令和7年10月10日静岡地方裁判所判決の事案は、静岡県警に所属し、警部の地位にあった警察官が、県警本部の上司等から違法な降任勧奨を受け、真意に基づかない自主降任の申出をさせられた等と主張して、静岡県に対して国家賠償請求等をした事案です。
判決は、結論として、原告の請求の認めませんでした。
例えば会社員に対する退職勧奨は、原則としては適法ですが、一定の場合には違法性が認められます1。本件では、地方公務員の自主降任の申出に関して、降任勧奨の違法性が問題となっていました。
判決は、降任勧奨の違法性に関して、次のように判断しました。
【降任勧奨の違法性の判断に関する判決の要旨】
・退職勧奨あるいは降任勧奨は、これに応じるか否かが対象とされた者の自由意思に委ねられるべきものであるから、退職勧奨あるいは降任勧奨に際して、対象とされた者の自発的な退職あるいは降任意思の決定を促すために相当と認められる限度を超えて、不当な心理的圧迫を加える等して、自由な意思決定を困難にすることは許されない。
相当と認められる限度を超えた降任勧奨等は、不法行為を構成する。
・警部補への自主降任をすることは、原告の明示の意思には合致していなかった。しかし、次に続く事情等から、結論としては、社会通念上相当と認められる限度を超えたものであるとはいえず、違法な行為とはいえない。
・当時の客観的状況として、原告のうつ病の療養期間が相当程度長期間になっていたこと等や、原告の職場復帰訓練中の執務状況が警察組織の求める警部職としての役割を十分に果たせているとは評価できない状態であり原告がその自覚が乏しかったこと、被告警察官らが原告が再度の体調不良に陥る可能性を懸念していたこと等といった事情が存在していた。
そういった事情があったことに照らせば、原告の心身の安全に配慮すべき立場である上司らが現実的な選択肢として自主降任を検討するように働き掛けることには十分な合理性があったということができる。
・自主降任の勧奨が、約半年間で5回で、回数が特に多いとはいえない。実施された時期も、職場復帰訓練の終了に合わせる等、長期間にわたり継続的な自主降任の勧奨が執拗に行われたということもできない。特に4回目、5回目の自主降任勧奨は、最終的には原告の意向に沿った形で警部職での職場復帰が果たされた直後、体調不良を来して連続で有給休暇を取得するようになったという、ある意味で想定していた懸念が現実化したという状況下において、現状を踏まえて行われており、合理的理由や必要性があった。
・降任勧奨の機会における被告警察官らの言動も、概ね平穏かつ理性的に行われている等の事情もある。
以上のとおり、原告の主張が認められませんでした。しかし、そもそも降任勧奨の態様等について、事実関係から争いがあったようです。録音等も提出されていたようですが、原告の主張を裏付けるものとは評価されなかったようです。退職勧奨に限った話ではないですが、実態があるかと、認定されるか(証拠があるか)は分けて考える必要があります。退職勧奨等は、面談等で行われることが多く、録音等の証拠がなければ、実際にどのようなことを言われて、どのような対応を取られて、どれくらい長く勧奨されたのか等が認定されない可能性があります。ですので、証拠として残しておくことが極めて重要になってきます。
また、原告の体調が、降任勧奨の合理性、必要性を基礎付けています。しかし、降任勧奨を受けることも、原告の体調に影響を及ぼすのではないかと思われます。精神疾患の労災の認定基準でも、退職強要等について、心理的負荷(ストレス)を与える出来事として例示されています。労災の認定基準の観点から評価した時にどの程度強い負荷があったといえるのかは別途難しい問題がありますが、少しでも影響を受けることは考えられると思います。
