仕事内容や仕事量の変化がストレスになる?
厚労省の精神障害の労災の認定基準では、「仕事内容・仕事量の大きな変化を生じさせる出来事があった」ことが、仕事による心理的負荷を与える具体的出来事の一つとして挙げられています。
そして、認定基準の別表の「業務による心理的負荷評価表」では、心理的負荷(ストレス)の強度を「強」と判断する具体例として、「過去に経験したことがない仕事内容、能力・経験に比して質的に高度かつ困難な仕事内容等に変更となり、常時緊張を強いられる状態となった又はその後の業務に多大な労力を費やした」ことや、「仕事量が著しく増加して時間外労働も大幅に増える(中略)などの状況になり、業務に多大な労力を費やした(中略)」等が挙げられています1。
過労自死事件である2025年3月26日名古屋地方裁判所判決は、仕事内容や仕事量の変化等から、「Aの時間外労働時間数は、発病前2か月(10月)では30時間47分であったが、発病前1か月(11月)では約3倍に相当する85時間32分となっており、このような労働時間の大幅な増加は、それ自体、相当程度の心理的負荷がかかるものであったといえる。そして、このように時間外労働時間が大幅に増加したAの業務の内容をみても、上記(3)イで認定及び判断をしたところによれば、Aには、従前経験したことのない不慣れな業務や困難な業務を複数行うことになったことや、生産準備が遅れていたことによる心理的な負荷が重なっていたと認められる。これらのことに加え、従前はあまり経験のなかった遠方への宿泊付きの出張も重なるようになったこと、このような宿泊付きの出張業務に従事する中で11月22日から同月30日までの9日間、土日祝日における休日もなく連日の勤務を余儀なくされていたことを総合的に勘案すれば、その仕事内容・仕事量の変化に係る心理的負荷の強度は、「強」と認めるのが相当である。」と述べ、労災であったと判断しました。
仕事内容の変化の具体的な判断
上記の裁判例では、上述のとおり、時間外労働時間数が発病前2か月の時間から、発病前1か月では約3倍に相当する約85時間になり、仕事量の大幅な増加が認定されています。
以下では、上記の裁判例の仕事内容の変化についての具体的な判断をご紹介いたします。
「イ 仕事内容の変化について
原告は、Aが、本件担当業務見直しにより、過去に経験したことのない仕事内容、能力・経験に比して質的に高度かつ困難な仕事内容等に変更となり、常時緊張を強いられ、又はその後の業務に多大な労力を費やした旨の主張をする。他方で、被告は、Aの生産準備という業務内容に大きな変化はなかった旨の主張をする。
以下、本件担当業務見直し後のAの担当業務について検討する。
(ア)CJ59Cの生産準備について
Aは、本件担当業務見直しにより、CJ59Cを担当することになったところ、①Aは、従前よりJ系の生産ラインである本社9号ラインないし11号ラインの担当を行ってきており、その他の生産ラインの経験がなかったこと(認定事実イ(ア))、②本社9号ラインないし11号ラインは、CJ59Cを含むその他の生産ラインとは異なり、加熱方式やプレス方法が異なるものであったこと(認定事実イ(ア))がそれぞれ認められる。また、上司のFは、Aは「本社でJ系の仕事をずっとしていたので、本人にとってはほかのラインでの仕事が初めてで、そういう部分でいうと慣れていないということはあったと思います」と陳述し(乙1の1・699頁)、また、同僚のEは、上記の担当業務がAにとって新しい業務であったと思う旨の証言をしている(証人E・45、46頁)。上記の業務内容の変化並びに上司及び同僚の証言等を総合すると、Aがダイクエンチについて経験を有していたことを踏まえても、CJ59Cの担当業務は、Aにとって、過去に経験したことのない新しい業務であり、不慣れであったことにより、心理的負荷が高いものであったと認められる。また、CJ59Cが通常よりも生産する部品の個数が多い上に納期が短かったこと(認定事実イ(イ)a(a))による心理的な負荷も重なっていたことがうかがわれる。
他方で、被告は、ダイクエンチにおける金型やブランクの調整作業(トライ)は経験を積むことにより習熟するので、身体的・心理的負荷が軽減していくところ、Aはダイクエンチについての経験を有していたことから、CJ59Cの業務は、Aにとって心理的負荷が高いものとはいえない旨の主張をする。
確かに、Eは、トライの作業について習熟すれば回数を減らすことができる可能性があり、また、トライ中に考えることを端的に考えられるようになるため心理的負荷が軽減する旨の証言をする(証人E・2頁)。しかし、他方で、Hは、経験を積んでもトライの回数や悩みが減るものではない旨の証言をしており(証人H・23、24頁)、経験の多寡が必ずしもトライの回数に反映されるとは限らないことがうかがわれるし、また、上記のとおり、AにとってCJ59Cの生産業務は経験のない新しい業務であることを踏まえると、Aのダイクエンチに係る経験をもって、その心理的負荷が低いものであったということはできない。
これに加えて、Aは、本件担当業務見直しの前において出張業務がほとんどなかったことに争いはないところ、その後、11月30日までの間に限っても、約1週間の間に2回出張したことになり、その勤務形態、作業環境(使用する設備)等の変化があったことを考慮すると、Cにおける仕事は、Aにとって大きな変化であったというべきである。
(イ)本社J59Cについて
Aは、本件担当業務見直しにより、本社J59Cを担当することになったことが認められるところ、これは、上記(ア)と同様に、Aにとって、経験のない業務であったことが認められる。これに加えて、①製品の形状が、「花開き」という特殊な形状であって、本件会社でも初めて生産するものであったこと(認定事実イ(イ)a)、②これにより、生産拠点をどこにするかの決定が遅れたために、その生産準備が遅れていたこと(認定事実イ(イ)a(b))がそれぞれ認められ、Aにとって新規性のある業務であり、かつ、困難な業務であったことがうかがわれる上に、生産準備の遅れによる心理的な負荷があったというべきである。
他方で、被告は、生産準備の遅れについて、取引先との折衝等についてはEが担当していたから、Aにとってこれによる心理的負荷は高いものではない旨の主張をするが、仮に取引先との折衝を担当していなかったとしても、担当者としてのプレッシャーになること自体は否定し難い。
(ウ)本社工場の安全・環境・BCP(事業継続計画)の推進業務について
認定事実イ(イ)cによれば、①本件会社は、当時、BCP(事業継続計画)を推進しており、その流れがダイクエンチチームにも広がってきたため、Aが、本件担当業務見直しの際に、その担当に割り当てられたこと、②Aは、その業務の一環として、関連企業であるL株式会社との間で、11月10日に会議を開催する段取りをつけていたが、日程が合わず、実施されなかったことがそれぞれ認められる。これらの事実に照らせば、Aは、新規の取組みの担当となり、実現こそしなかったものの、会議の段取りを組む等、過去に経験したことがない仕事内容に労力を割いていたことが認められる。」
さいごに
仕事量の変化(残業の増加や、長時間の残業)は、客観的な証拠の積み重ねによって立証していきます。
仕事内容の変化についても、客観的な証拠によって証明する必要性が高いです。それとともに、一緒に働く同僚や上司から見て、どの程度の変化があり、どの程度の負荷があったと思われるのかという証言もあると、どれだけ大変だったかが裁判官(や労基署の担当者)等により伝わりやすくなります。
労基署等は、本人にとって負荷が小さかった等と反論することがあります。上記の裁判例でも、そのような反論がされています。同じ事実を見ていても、評価が異なる反論をされることがあります。
ですので、労災請求前に証拠をできるだけ集めて、どれだけ大変な変化があったのかを主張することが重要です2。
うつ病の労災申請や、過労自死の労災申請は、弁護士にご相談ください。
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