うつ病や自死等の労災の認定基準では、長時間労働による心理的負荷等について、以下等の考え方が示されています。
1か月におおむね80時間以上の時間外労働を行った⇒心理的負荷の強度が「中」と判断
発病直前の1か月におおむね160時間を超えるような時間外労働を行った⇒極度の長時間労働で、心理的負荷の強度が「強」と判断
例えば、1か月におおむね80時間の残業をしたとしても、それだけでは、心理的負荷の強度が「中」程度しかなかったと判断され、原則として、労災と認定されません。
80時間の残業に至る背景にはノルマや、繁忙期など、様々な事情があることがあり、残業以外にも仕事による心理的負荷の強度が少なくとも「中」程度と評価される出来事がある場合があります。とすれば、総合評価することで、労災に届くことがあります。
ですので、残業の時間だけが問題となる場合は限られてくるのですが、例えば、1週間や2週間に80時間の残業を行った場合、(残業の時間だけを見たときに)どのように評価されるのでしょうか。
1週間や2週間に80時間の残業というのは、そのままのペースで1か月残業が続けば、1か月160時間以上になります。ただ、労災の認定基準では、1週間や2週間で80時間の残業時間をどう評価するかは、明記されていません。
実際に1週間で80時間の残業がどの程度のイメージになるかというと、労災では、1週間に40時間を超える時間が残業の時間になります。1週間に80時間の残業だとすると、40時間勤務+80時間の残業で、120時間の労働時間です。120時間÷7日だと、1日あたり約17時間の仕事です。9時から22時までの仕事で、休憩が1時間だとすると、12時間の仕事です。そこにさらに5時間の仕事が加わります。
令和5年報告書1では、「極度の長時間労働」について、「本件検討会は、平成23年報告書と同じく、極度の長時間労働、例えば数週間にわたる生理的に必要な最小限度の睡眠時間を確保できないほどの長時間労働は、心身の極度の疲弊、消耗を来し、うつ病等の原因となると考える。」、「臨床経験上、発病直前の1か月におおむね160時間を超えるような時間外労働を行っている場合や、発病直前の3週間におおむね120時間以上の時間外労働を行っているような場合には、ここでいう「心身の極度の疲弊、消耗を来し、うつ病等の原因となる場合」に該当するものと考える。」と記されています。
平成23年報告書では、平成11年報告書と同じ考え方をしていると記されています2。平成11年報告書では、「特に、極度の長時間労働、例えば数週間にわたる生理的に必要な最小限度の睡眠時間を確保できないほどの長時間労働は、心身の極度の疲弊、消耗をきたし、うつ病等の原因となる場合があることが知られている。」と記されています3。
「数週間にわたる」との具体例からすると、1週間というのは、該当しないようにも思われます。
ただ、実際のところ、例えば1週間休日なく1日当たり17時間労働というのは、心身に疲労を相当程度蓄積させるように思われます。
令和5年報告書を取りまとめた専門検討会の座長を務めた黒木医師も、著書において、急性ストレス反応の症例として、「ある都市の大地震以降、全市的にほぼ断水状態となるなど甚大な被害を受けた水道復旧業務のため、不眠不休状態で勤務にあたり、連日事務所に泊まり込みオペレータを統括する業務にあたっていた」「被災職員」の事例について、「症例の発症直前1週間の時間外勤務は実に80時間にも及び、発症するまでの間、帰宅できたのは2日のみであり、まさに不眠不休の状態で業務を続けていたのである。」等と述べられています4。
例えば1週間におおむね80時間もの残業になる場合には、通常、余程の事情(ノルマなどの長時間労働以外の質的な過重性)もあることが多いのではないかと思われます。
しかし、背景事情を立証できず(認定されず)、時間数で勝負せざるを得ない場合もあるかとは思います。労災の認定基準やその考え方、医学的な知見から、考えていく必要があります。
- https://www.mhlw.go.jp/content/11201000/001139689.pdf ↩︎
- https://www.mhlw.go.jp/content/11201000/001445621.pdf ↩︎
- https://www.mhlw.go.jp/content/11201000/000912343.pdf ↩︎
- 黒木宣夫『「PTSD診断と賠償」~臨床医によるPTSD診断と賠償及び補償の留意点~』163頁から164頁(株式会社自動車保険ジャーナル、平成15年) ↩︎
