はじめに
うつ病や自死(自殺)等の精神疾患の労災申請では、残業、ノルマ、仕事内容の変化等の仕事での心理的負荷(ストレス)を裏付ける証拠を集めることが重要です。
そして、仕事に関する記録が会社にあることが多いところ、うつ病や適応障害等の精神疾患で休職中の場合や、自死(自殺)された方の場合、会社から証拠を手に入れる必要があることが多いです。
会社との交渉で証拠を集めることもありますが、会社が証拠を任意に開示しない場合には、証拠保全という裁判所の手続を利用することも考えられます1。
証拠保全とは?
証拠保全とは、「あらかじめ証拠調べをしておかなければその証拠を使用することが困難となる事情があると認めるとき」(民訴法234条)に行えます。
本来であれば裁判を起こして、裁判手続の中で証拠調べをすることが想定されています。ですが、裁判手続での証拠調べを待っていたのでは証拠調べが不可能か困難となる事情があるときには、将来の裁判手続で証拠調べができなくなってしまう事態が考えられます。そこで、(裁判を起こす前に)あらかじめ証拠調べをして、証拠を保全できるようにしておく手続きとして、証拠保全という手続があります。
検証による証拠保全
証拠保全による証拠調べの方法には様々な方法がありますが、その一つが、検証です。検証は、証拠がある場所(例えば働かれていた職場等)に裁判官とともに行って、証拠を保全する手続です。例えば、パソコンに関する記録、出退勤記録、入退館記録、メールの送受信記録等の保全を求めることができます(弁護士にご依頼されている場合には、弁護士が現地で手続に対応します。)。
検証による証拠保全は、会社が証拠を改ざん・廃棄等をするおそれがある場合等に認められます。例えば会社が任意に(交渉で)記録を十分に開示するような場合には、改ざん・廃棄等のおそれが認められず、証拠保全の申立てが認められない可能性があります(そのような場合にはそもそも証拠保全を申し立てなくても証拠を保全するという目的を達成できます。)。
証拠保全を申し立てるべきか否かについて弁護士によっても判断が分かれる場合もありますが、会社が任意に開示しない場合には法的な手続で保全を求めることができますので、うつ病や自死(自殺)等の精神疾患の労災申請を考えていて、手元に十分な証拠がない場合には、証拠保全の申立ても検討すべきだと考えています。
さいごに
うつ病や自死(自殺)等の精神疾患の労災申請は、手元に証拠がなくてもそれだけで諦める必要はありません。うつ病や自死(自殺)等の精神疾患の労災申請をお考えの場合、弁護士にご相談ください。
当事務所もご相談をお受けしています。
- 精神障害の労災の労災請求の手続の流れ
残業代請求でも証拠保全の活用が考えられます。労働者の会社に対する残業代請求の手続の流れ、手元に証拠がない場合の会社に対する残業代請求 ↩︎
