令和7年11月28日横浜地方裁判所川崎支部判決・中商事件は、巻き込まれ事故の安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求が認められなかった事例です。
【事案の概要】
本件は、原告が、サイクロンコンベアの点検清掃作業中にコンベア内のスクリューに左手を巻き込まれて負傷する労災事故により負傷したことについて、会社に対して、安全配慮義務違反を理由として損害賠償請求した事案です。
【本件判決の判断】
・事故態様についても争点となっていたところ、本件判決は、本件事故が、原告がコンベアのトラフ内の煤塵を送る作業中に、回転しているコンベアCの奥側からスクリューの下に左手を回し入れ、にもかかわらず、目を離したため、トラフ内の煤塵をほぐしていたためにスクリューに左手に装着していたゴム手袋が引っ掛かり、そのまま左手が巻き込まれて発生したものであると認めるのが相当であると判断しています。
・①事故時においてコンベアの清掃作業の作業手順が確立していたこと、安全管理体制がとられていたこと、注意喚起などを行っていたこと、②原告が、本件事故当時、他の労災事故が発生していたことを掲示物を読んで認識していたこと、③原告がコンベアが稼働しスクリューが回転している最中に手を入れて作業をしていたら他の従業員から注意指導を受けたことがあること、④証人が、コンベアの点検清掃作業に従事する作業員に対してコンベアの稼働時に必ず声掛けをして、手を入れないように注意をし、原告にも注意をしたことがあること等を証言していること等が認められる。
会社において、マニュアルが作成されていなくても、作業手順が確立し、作業員に周知されていることで必要十分であるから、マニュアルが作成されていなかった点をもって安全配慮義務違反があったとはいえない。
・本件事故当時、コンベアの清掃作業のうち「送り作業」を行う際にトラフに覆いをつけていれば原告がトラフ内に手を差し入れることができず、事故が発生することはなかった。しかし、①コンベア稼働中にトラフに手を差し入れた場合に巻き込まれる危険性があることは容易に予想できること、②作業手順が確立しており、少なくともコンベア稼働中にトラフ内に手を入れてはいけないことが作業員に周知されていたこと、③「送り作業」の内容からして作業員が誤ってトラフ内に手を入れることが想定し難いことを総合すると、会社は、コンベアの点検清掃作業に従事する作業員がコンベア稼働中にトラフに手を差し入れて作業を行うことを想定することができなかった等からすると、会社に、コンベアのトラフ全体に覆いをする安全配慮義務違反があったとまで認められない。
【さいごに】
墜落、転落、巻き込まれ等の労災事故の場合、労災認定自体は、過労死や過労自死等の労災と比較すると、得られやすいと思われます。
労災保険の休業補償等では、休業損害や逸失利益の全額が補填されず、慰謝料も支払われないため、損害の回復が十分になされません。
損害の十分な回復を求めるためには会社に対する損害賠償請求が考えられます。ですが、本件判決のように、労災と認定されても、必ずしも会社に賠償責任が生じるわけではないことに留意が必要です。
