令和7年7月16日東京地方裁判所判決は、パワハラ等による慰謝料請求が認められた事例です。
【事案の概要】
本件は、労働者が、会社の従業員として在籍していた頃に、社長からセクハラやパワハラを受けた等と主張して、会社と社長に対して、損害賠償請求をした事案です。以下の内容等が認定されています。
・社長が労働者に対してLINEでメッセージを送信したことを契機として、その後、労働者と社長はやり取りを開始した。やり取りのなかで、社長は、労働者を名前で呼んだり、「何か癒して貰えばと思うけど、X1は彼氏に悪いから」、「X1のこと、好きだよ」、「昨日、銀座のあの料亭へ連れて行ったのは、実は目論見があったんだ」、「彼氏がいるから、男には不足しないだろうけど」、「オレはお前のポッチャリの肉の方がいいんだけど」等のメッセージを送信する等した。
社長は、会社の従業員から労働者が出荷業務への協力を拒否した旨聞き、労働者を含む会社の従業員らに対して、労働者が仕事をしておらず怠慢である旨記載したメールを送信し、労働者がこれに応答しなかったら、「いい根性してる。」と発言した。また、労働者が、社長が出席しなかった朝礼で、「いい根性してる」と罵られたなどと発言したところ、社長は、配置転換を命ずるなどした。
その後も、社長は、労働者に対して、「腹いせにさ、朝礼で、あんなことワーって言いやがって。お前の会社か。俺の会社なんだよ。この会社を自分の思うとおりにしたいのか、お前は。たかが、一従業員のくせに。そんな偉いのか、お前って。何を思い上がってるんだよ。誰も認めねえよ。たった1年ちょっとしかいねえのに。まあな、こういうことを言うとな、パワハラになっちゃうからあんまり言いたくねえけど、とにかく女ってさ、どこの会社でもうちの会社でも、みんな、そうやってさ、仲間作って、徒党組んでさ、いがみ合ってさ、やくざみたいにシマ作ってさ、バトルしてさ、それで辞めてくんだよ。」、「要するにさ、お前のあれだろ、俺の言ってる、憂さ晴らしだろ。社長の俺に挑戦してさ、何よっていうこういうさ、安っぽいさ、下町のばばあの、そういう根性の、あれだろ。」等と発言する等した。
【不法行為の成否】
・労働者は、社長から抱き付かれ、臀部を撫でられ、手を握られ、手の甲にキスをされるなどの身体的接触を受けた旨供述する。労働者の供述は、社長の労働者に対するメッセージ等の経緯からすれば、相応に信用できる。
・無視行為、誹謗中傷行為、暴言があった旨の供述も、客観的事実と整合し、相応に信用できる。
・セクハラ行為については、身体的接触が意に反する性的行為であり、労働者の性的自由を侵害し、一連のメッセージも、社長が労働者を名前で呼び捨てにした上、「彼氏がいるから、男には不足しないだろうけど。」、「何か癒して貰えばと思うけど、X1は彼氏に悪いから」、「オレはお前のポッチャリの肉の方がいいんだけど」等と業務と無関係の内容に言及したりしていたことに加えて、反復継続して行われていたことから、労働者の性的自由を侵害し、不法行為が成立する。
・無視行為も、セクハラ行為を上司に伝えたことに対する意趣返しとして行われたものと認められ、労働者と社長の職場内における上下関係等からすれば、無視行為が性的言動を受け入れないことを理由とする精神的圧力をかけ、就業環境等を著しく害するもので、不法行為に当たる。
・誹謗中傷行為も、社会的評価を低下させるもので、真実であると認めるに足りる証拠もなく、内容や態様からして業務上の必要性があったとはいえないから、不法行為に当たる。
・配置転換命令も、労働者が朝礼において社長から罵られた等と述べた発言に対する意趣返しという不当な動機又は目的をもってされたもので、業務上の必要性も欠くから、配置転換命令権の濫用である。
・暴言については、社長が、労働者が朝礼で社長に対する不満を述べたことを念頭にして女性が反社会的勢力のように勢力争いをする傾向があるとか、社長に対する挑戦が「下町のばばあ」の安っぽい根性によるものである等と述べて、労働者に対する批判や詰問を繰り返したものであり、内容や長時間であったことから、不法行為に当たる。
LINE上のメッセージのやり取りは、当時の記録を証拠として提出して、証明されたようです。暴言については、詳細に、時間まで具体的に認定されています。録音等の客観的な証拠が提出されていた可能性があります。パワハラやセクハラの労働問題では、客観的な証拠がないことも多いですが、客観的な証拠があると見通しを立てやすく、事実認定の部分も有利に進めやすくなる可能性があります。
【損害の金額】
労働者からは約335万円の損害賠償請求がされていました。判決が認めたのは、約130万円の損害賠償です。
労働者からの主張によれば、労働者は、不眠、食欲不振、うつ状態、自律神経失調症等の診断を受けたようです。そして、休業損害として、会社を退職することを余儀なくされた等として、再就職までの7か月間の休業損害を請求していました。また、慰謝料として、100万円を請求していました。
判決は、まず前提として、社長によるハラスメント行為が全体として一連一体の不法行為である、と評価しました。一連一体とみるのか、個別にみるのかで、総合評価が異なることがあります。
また、判決は、労働者がストレス性胃炎等を発症してうつ状態に陥ったこと、自律神経失調症を発症したことと、不法行為との間には、相当因果関係があると判断しました。
そして、判決は、休業損害について、給与2か月分に相当する休業損害を認めています。また、慰謝料について、通院期間等から、60万円の慰謝料を認めています。
判決の事案では、いわゆるうつ病等の精神障害の労災におけるうつ病や適応障害等の精神障害を発病していたとまではいえないことが前提になっていると思います。うつ状態にとどまり、うつ病や適応障害等を発病したとは判断されていません。自律神経失調症も、労災の補償の対象になる病気ではありません。
それでも、相当な休業損害や慰謝料が認められているように思われます。それほど、社長によるパワハラやセクハラの被害が重大で、被害者の被害が大きかったと評価されたのだと思われます。
なお、例えば、同程度のパワハラやセクハラがあったとしても、被害者が何らかの発症をしておらず、通院もせず、退職もしていなかった場合には、同程度の損害が認められるとは限りません(というよりも、認められない可能性があります。)。
パワハラやセクハラの損害賠償請求や労災申請は、弁護士にご相談ください。
