過労死等に携わっていると、理性的な自殺や覚悟の自殺といった表現を聞くことがあります。過労自死される方は、理性的な自死や、覚悟の自死をされたのでしょうか。
張賢徳医師は、なぜ自殺予防が必要なのかという文脈において、根本のところで「自殺は個人の決断だから、周りがとやかく言うものではない」という認識が存在しているのであれば、本気で自殺を防ごうという機運は盛り上がらないのである。この「個人の決断」という言葉には、「理性的な決断」という意味が含まれている。」と述べられています。1
また、張医師は、自殺対策基本法「のなかで、自殺予防の根拠として、自殺は社会的な苦境のために心理的に追い込まれた末の死であるという点があげられており、だから社会を挙げて取り組もうという内容になっている。(中略)「追い込まれたのは確かにかわいそうだ。でもやっぱり、最後は自分で決めたのだから・・・」と、個人の理性的な決断に帰せられる余地を残してしまうからだ。」とも述べられています。2
そして、張医師は、うつ病等の自殺の危険性を述べた上で、「理性的な自殺は確かに存在するが、その数は圧倒的に少ないのである。自殺者の大多数は自殺時に何らかの精神障害の状態にあった。そして、程度の差はあれ、理性的とは言えない状態にあった。これこそが、自殺は防がれるべき対象だという理論的な根拠なのである。」と述べています。3
張医師は、自身も調査に携わる等しており、解離仮説を述べられた方です。解離仮説は、①自傷行為中には解離状態が生じている、②自傷行為中の解離状態が強いほど、自傷による身体重症度が重い、③解離状態への親和性が強いほど、自傷行為を起こしやすい、というものです。張医師は、自殺未遂者へのインタビューを進める中で、多くの人が自殺行為直前に自殺念慮が強く高まり自殺することしか頭にない興奮状態になっていたこと、ある人たちが自殺行為時の自らの行動を思い出せなかったこと等に気づいておられました4。
以上のように、確かに理性的な自死が存在するものの、過労自死の場合にも理性的な自死といえるのかはよく考える必要があるように思われます。【過労死等】過労自殺のプロセス?でも述べたように、過労自死の労働問題の実務上も、うつ病等の自殺念慮の症状がある精神疾患には自死の危険性があることから、労働者が仕事でうつ病等を発病しないよう、使用者が業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負うと考えられています。
