令和7年2月13日名古屋高裁決定労働判例1345号12頁は、タイムカード等の証拠保全の申立てが認められた事例です。証拠保全については、【過労死等】うつ病や自死(自殺)等の精神疾患の労災申請における証拠保全とは?においてご説明したように、裁判手続での証拠調べを待っていたのでは証拠調べが不可能か困難となる事情があるときに、(裁判を起こす前に)あらかじめ証拠調べをして、証拠を保全できるようにしておく手続です。
令和7年2月13日名古屋高裁決定労働判例1345号12頁の事案では、ご遺族が、故人について、致死性不整脈を発症し亡くなったとして、安全配慮義務違反を理由として損害賠償請求等の訴訟提起を予定しているところ、故人の長時間労働の立証のために必要な資料であるタイムカード・出勤簿等の資料について、会社による改ざん、破棄又は隠匿のおそれがあるとして、証拠保全を申し立てた事案です。
一回目の判断が下された令和6年12月20日津地方裁判所決定は、証拠保全の申立てを却下しました。その理由としては、以下の4点です。
①会社がご遺族の依頼に応じて、故人が死亡する以前の出勤明細表(7か月分)を任意に開示しているものであること。
②ご遺族側の代理人が求めたその他の資料についても、会社が弁護士を代理人として選任し、労働基準監督署への対応を依頼しているとみられること。
③①と②からすれば、会社がご遺族に対する資料の追加提供を拒否したこと、会社側代理人と連絡が取れない時期があったこと等を考慮しても、証拠保全の対象物について、具体的な改ざん等のおそれがあるということはできないこと。
④申立後の経緯や会社との交渉状況等に鑑みれば現時点において緊急に証拠調べを行う必要性は低下していること。
証拠保全申立てが却下されたので、ご遺族側が不服を申立て、令和7年2月13日名古屋高裁決定労働判例1345号12頁が出され、申立てが認められました。
令和7年2月13日名古屋高裁決定労働判例1345号12頁は、理由としては、以下の3点を述べています。
①故人の実労働時間の把握が重要となると考えられるところ、会社がご遺族に故人の出勤明細表を開示したものの、その記載内容等に照らして、今後、出退勤時刻の正確性等を巡って争われることが予想されること。
②証拠保全の対象物がいずれも実労働時間の把握のために必要な客観的資料であると認められるところ、一般的にみて、従業員の家族であるご遺族に対し開示をすることに支障があるとは認められないこと。
③証拠保全の対象物のうち、さらにタイムカード等の記録の保存期間が3年とされていること。
そして、結論としては、「相手方において、自らに不利な証拠を改ざん、破棄又は隠匿するおそれがあると認めるのが相当であり、現時点にあり、(中略)相手方が弁護士を代理人として選任していることや、労働基準監督署の調査に応じる姿勢を示していることは、上記の認定判断を左右するには足りない。」とされました。
重要な証拠で、任意に開示できるのに合理的な理由なく開示していないことがポイントだったのだと思われます。
本件は、過労死1事案において、実労働時間の証拠の保全が申し立てられた事案です。会社が労基署の調査に応じる姿勢を示していたとしても、適切に協力されるとは限りません。労基署の調査に適切に協力されず、裁判においても会社側が自身が開示した出退勤記録の信用性を争う事態になることも予想されるので、会社との交渉経緯からすれば、証拠保全が認められる事案だと思われます。
うつ病や適応障害等の過労自殺でも、証拠保全が重要になることがあり、会社側から同様の対応をされることも予想されますので、本決定は、過労自殺のご相談でも参考になります。
