害補償基金支部長は、認定請求について審査を行い、公務災害か否かを判断します。そして、結果は、被災者である警察官又はそのご遺族、及び任命権者に通知されます。
3 補償の請求
被災者である警察官又はそのご遺族は、公務災害等と認定されたものについて、補償の請求書を提出し、補償を受けます。
第4 補償の内容
公務災害と認定されると、被災者である警察官又はそのご遺族は、各種の補償を受けることができます。
例えばパワハラ等による過労自死の場合、被災者である警察官のご遺族は、遺族補償、葬祭補償、遺族特別支給金・遺族特別援護金・遺族特別給付金という補償を受けることができます。
第5 不服申立制度
1 支部審査会への審査請求
被災者である警察官又はそのご遺族は、公務災害等の認定等の決定(過労うつ・過労自死等に当たらないとの内容の決定等)に対して不服がある場合、地方公務員災害補償基金の支部審査会に対して、審査請求をすることができます。
審査請求は、地方公務員災害補償基金支部長の処分があったことを知った日の翌日から起算して3か月以内に行う必要があります。
2 審査会への再審査請求
支部審査会の裁決(過労うつ・過労自死等に当たらないとの内容の裁決)に対して不服がある者は、さらに、本部の地方公務員災害補償基金審査会に対して再審査請求をすることができます。
再審査請求は、支部審査会の裁決があったことを知った日の翌日から起算して1か月以内に行う必要があります。
3 訴訟の提起
審査請求や再審査請求に対する裁決の結果について不服がある者は、訴訟による救済を求めることができます。
訴訟の提起は、支部審査会又は審査会の裁決があったことを知った日の翌日から起算して6か月以内にすることができます。
ただし、審査請求後3か月を経過しても支部審査会による裁決がないときも、訴訟を提起することができます。また、再審査請求をした場合、審査会による裁決を経る前に、訴訟を提起することができます。
第6 さいごに
兵庫県警察事件(2022年6月22日神戸地方裁判所判決)は、国家賠償請求事件ですが、被災者の先輩の行為が、パワハラ行為等に該当し、違法と認められるが、うつ病発病との間の相当因果関係や、うつ病発病と自死との間の相当因果関係が認められないと判断しています。
2025年3月7日最高裁判所第二小法廷判決は、国家賠償請求事件ですが、警部補である被災者の自死直前の1か月間における時間外勤務時間数がその前の1か月間から倍以上に増加して112時間を超え、自死直前の業務の量が従前から行っていた業務に相当程度の負荷を伴う複数の業務が加わることによって大きく増加したといえること、連続勤務も行っていたこと等から、被災者が自死直前に行っていた業務が、被災者に相当程度の疲労や心理的負荷等を蓄積させるものであったということができる等と述べて、被災者の業務が精神疾患の発症及びこれによる自死という結果の発生を招来した関係を是認し得る高度の蓋然性があると認めるのが相当であると述べています。
上記は国家賠償請求の事例ですが、公務災害認定の手続でも、裁判が必要になることがあります。
民間の労働者の労災と同じく、地方公務員の警察官の公務災害も、初動が大事です。発病や業務による心理的負荷の証拠を集めて、法的構成を十分に検討する必要があります。
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- 地方公務員が過労死・過労自殺した場合の公務災害についてもご覧ください。 ↩︎
- 国家公務員である警察官の過労うつや過労自死についても公務災害の制度があります。地方公務員の公務災害とは手続が異なります。国家公務員が過労自死した場合の公務災害についてもご覧ください。 ↩︎
