令和5年3月23日大阪地方裁判所判決判例タイムズ1521号169頁は、大学職員の自死が労災か否かが争点となった事例で、結論として、過労自死と認めませんでした。
大きな争点は2つあります。
1点目は、精神疾患の発病時期です。当時の労災の認定基準は、発病後の悪化の場合、現在の労災の認定基準よりも条件が厳しく、「特別な出来事」である「心理的負荷が極度のもの」に該当する出来事が認められることが必要でした。本件判決は、ご遺族側が主張する発病時期よりも早い時期に発病時期を認定し、認定した発病後の幹事長からの叱責や、約91時間の長時間労働等が「心理的負荷が極度のもの」には該当しないと判断しました。
発病時期がご遺族側が主張する時期であった場合には、当時の認定基準でも、結論が変わっていた可能性はあります。
2点目は、発病前おおむね6か月の仕事による強い心理的負荷の有無です。連続勤務、労働時間数等が争点となっていますが、以下では労働時間の考え方については触れます。ご遺族側は、主張する発病時期の前1か月間におおむね160時間を超える時間外労働をしていた等と主張していました。発病前1か月間におおむね160時間を超える時間外労働は、「心理的負荷が極度のもの」に該当します。
大学出勤日の労働時間数については、所定始業時刻・終業時刻、勤怠管理ソフト上の始業時刻・終業時刻、パソコンのログオン・ログオフ時刻等の時刻があるところ、次のとおり判断されています。
「亡Aの所定始業時刻は午前9時であり、亡Aは、本件大学への出勤日について、午前9時より前に出勤していたことが多かった(別紙2「労働時間比較一覧表」の「打刻一覧表」)ものの、本件大学が午前9時前に労務提供するように明示又は黙示に指示したことを認めるに足りる証拠はないから、亡Aの始業時刻は、午前9時とするのが相当である(別紙4「裁判所が認定した労働時間一覧表」の「認定根拠」欄に「所定」と記載した日)。ただし、4月3日及び6月23日については、勤怠管理ソフトに午前9時よりも遅い始業時刻が入力されているから、これによるのが相当である。」
「本件大学においては、勤怠管理ソフトの入力による労働時間の管理がされていたところ、亡Aが、自ら業務終了である旨を入力していることからすると、その退勤の入力時刻をもって終業時刻と認めるのが相当である。なお、勤怠管理ソフトに入力された退勤時刻からパソコンのログオフ時刻までの時間の乖離が生じている日が多く、その乖離が1時間を超える日が数日あるが、業務終了後、パソコンのログオフ操作をしないまま食事に出かけたことがあることがうかがわれる(甲32・22頁)ほか、亡Aは、退勤入力後、ファッション関係の企業のホームページ等にアクセスしており(乙1・373、374、433~533頁)、業務との関連性はうかがわれないことから、私的閲覧であったと推認できる。このほか、亡Aは、本件大学相撲部のОBであり、6月13日に開催された同相撲部90周年の記念行事や日本相撲連盟の理事に就いており、これらの事務を遂行していた可能性も考えられる。そうすると、勤怠管理ソフトに入力された退勤時刻とパソコンのログオフ時刻に乖離があるとしても、そのことをもって亡Aの終業時刻をパソコンのログオフ時刻や鍵簿の鍵の返却時刻によって認定すべきであるとはいえない(中略)。」
上記の判断の前提として、次の事実等が認定されています。
「その当時、本件大学においては、勤怠管理ソフトの入力による労働時間管理がされており、その具体的な手順は、①出勤時にパソコンを起動させ、勤怠管理ソフトを開いて、「出勤」ボタンをクリックし、②退勤時に勤怠管理ソフトを開いて、「退勤」ボタンをクリックし、パソコンをログオフした後、退勤するというものであった(乙1・357~365、369、711~718頁、乙8)。」
「校友課の職員は、勤怠管理ソフトの出勤時刻の入力後、所定始業時刻(午前9時)までは自由に過ごしており、亡Aも、所定始業時刻から勤務を開始していた(乙1・743、744、757頁)(なお、本件大学が、亡Aに対し、午後10時を超えて勤怠管理ソフトに退勤の入力をしないよう指示していたことを認めるに足りる証拠はない。)。」
そして、結論として、亡くなる前1か月間の時間外労働時間数が約91時間と判断されています。
パソコンのログオンから始業時刻までの間、勤怠管理ソフト上の退勤後からログオフまでの間のパソコンのログ、ファイルの作成やメールの送信状況等まで明らかになっているのかは、定かではありません。「退勤入力後、ファッション関係の企業のホームページ等にアクセスしており」との記述からすると、検索履歴やアクセス履歴等が存在するのだとは思います。
職場での労働時間も、所定労働時間、自己申告時間、パソコンの動作時間等の作業時間、入退館時間等に乖離があることがあります。そういった場合に、入退館記録やパソコンのログイン・ログオフ記録だけで、労働時間の認定を勝ち取れるかというと、必ずしもそうではありません。
労災請求にあたって、十分に証拠を集め、分析する必要があります。
うつ病や過労自死等の労災申請は、弁護士にご相談ください。
