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【過労死等】うつ病や自死の原因が仕事であると認められ、会社の賠償責任が肯定された事例・令和7年10月3日長崎地方裁判所判決(長崎ヤクルト事件)

2026 3/19
労働問題 労働災害の問題(過労死・過労自殺・過労うつ等) 裁判例
2026年3月19日
弁護士栄田国良(神奈川県弁護士会所属)

 令和7年10月3日長崎地方裁判所判決・長崎ヤクルト事件では、複数の原告から、複数の請求が、会社らに対してなされていました。その一つは、故人の遺族が、故人が会社における過重な業務や故人の上司のパワハラが原因で自死したと主張して、会社らに対して、損害賠償などを求めていた請求です。

 結論として、本件判決では、次の内容等が述べられ、故人が自死した原因が業務によるものと認められ、賠償請求の一部が認められています。

【判決の判断】

・故人にうつ症状が発現した時期は、令和2年10月頃である(もっとも、厳密なうつ発症時期の特定は、そもそも困難である。)。

・結論として、故人は、精神障害の発病前おおむね6か月の間に業務による強い心理的負荷を受けていたと認められる。

・故人が送信した各種LINEトークによれば、故人は、平成29年10月1日付で総務課長に異動した後、慣れない仕事に悪戦苦闘していた。悪戦苦闘する状況は、故人が自死する時点まで継続していた。故人が令和2年8月に増員要求を行った事実も考えれば、当時、故人が自ら処理しきれない質・量の仕事を抱えていたと推認される。

・具体的には、故人は、通常の業務のほかに、①ヤクルトレディに新型コロナウイルス感染症の陽性者が発生したことへの対応(連続勤務も発生)、②社内インフラの更新作業への従事、③改正食品衛生法に基づく衛生管理手法の構築等、相応の負荷が掛かるものと認められる複数の業務に従事していた。

・特に、③改正食品衛生法に基づく衛生管理手法の構築については、令和2年9月以降、「直販ルート」の作業手順書の作成等の業務が加わり、仕事内容及び仕事量に大きな変化があったといえる。また、「直販ルート」の作業手順書の作成に関していえば、作業再開後もほぼ手つかずの状態が継続していたことに加えて、故人が、「仕事自体に自信がない」と訴えていたことも加味すると、当該業務は、故人の経験や能力に照らして、相応の困難性を有する仕事であったことも推認される。

 また、故人の自死前日に行われた社内会議の議題が特に「直販ルート」の作業手順書についてであり、ほぼ手つかずの状態であった故人がしきりに「すみません、すみません」と謝っていたこと等から、「直販ルート」の作成手順の作成は、会社において重要な課題であったと推認される。

・故人の時間外労働時間の状況については、令和2年8月が約50時間、9月が約62時間、10月が約85時間、11月が約82時間であった。

・時間外労働時間の状況も併せて考えれば、客観的にみて、故人は、精神障害の発病前おおむね6か月の間に業務による強い心理的負荷を受けていたものと認められる。

 以上のとおり、亡くなった方が担当されていた業務の困難性や時間外勤務時間数等から、業務起因性(精神障害の発病ないし自死の原因が仕事であること)が認められています。

・さらに、会社の注意義務違反については、電通事件最高裁判決の考え方に沿って、簡単に注意義務違反を認めています。

【さいごに】

 うつ病や過労自死の労災申請や損害賠償請求では、長時間労働に着目されることがあります。しかし、例えば1か月当たりおおむね80時間の時間外勤務があったとしてもそれだけでは労災には届きませんし、会社に対する損害賠償請求も認めれない可能性が高いです。長時間労働の背景には何らかの理由があり、本件判決のように、仕事の困難性等にも着目する必要があります。

 また、長時間労働等の量的な過重性が無くても、強度の質的な過重性が認められる出来事が一つある場合や、そこまではいかなくても相当な負荷がある質的な過重性が複数ある場合等には、労災に届き、会社の注意義務違反が認められる可能性があります。長時間労働がないからといって、それだけでうつ病や過労自死等の労災申請等が通らないかというと、必ずしもそうではありません。

 質的な過重性に関して、本件判決の事案では、ご遺族は、パワハラもあったと主張していました。しかし、本件判決は、故人がご遺族に送ったLINEトークの「とうとう自分にパワハラ始まりましたよー」、「理不尽に突然キレられますね」との内容のものについて、上司の言動の具体的内容等の詳細が一切不明であるからLINEトークの内容から故人が上司からパワハラを受けていたとは認められない等として、結論としては、パワハラを認定できないと判断しています。パワハラについては(も)、具体的な主張や立証が求められます。上記のLINEトークのような内容では、本件判決も述べるとおり、そもそもパワハラがあったとの事実認定が出来ないと判断される可能性があります。仮に事実認定が出来たとしても、具体的な内容や経緯等が明らかでなく、心理的負荷の強度を評価するのが困難だと思われます。

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