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会社からの退職の要求(退職勧奨)

2025 7/24
労働問題 労働契約終了に関する問題(辞職、退職勧奨、解雇、整理解雇等)
2025年7月24日
弁護士栄田国良(神奈川県弁護士会所属)

第1 退職勧奨とは

 退職勧奨(たいしょくかんしょう)とは、労働者の辞職や合意解約の申込み等を促すことです。要は、退職を勧めたり、求めることです。退職勧奨を行うこと自体は、基本的には自由であると考えられています。

 会社が労働者を辞めさせる方法として、解雇があります。解雇は、会社が労働契約を一方的に終了させることです。他方で、退職勧奨は、一方的に終了させることではないです。

 例えば社長や上司が「辞めてもらう。」、「退職してもらうしかない。」等と言った時に、それが解雇なのか、退職勧奨なのかの区別が重要になります。

 というのも、解雇は労働契約を一方的に終了させることであり、解雇され、納得できずに法的に争う場合には、不当解雇の効力を争う必要があります1。

 不当解雇の効力を労働者側から争われることは、会社にとっても、法的なリスクになります。解雇した場合の敗訴リスクが大きいこと、敗訴した場合の会社の不利益が大きいことや、裁判の費用や労力の負担が大きいことが指摘されることもあります2。そこで、会社としては解雇を行うには法的にリスクがあるものの、会社にとって会社の業務における適性があるとは認められない労働者に対して、円満な形で雇用契約を終了させたい場合等に、退職勧奨が行われます3。

 ですが、退職勧奨は、退職を勧めたり、求めるにとどまり、労働者は、退職に応じる義務がありません。

第2 退職勧奨に違法性が認められる場合

 退職勧奨を行うことは、基本的には自由であると考えられています。

 しかし、社会的相当性を逸脱した態様での半強制的や、執拗な退職勧奨が行われた場合には、退職勧奨を受けた労働者は、会社に対して、不法行為として、損害賠償請求をすることができます4。

 退職勧奨の違法性が認められた裁判例は複数あります。

 例えば、昭和52年1月24日広島高等裁判所判決労働判例345号22頁は、以下のとおり判示しています(昭和55年7月10日最高裁判所第一小法廷判決が是認)。

 「これを本件退職勧奨についてみるに、・・・被控訴人らは第一回の勧奨(二月二六日)以来一貫して勧奨に応じないことを表明しており、特に被控訴人らについてはすでに優遇措置も打切られていたのにかかわらず、八木らは被控訴人坂井に対しては三月一二日から五月二七日までの間に「一回、同河野に対しては三月一二日から七月一四日までの間に一三回、それぞれ市教委に出頭を命じ、八木ほか六名の勧奨担当者が一人ないし四人で一回につき短いときでも二〇分、長いときには二時間一五分に及ぶ勧奨を繰り返したもので、前年度(昭和四三年度)までの被控訴人らに対する勧奨の回数は校長によるものを含めても二、三回あったのに対比すると極めて多数回であり、しかもその期間も前記のとおりそれぞれかなり長期にわたっているのであって、あまりにも執拗になされた感はまぬがれず、退職勧奨として許容される限界を越えているものというべきである。また本件以前には例年年度内(三月三一日)で勧奨は打切られていたのに本件の場合は年度をこえて引続き勧奨が行なわれ、加えて八木らは被控訴人らに対し、被控訴人らが退職するまで勧奨を続ける旨の発言を繰り返し述べて被控訴人らに際限なく勧奨が続くのではないかとの不安感を与え心理的圧迫を加えたものであって許されないものといわなければならない。

 さらに八木らは右のような長期間にわたる勧奨を続け、電算機の講習期間中も被控訴人らの要請を無視して呼び出すなど、終始高圧的な態度をとり続け、当時「組合」が要求していた宿直廃止や欠員捕充についても、本来本件退職勧奨とは何ら関係なく別途解決すべきき問題であるのに、被控訴人らが退職しない限り右の要求には応じられないとの態度を示し、被控訴人らをして、右各問題が解決しないのは自らが退職勧奨に応じないところにあるものと思い悩ませ、被控訴人らに対し二者択一を迫るがごとき心理的圧迫を加えたものであり、また被控訴人らに対するレポート、研究物の提出命令も、その経過にてらすと、真にその必要性があったものとは解し難く、いずれも不当といわねばならない。」

 他にも、平成26年2月27日京都地方裁判所判決労働判例1092号6頁は、以下のとおり判示しています。

 「退職勧奨の態様が、退職に関する労働者の自由な意思形成を促す行為として許容される限度を逸脱し、労働者の退職についての自由な意思決定を困難にするものであったと認められるような場合には、当該退職勧奨は、労働者の退職に関する自己決定権を侵害するものとして違法性を有し、使用者は、当該退職勧奨を受けた労働者に対し、不法行為に基づく損害賠償義務を負うものというべきである(ママ)

 これを本件についてみると、・・・原告に対する退職勧奨については、合計5回の面談が行われ、第2回面談は約1時間、第3回面談は約2時間及び第5回面談は約1時間行われている。そして、第2回面談では、Dは、原告が、退職勧奨を拒否した場合、今後被告としてどのように対応するのか聞いたところ、退職勧奨に同意したら自己都合退職になる、そうでない場合は解雇である、解雇の条件の通常の業務に支障をきたしているというのにあてはまると思う旨述べ、また、原告が、休職という手段はなく、選択肢としては合意するか解雇かの2つなのかと尋ねたところ、Dは、基本はそうなる、会社として退職勧奨するのはそういうことである旨述べるなどしており、退職勧奨に応じなければ解雇する可能性を示唆するなどして退職を求めていること、第2回面談及び第3回面談で、原告は自分から辞めるとは言いたくない旨述べ退職勧奨に応じない姿勢を示しているにもかかわらず、繰り返し退職勧奨を行っていること、原告は業務量を調整してもらえれば働ける旨述べたにもかかわらずそれには応じなかったこと、第2回面談は約1時間及び第3回面談(ママ)約2時間と長時間に及んでいることなどの諸事情を総合的考慮すると、退職勧奨を行った理由が原告の体調悪化に起因するものであること、第5回面談で原告は被告代表者に退職勧奨はするが解雇はしないということを確認したことなどを勘案しても、被告の原告に対する退職勧奨は、退職に関する労働者の自由な意思形成を促す行為として許容される限度を逸脱し、労働者の退職についての自由な意思決定を困難にするものであったと認められ、原告の退職に関する自己決定権を侵害する違法なものと認めるのが相当である。」

 なお、本件では、退職勧奨による精神的苦痛に対する慰謝料について、以下のとおり判示されています。

 「原告は、本件の退職勧奨により精神的苦痛を被ったと認められるところ、上記退職勧奨の態様、退職勧奨を契機として体調がさらに悪化し休職に至ったこと等諸般の事情を考慮すると、かかる精神的苦痛に対する慰謝料は30万円とするのが相当である。」

第3 退職勧奨を受けたら

 社長や上司等から退職勧奨をされても、退職に応ずる義務はありません。会社を辞めたくないのであれば、その旨伝えても構いません。執拗に退職勧奨をされる場合には、違法性が認められる可能性もあります。

 また、退職も考えられるのであれば、無条件で退職される方もいれば、退職条件を交渉される方もいます。

 退職勧奨の退職条件(解決金)の相場については、統計等が存在するわけではないのですが、3か月から6カ月、1年程度等と述べられることがあるように思います。ちなみに、仮に不当解雇の効力を労働審判で争う場合、解雇無効を前提とすると、バックペイも含めて、半年分から1年分程度の解決金で解決される例が多いように思われるとの指摘があります5。

 上記の裁判例では30万円の慰謝料が認められています。賃金相当額の逸失利益の賠償について、解雇であれば認められやすいが、退職勧奨では慰謝料が認められる傾向があるとの指摘もあります。ただ、この指摘については、退職勧奨が争われた事案の多くが在職中あるいは退職勧奨と無関係に離職しており、請求も慰謝料のみの事案が多いことから疑問が残るとの指摘もあります6。

 執拗な退職勧奨に対して中止を求めたり、慰謝料を請求することや、退職条件を交渉することは、弁護士もできます。一人では対応が難しい場合には、弁護士にご相談ください。弁護士は、未払いの残業代や、過労うつ等の労災申請等への対応も可能です。

 当事務所もご相談をお受けしています。

     

    1. 会社から不当解雇された場合の労働者の対応 ↩︎
    2. 西川暢春.問題社員トラブル円満解決の実践的手法 訴訟発展リスクを9割減らせる退職勧奨の進め方.株式会社日本法令,2021.10,p.4‐9 ↩︎
    3. 岡芹健夫.労働法実務使用者側の実践知.株式会社有斐閣,2019.12,p.349 ↩︎
    4. 佐々木宗啓他編.類型別労働関係訴訟の実務改訂版Ⅱ.株式会社青林書院,2021.6,p.540 ↩︎
    5. 君和田伸仁.労働法実務労働者側の実践知.株式会社有斐閣,2019.12,p.213 ↩︎
    6. 須藤典明.労働事件事実認定重要判決50選.株式会社立花書房,2017.10,p.328 ↩︎
    労働問題 労働契約終了に関する問題(辞職、退職勧奨、解雇、整理解雇等)
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