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過労自死裁判においてパワハラの存在が否定された事例

2026 1/28
労働問題 ハラスメントに関する問題(パワハラ、セクハラ、マタハラ、カスハラ等) 労働災害の問題(過労死・過労自殺・過労うつ等) 裁判例
2026年1月28日
弁護士栄田国良(神奈川県弁護士会所属)

 令和6年2月2日釧路地方裁判所判決は、自死した地方公務員のご遺族が地方自治体に対して、パワハラ等により故人が精神疾患に罹患して自死したとして、国家賠償請求をした事案です。

 結論としては、被告は、故人が1か月当たり平均100時間を超える時間外労働に従事していたことや、労働管理の点において国家賠償法上の違法及び過失があったこと等を積極的に争っておらず、国家賠償請求は、認められています。

 ですが、パワハラの存在は、認められませんでした。

 被告は、二度にわたり、弁護士に対して(恐らく異なる法律事務所の弁護士)、自殺が業務が原因か否かの調査を依頼したようです。

 一つ目の報告書は、上司が故人を大きな声で怒鳴りつけたりした情報等が確認できたとの内容でした。二つ目の報告書は、上司によるパワハラの存在が否定されていました。

 判決では、パワハラの存在については、次のように報告書の内容等も指摘した上で、否定されています。

 「E報告書(甲2)には、亡Aの上司が大きな声で怒鳴りつけたり、無視・暴言があったとする情報や、飲み会での送迎を依頼していたとの情報が確認できたなど、Bのパワーハラスメント行為に関連する指摘がある。
 しかし、同報告書の該当部分をみると、そこでいう情報が確認できたとは、そのような趣旨の話をした職員がいたことを指しており、その話の真偽について更に検討した様子はうかがわれない。そもそも同報告書は、主として、業務と自殺との因果関係の有無の観点から、業務による心理的負荷について検討し、その中で上記情報が確認できたとしているにとどまり、正面からパワーハラスメント行為の存否を検討してはおらず、上記情報の内容の真偽や、パワーハラスメント該当性については触れていない。また、同報告書には、「加害者の懲戒処分」について言及する部分もあるが、「今後の改善等に向けた取り組みの必要性」の中で、「パワー・ハラスメントやアルコール・ハラスメントを防止するため、適切に調査し、対策がとれるよう取り組む必要がある。」との記載に続いて述べたものであり、「加害者」がBを指すとか、同報告書の調査・検討結果をもってBに対して懲戒処分が可能であるなどと直ちには解されない。加えて、同報告書によっても、具体的な状況や、Bの言動がどのようなものであったのかなどが明らかではなく、Bの指導等が、業務上の必要性を欠くものであるとも、また態様において相当性を欠いていたとも認められないのであって、同報告書の記載をもって、Bにおいて違法なパワーハラスメント行為に及んだとの事実を認めることはできない。」

 「G報告書(甲3)には、Bが亡Aに対して時折厳しい言動を伴う指導を行っていた旨の指摘のほか、亡AがBに対してあまり良い感情を抱いておらず、何かと気を遣う必要がある苦手な存在であった旨の指摘などが存在する。しかし、同報告書自体がBによる違法なパワーハラスメント行為を否定している上、同報告書によっても、具体的な状況や、Bの言動がどのようなものであったのかが明らかではなく、そうした指導等が、業務上の必要性を欠くものであるとも、また態様において相当性を欠いていたとも認められないのであって、同報告書の記載をもって、Bにおいて違法なパワーハラスメント行為があったと認めることはできない。」

 以下はパワハラと主張された行為の一つの行為に対する判断です。調査報告書の内容に対する判断もそうですが、パワハラによる過労うつ・過労自死の主張・立証のハードルの高さを窺わせます。

 「Dの証言ないし陳述書(甲20)によれば、上記ア記載の叱責により、亡AとBとの関係がその後数日の間険悪になったとは認められるものの、Bが亡Aとの間で業務上必要な会話すらしていなかったなどの事情を認めるには足りないことに加え、その1か月後には亡AとBとの間のLINEにおける連絡は再開されており(乙4)、上記ア記載の叱責に起因してBが亡Aに対して継続的に暴言や無視等のパワーハラスメントに該当する行為をしていたとは認められない。その他、Bが亡Aに対して継続的に暴言や無視を繰り返したことを認めるに足りる的確な証拠はない。
 他方で、前記認定事実(2)のとおり、Bは、平成31年1月から3月までの間に、他の職員がいる場で、亡A及び臨時職員に対し、大きな声で叱責したことが認められる。Bが、他の職員の前において亡Aに対して大声で叱責したことは、態様において必ずしも適切であったとはいえないものの、当時、商工観光課が所管していたふるさと納税に係る業務に関し、亡Aの報告ミスを指摘するものであったこと(証人B、弁論の全趣旨)を踏まえると、業務上の必要性が肯定できる一方で、Bにおいて、亡Aの人格を否定する発言があったとか、執拗で継続的であったなど、業務上の指導の範囲を逸脱する態様であったことを裏付ける事情は認められないから、上記の叱責が社会通念上許容される限度を超えるものとは評価できない。なお、原告らは、亡AがBに対して謝り続けたことをもって、上記の叱責が執拗な態様であった旨主張するが、長時間執拗に叱責したことや亡Aが謝り続けていたことを裏付ける客観的な証拠はないことに加え、仮に亡Aが謝り続けていたとしても、どの程度重大なミスか、初めてのミスかなどによって叱責への対応は変わり得るし、業務上のミスを指摘されたことに対して自責ないし反省の気持ちから、謝罪を繰り返したということも考え得ることからすれば、亡Aが謝り続けていたことをもって直ちにBの叱責が執拗な態様であったとは認められない。
 以上によれば、本件行為②につき、Bにおいて違法なパワーハラスメント行為があったとはいえない。」

 特に亡くなれている場合は難しいことが多いのですが、パワハラについては、具体的に事実関係を主張する必要があります。例えば「高圧的な態度」、「叱責された」、「怒鳴られた」等というだけだと、それらがパワハラに当たるのかも、パワハラに当たるとして心理的負荷がどの程度なのかも(労基署や裁判官には)判断できないと思われます。

 その上で、証拠が必要です。心理的負荷の強度が強といえるほどの事実関係を主張したとしても、証拠がなければ、事実として認定されない可能性が高いです。

 パワハラの労災申請や訴訟では、実態の把握、証拠収集が極めて重要です。

 パワハラによる過労うつや、過労自死は、弁護士にご相談ください。

 当事務所もご相談をお受けしています。

     

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