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自死を労災と認めなかった事例・令和7年3月5日東京地裁判決

2026 1/31
労働問題 労働災害の問題(過労死・過労自殺・過労うつ等) 裁判例
2026年1月31日
弁護士栄田国良(神奈川県弁護士会所属)

概要

 令和7年3月5日東京地方裁判所判決の事案は、故人のご遺族が、故人の自死について名古屋西労働基準監督署長が労働者災害補償保険法に基づく遺族補償給付等の支給しない旨の決定に対して、当該決定の取消を求めた裁判です。

 当該判決は、結論として、故人の自死が労災に当たらないと判断しました。

 時系列は、概ね以下のとおりです。

 平成30年4月 故人は、会社に入社し、研修等を受けた。会社は、建築工事及び土木工事に関する請負等を行う企業でした。

 平成31年4月 故人は、名古屋FMセンターへ配属された。

 令和元年7月 故人は、双極性感情障害の診断を受けた。

 令和元年12月 故人は、双極性感情障害の診断を受けた。

 令和2年1月 故人は、自死した。

発病時期について

 うつ病や過労自死等の精神障害の労災の認定基準では、原則として、うつ病等の精神障害の発病前おおむね6か月の業務による心理的負荷が評価されます。発病時期によって、評価される内容が異なります。

 双極性感情障害の発病時期について、原告は令和7年の診断時又はその直前に、被告は令和元年5月頃には発病していたと主張していました。

 裁判所は、次の内容等を理由として、「Bの言動及び状態やBを直接診察したH医師の意見に照らし、Bの双極性感情障害の発病時期は遅くとも令和元年5月上旬であると認められる。」と判断しました。

 「Bは、遅くとも平成31年4月下旬頃には、同年3月までと比べ、一方的に自分の話をすることが増え始めていたと認められる。また、その頃には業務中に喫煙等のために多数回かつ長時間の離席をするようになっている。こういったBの様子は、多弁や注意散漫、観念奔逸といった、双極性感情障害の躁状態時の症状に該当するとみることができる。」

 「Bは、医師から双極性感情障害と診断を受ける以前の、ゴールデンウィークが明けた令和元年5月上旬頃から、過活動や睡眠欲求の減退等、自身が通常とは異なる状態であったことを自覚しており、そのことを医療機関や健康管理室に対し、伝えていた。」

 「H医師は、Bを直接診察した上で、Bの主訴及び母親とのメール等のやりとり、本件会社の同僚等の第三者によるBの言動の印象等を考慮し、Bが双極性感情障害を発病した時期について、令和元年5月上旬である旨推定した。H医師による推定の前提となっているB自身の主訴の内容が、本件会社の同僚らによる令和元年5月前後のBの様子の印象や、Bと原告や母親との間のLINE等のやり取りの内容と相反するものではなく、Bを直接診察した、D医師及びF医師によるBの双極性感情障害の発病時期についての意見と矛盾するものでもないこと等からすると、H医師による発病時期の推定は、十分な根拠を有し、信用できるものであるといえる。」

 双極性障害に限らず、少なくとも診断日には発病していたといえたとしても、実際の発病時期が診断日以前であることはよくあります。メンタルクリニックや心療内科等を受診する際、問診票に症状を自覚した時期を記入したり、主治医に話すことがあります。さらには、ご家族や同僚等から見たご様子の変化の時期もあります。そのような情報から、発病時期が判断されてしまいます。

 一般論としては躁状態に見える状態が双極性障害の症状によるものかは吟味が必要だと思われ、病名自体を争う余地があったのかが気になるところですが、故人の生前に複数もの医者が双極性感情障害と診断されているようですから、双極性感情障害だったのだと思われます。

仕事による心理的負荷(ストレス)について

 当該判決では、転勤については、次のとおり評価されています。

 「Bは平成31年3月までは、本件会社の大阪本店において勤務しており、同年4月1日から、名古屋FMセンターの配属となり、この配属に伴い、Bは名古屋に転居している。Bは名古屋FMセンターの事務2グループにおいて、それまでに経験していない業務を担当することとなった。もっとも、Bは業務を担当するに当たって、JやKが隣の席にいる状態で引継ぎを受けており、引継ぎ後もBが業務を行っていた席の周辺には、経験のある同僚や上司がいる状態であり、業務を進める中でわからない点がある場合には、同僚や上司に確認することは容易な状態であったといえる。
 また、Bは、新人には対応が難しい近隣対応や収益予想等の業務は担当しておらず、Bに業務を引き継いだJやKも、その時点では、名古屋FMセンターでの勤務経験は2年であり、Bと業務経験に大きな差があったわけではなかった(乙10~15)。
 そのため、名古屋FMセンターへの転勤は、Bが過去に経験したことのない業務を担当することになるものではあったが、1年間の研修終了直後という当時のBの経験等に応じた通常の転勤と評価することができる。」
 「イ 以上によると、Bは双極性感情障害の発病前6か月の間に転居を伴う転勤があったと認められ、この出来事は、本件認定基準別表1の特別な出来事以外の具体的な出来事のうち、「17 転勤・配置転換等があった」に該当し、その心理的負荷の程度は「中」を超えるものではないといえる。」

 労働時間については、次のとおり判断されています。

 「Bは、平成31年4月から令和元年5月にかけて、配属となった名古屋FMセンターにおいて、二人の同僚から仕事を引き継いだ。もっとも、二人の仕事の全量を引き継いだのではなく、二人の同僚が担当していた業務のうちのそれぞれ半分程度を引き継ぐものであったといえ、複数名が担っていた業務を一人で担当することになったとはいえない。」

 (中略)

 「令和元年5月上旬(1日~10日)の中で、前6か月間の時間外労働時間が最大になる同月10日を基準日とした、前6か月間のBの時間外労働時間は以下のとおりである。

発病前期間    1か月     2か月     3か月    4か月    5か月     6か月
時間外労働時間数 21時間25分 10時間00分 8時間00分 3時間30分 39時間35分 7時間40分」

 「Bの双極性感情障害の発病前6か月の時間外労働時間は最長でも39時間35分であり、業務量が過重であったとは認められない。また、Bが担当することになった業務の内容や、時間外労働時間数に照らすと、本件認定基準別表1の特別な出来事である「極度の長時間労働」には該当せず、特別な出来事以外の具体的な出来事の「11 仕事内容・仕事量の大きな変化を生じさせる出来事があった」又は「12 1か月に80時間以上の時間外労働を行った」のうち、心理的負荷の程度が「中」以上となる出来事にも該当しない。」

 結論として、仕事による強い心理的負荷があったとは認められず、自死が労災とは認定されませんでした。

 ご遺族は、「Bは、令和元年5月の連休後には、施工事務の経験がないにもかかわらず、それまで二人で担っていた施工事務の業務を一人で担当することとなった。そのため、令和元年5月以降のBの時間外労働時間は増加し、平成31年1月21日から令和元年7月19日までの労働時間は別紙2-4~2-9のとおりとなった。」と主張していました。発病時期が令和元年7月頃の診断日又はその直前であれば、結果が変わっていた可能性もあります。

 ご遺族が主張されている労働時間がどの程度認定されているのかまでは分かりませんが、双極性障害とご遺族が主張する労働実態が矛盾するとも限らず(躁状態で仕事が出来ていた(量をこなすことができていた)可能性もある。)、やはり、発病時期が大きなポイントだったのではないかと思われます。

さいごに

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