令和6年11月1日東京地方裁判所判決労働判例1345号44頁・ギットハブ・ジャパン事件は、コミュニケーションの問題等を理由とした普通解雇が無効であると判断された事例です。
【事案の概要】
事案の概要は、元従業員が、会社に対して、普通解雇が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められないと主張して、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認や、賃金等の請求をした事案です。
次の事実等が認定されています。
・従業員は、令和3年8月、会社との間で、労働契約を締結した。
・従業員は、令和3年9月以降、シニアカスタマーサクセスマネージャーとして業務に従事していた。
・会社は、令和5年3月、従業員に対して、普通解雇する旨の意思表示をした。
・解雇理由証明書では、解雇理由として、次の理由等が記載されていた。
①会社が、従業員の日本語及び英語によるコミュニケーションの問題に気付き、複数回にわたり、従業員の言語能力とそれが戦略的パートナーとの関係にどのような影響を及ぼしているかについて従業員に指導したこと。
②従業員のメールやその他の書面には丁寧さが欠けるだけでなく、時々とても失礼な表現が使われ、読み手にマイナスな印象を与えたこと。
③従業員が、会社の従業員のコロナ感染状況に関する秘密情報を社外の顧客に漏らした。
④会社主催のイベントに関して、従業員に好みや嫌いな食べ物等を尋ねたところ、従業員は、自分を表現して自分の意見をわかりやすく口頭で伝えることができず、周囲を唖然とさせた。
⑤入社以来、従業員が会社の他の部門と良好な関係を構築することができなかった。
⑥従業員は、顧客との良好な関係構築も実現できていなかった。会社は、複数の重要な顧客から、従業員を当該顧客の主担当から外すように要求された。
以上は、解雇理由証明書に記載された解雇理由の一部です。上記のとおり、コミュニケーションの問題等が多数、解雇の理由とされています。
【解雇が無効であること】
本件判決は、次の理由等を挙げた上で、「原告について認めることのできる他部門や他チームに対する配慮不足、柔軟性の不足、連携不足を踏まえても、その内容、頻度、影響に照らすと、被告の就業規則において定める「勤務成績が不良で、改善の見込みに乏しいと認めるとき」」等「に直ちに該当する程度とはいい難く、客観的に合理的な理由を欠くものといわざるを得ないし、また、これをもって本件解雇に至ったことが社会通念上相当であると認めることも困難である」から、「本件解雇は、被告の有する解雇権を濫用したものとして、無効というべきである(労働契約法16条)。
①会社は、従業員が顧客から繁忙であるとの連絡を受けていたにもかかわらず一方的にメッセージを送信し続けたと主張する。しかし、従業員は、顧客から繁忙であるとの連絡を受け、「ご遠慮なく、お手元の用事に集中してください。」等と返信し、その後は改めて打ち合わせ等に関する連絡を行ったのであって、顧客の繁忙度に対する配慮を欠いていたわけではない。
②会社は、従業員が、「健康値」と呼ばれる適切な数値に達していないと勘違いし、会社の同意を得ず、各チームの内部意思疎通を欠いたまま、会社の従業員の名前を勝手に挙げていたと主張する。確かに、従業員の対応には、CSAに対する配慮に不足するところがあったということができる。
③会社は、従業員が、「健康値」の数値の更新について依頼を受けたが、合理的な理由を述べることなく、協力を拒否したと主張する。しかし、従業員は、顧客との間でカスタマーエンゲージメントが始まっておらず、見通しが不十分であり、十分に見極めたうえでスコアを出す必要があるとして、これを否定したものであって、その判断について是非があるとしても、従業員が何ら理由なく協力を否定したものとはいえない。
④会社は、従業員が、会社のルールに反し、他チームと相談せず、顧客との契約を把握することがないまま、契約内容の変更を独断で推奨したと主張する。しかし、全証拠によっても、会社が主張する経緯は認められない(会社が主張する事実自体が認められない。)。
⑤会社は、従業員が、他チームから、漢字やローマ字ばかり用いる文章が日本人にとって読みにくい旨のアドバイスを受けたのに、「カタカナ語は好かん」等と述べて、アドバイスに耳を傾けようとしなかったと主張する。しかし、従業員がスライドの作成に当たり、推敲の過程で日本語の用法や文字の使用において、少なくない執着、こだわりを有し、対応の柔軟性に乏しい点があったことは否定できないけれども、これが直ちに誤りであるとはいえないし、これによって具体的な業務の支障を生じたものともいえない。
⑥会社は、従業員が、会社の内部決定がないことを認識しながら、顧客に対して、システムに関する説明を行い、事後の情報について顧客に伝えず、フォローを行わなかったと主張する。従業員は、顧客に対して、他チームとの具体的な情報共有を欠いたまま、不正確な情報を提供したものであり、事後にその訂正等も行っていないのであるから、CSMの業務として適正に欠けるところがあったといわざるを得ない。
⑦会社は、従業員が、パフォーマンスレビューにおいてコミュニケーション能力の向上を求められたにもかかわらず、週1日程度の出社にとどまり、出社しても、ショッピングサイトを見たり、居眠りをしたりしていた等と主張する。確かに、従業員は、ショッピングサイトを見たり、居眠りをしたりしたこと等があるが、具体的な頻度等が明らかではなく、改善の見込みが乏しく、従業員として全く不適格であるとまではいい難い。
⑧会社は、従業員が、営業部門と顧客のコミュニケーションに割り込んで、営業部門の販売対象ではないサービスを執拗に勧め、顧客を困惑させたと主張する。従業員は、とは別に、営業部門の販売対象ではないサービスを顧客に推奨するメッセージを複数回送信したことがあり、当時原告が受けていたアドバイスからすれば、業務姿勢が未だに改善されておらず、就業規則に定める服務心得に抵触し、他の出来事も考慮すれば、原告には協調性を欠くところがあるということができる。しかし、従業員に関して、当該取引のほかに同様の事象が複数回にわたって発生していたとは認めることができない。
⑨会社は、従業員が、週1回、打合せを行うこと等をアドバイスを受けたにもかかわらず、打合せ等を実施せず、関係改善の努力をしなかったと主張する。しかし、従業員も、営業部門から挑発的な言葉を向けられていた旨を述べており、営業部門との関係悪化が、従業員による業務懈怠やコミュニケーション能力の不足に起因していたものと認めることができない。
本件判決では、上記以外にも、会社が主張する理由について検討しています。そして、上記のとおり、解雇に値するほどの理由がないと判断されています。
【さいごに】
本件では、労働審判が申立てられ、地位確認等が認められる旨の一定の判断が下されていました。その後、裁判に移行しています。
また、コミュニケーション能力や、協調性の欠如、適格性の欠如等は、会社から主張されることが多いように思われます。しかし、実際に解雇に値するほどの理由なのか否かは、吟味が必要です。解雇の場合常に労働者が有利というわけではなく、事案によるので、慎重な対応が必要です。
