令和5年9月26日福岡高等裁判所判決労働判例1321号19頁は、故人が右被殻出血を発症し死亡したことについて業務起因性が認められるか、具体的には、「長期間にわたる長時間の業務その他血管病変等を著しく増悪させる業務による」ものか否かが問題となった事例です。
一審判決ではご遺族側の主張が認められませんでしたが、控訴審判決ではご遺族側の主張が請求が認められ、労災と判断され、労基署による労災不支給決定処分が取り消されました。
労災に当たるか否か(業務起因性)については、次のとおり述べられています。
「(1)長期間の過重業務について
ア 本件疾病発症前6か月間における亡Bの1か月当たりの時間外労働時間数は、発症1か月前97時間58分、2か月前50時間13分、3か月前67時間37分、4か月前82時間11分、5か月前94時間06分、6か月前97時間20分であり、発症1か月前及び6か月前はほぼ100時間に及んでいたほか、5か月前は90時間を、4か月前は80時間を超えていた。また、発症前6か月間の平均時間外労働時間は81時間に達し、発症前2か月間ないし5か月間の平均時間外労働時間もいずれも70時間を超えている。
したがって、認定基準に照らしても、亡Bは、時間外労働の点において、発症前の長期間にわたって疲労の蓄積をもたらす加重な業務に従事していたといえる。
イ 亡Bは、平成25年10月20日から同年11月1日までの13日間、同年11月25日から同年12月6日までの12日間、平成26年1月6日から同月18日までの13日間、同年2月12日から同月22日までの11日間、同年3月3日から同月14日までの12日間に、それぞれ10日を超える連続勤務を行っていること、本件疾病発症前1か月の間に勤務間インターバルが11時間未満の日が7回存在していること(中略)が認められ、このような勤務状況は、亡Bの疲労の回復を阻害し、疲労を蓄積させたものと考えられる。
また、亡Bは、本件疾病発症の9日前である平成26年3月25日から翌26日未明にかけて、18時間01分に達する長時間の労働を行っており、その内容も、取引先でのトラブルの対応という突発的かつ重要なもので、精神的な負荷が大きなものであったと考えられる。そして、次の勤務まで5時間程度しか勤務間インターバルがなかったこと、その前日(同月24日)の時間外労働時間が約5時間30分、その翌日(同月26日)の時間外労働時間が4時間30分であったことなどからすれば、同月30日が休日であったことを踏まえても、疲労蓄積の負荷を看過することはできない。
(2)そして、亡Bは、懇親会等においては付き合い程度に飲酒をしていたものの、その他の場面では特に飲酒をしておらず、従前、1日10本に満たない程度のたばこを吸っていたが、平成25年4月頃から禁煙していたこと、平成25年8月の健康診断においては、血圧が高めとの注意を受けたものの、その数値は基準値をわずかに上回るにとどまっていたことなどの事実が認められるところ、飲酒や喫煙についてその程度が著しいものとはいえないことなどに照らすと、これらの事情が、本件疾病が本件会社の業務に起因して発症したことを否定するに足りるものとまでは認め難い。
(3)以上によれば、発症前6か月間の亡Bの時間外労働時関数が長時間であったことに加え、連続勤務及び勤務間インターバルの不足などの負荷要因があったこと、亡Bに本件疾病が本件会社の業務に起因して発症したことを否定すべき特段のリスクファクターも見当たらないことを総合的に考慮すれば、(中略)本件疾病の発症は、業務に内在する危険が現実化したことによるものと認めるのが相当であって、業務起因性が認められる。」
現行の「血管病変等を著しく増悪させる業務による脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準」(基発0914第1号令和3年9月14日別添)12では、長期間の過重業務(発症前の長期間にわたって、著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務)に就労したことについて、原則として、発症前おおむね6か月の期間における、労働時間、休日のない連続勤務、勤務インターバルの短い勤務、心理的負荷を伴う業務等を踏まえて、業務の過重性が評価されます。
現行の認定基準の内容に則っても相当程度の過重性が認められると思われる上記の内容の労働実態があったにもかかわらず、本件判決の事案では、労災不支給決定が出され、審査請求及び再審査請求も棄却され、行政訴訟において一審では敗訴しています。ご遺族側が諦めていたら、労災と認定されることはなかったですが、本来であれば、労災申請の段階で労災支給決定が出されるべきだと思われます。
過労死等の労災申請等は、ご自身で難しい場合には、弁護士にご相談ください。
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