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うつ病や自死等の労災申請・損害賠償請求・安全配慮義務違反等、解雇・退職勧奨、残業代請求等の労働者側の労働問題を主に取り扱う栄田法律事務所(神奈川県横浜市)です。 | うつ病や自死の労災申請等の労働問題なら栄田法律事務所へ
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「お前こんなこともできないのか」等との叱責等による心理的負荷(ストレス)がうつ病を発病させる程度であったとはいえない等として労災と認められなかった事例

2025 10/15
労働問題 労働災害の問題(過労死・過労自殺・過労うつ等) 裁判例
2025年10月15日
弁護士栄田国良(神奈川県弁護士会所属)

 うつ病・適応障害の発病や、過労自死(自殺)の労災申請においては、長時間の残業、上司からのパワハラ、厳しいノルマ等による心理的負荷(ストレス)があったということを、労働者が主張立証する必要があります。

 そして、厚労省の精神障害の労災の認定基準では心理的負荷(ストレス)を与える出来事が例示されており、例示されている出来事の心理的負荷(ストレス)の程度も記されています。

 労働者やそのご遺族は、厚労省の精神障害の労災の認定基準も参照しながら、心理的負荷(ストレス)の程度を主張立証することになります。

 ただ、あくまで例示とはいえ、例示されている出来事を参照する場合にも、実際にどの程度の心理的負荷(ストレス)と評価されうるか、実態をどこまで証明できるかは、十分に検討する必要があります。

 令和5年4月13日東京地方裁判所判決は、休業補償給付不支給処分取消請求事件で、被災者が発病した軽症うつ病エピソード等の発病時期等も争点となっていました。

 当該裁判例は、次のように述べて、長時間の残業、休日がない勤務、上司からのパワハラ、ノルマ等について、うつ病等の精神疾患を発病させるほどの心理的負荷(ストレス)があったとはいえないと判断しています。

 証拠がないとの理由で被災者が主張する事実が認定されていない部分があります。また、それなりに酷い上司からの叱責や、休日のない勤務等の心理的負荷(ストレス)の程度も、そこまで評価されていないようです。

 「原告が発症した本件疾病①は、労基法施行規則別表第1の2の9号所定の「精神及び行動の障害」に該当するものと認められるところ、これが対象疾病に該当すると認めるためには、当該疾病が「人の生命にかかわる事故への遭遇その他心理的に過度の負担を与える事象を伴う業務による」ものであることが必要である。
 しかして、原告は、前記3において認定し説示したとおり、平成26年9月12日頃に本件疾病①を発症したものと認められるから、以下では、かかる疾患が上記の要件を満たすものとして業務起因性を有するか否かについて検討する。
 ア 原告の労働時間について
 前提事実等によれば、原告が本件疾病①を発症したとみられる平成26年9月12日頃以前の6か月間における1か月ごとの時間外労働時間(週40時間を超える労働時間数をいう。以下同じ。)は、以下のとおりであったものと認められる(別紙4参照)。そうすると、原告の本件疾病発病前1か月の時間外労働時間は80時間以上となっており、本件認定基準に照らせば、かかる出来事の心理的負荷の程度は「中」と評価される。
    発病前1か月  84時間44分
    発病前2か月  34時間22分
    発病前3か月  38時間54分
    発病前4か月  69時間57分
    発病前5か月  41時間55分
    発病前6か月  36時間03分
 イ 平成26年6月2日から同月13日までの12日間連続勤務
 前提事実等によれば、原告は、平成26年6月2日から同月13日までの12日間の連続勤務を行ったことが認められるところ、これを具体的にみるに、証拠(甲1〔41頁〕、甲2〔623頁〕)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、休日出勤ができなくなった同僚に代わり、本来休日であった平成26年6月7日及び同月8日を含む同月2日から同月13日までの12日間連続して本件事業場に出勤し、沖縄プロジェクトの接続テストの準備等を行ったこと、上記の12日間における原告の具体的な労働時間は別紙4(4枚目)記載のとおりであったことが認められる。以上によると、上記の期間における連日出勤は、仕事内容及び仕事量の変化を生じさせるものであるといえ、労働密度が特に低かったとまでは認め難く、また、原告の同月7日(土曜日)の出勤も上司から出勤を禁じられていたにもかかわらずあえて出勤したものともいえないが(前記1(4)ア)、前提事実等において認定したとおり、上記の期間中の原告の具体的な労働時間は、同月12日の終業が深夜となったものの、その余の日は深夜まで残業するといったことはなく、また、同月7日の出勤時刻は午後0時45分であるなど1日当たりの労働時間数が連続して長時間に及んでいたとまではいえないこと、連続出勤の後は、同月13日から15日までの3日間、同月21日から24日までの4日間の連続休暇を取得していることなどを考慮すれば、かかる出来事の心理的負荷の程度は、本件認定基準に照らし、「中」から「弱」の程度を超えないものと認められる。
 ウ D1係長によるパワーハラスメントについて
 原告は、平成26年8月頃以降、D1係長から、毎日のように怒鳴られたり、大声で叱責されたりしたほか、人格を否定する発言を受けた旨を主張する。
 しかしながら、前記2(3)において認定し説示したとおり、D1係長は、原告を指導する際、「X1ぃ」と大きな声で呼びつけて「お前こんなこともできないのか」等と叱責したり、原告に対して「なよなよしてる」、「しゃっきっとしろ」などと発言したことが認められるが、それ以外の原告主張の発言等があったと認めることは困難である。しかして、上記のD1係長の発言は、D1係長が、一見厳つい風貌で声も大きく、相手に威圧感を感じさせるところがあったこと(乙33、証人Q1調書〔11頁等〕)に照らし、原告の主観的な受止めとして一定の心理的負担を感じるということがあったことは否定できないとしても、業務上明らかに必要がなく又は業務上の目的を逸脱した指導であったとまでは解し難いから、かかる出来事の心理的負荷の程度は「弱」を超えるものではないといわざるを得ない。
 エ 原告が関連した業務に関する損失の発生の有無について
 原告は、平成26年10月下旬に沖縄プロジェクトと△△プロジェクトのトラブルの対応をしたが、これにより本件会社の経営に影響するほどの特に多額の損失が生じた旨を主張する。
 しかして、上記の出来事は本件疾病①の発症後の出来事であるから、本件疾病①の業務起因性の有無を判断する上での考慮要素とはなり得ないといわざるを得ない。この点をしばらく措くとしても、本件全証拠を子細にみても、沖縄プロジェクトや△△プロジェクトにおける不具合の発生に関して本件会社に特に多額の損失が生じたことを認めるに足りる的確な証拠はない。したがって、原告の上記主張は採用することができない。
 オ 達成困難なノルマが課されたこと
 原告は納期に間に合わせることが極めて困難な状況となっていた沖縄プロジェクトに追加で参加することになり、その業務をこなすために相当の長時間労働を行っており、短期間で納期に間に合わせることが常態化していた旨を主張する。
 しかしながら、前提事実等によれば、沖縄プロジェクトの納品は依頼者との関係で期限内に履行できなかったとは認められない。この点、沖縄プロジェクトはシステム稼働日直後に不具合が発生し、原告を含む要員がその対応に追われるということがあったことは認められ、また、業務としてプロジェクトに参加する以上、プロジェクト要員として一定の業務上の責任を負うことはあり得るが、特に原告がプロジェクトの完遂について責任を課せられていたと認めるに足りる的確な証拠はない。したがって、原告が、本件会社から達成困難なノルマを課されていたとは認め難く、沖縄プロジェクトの要員としてその達成を求められた点を心理的負荷として評価したとしても、その程度は「弱」を超えるものではないといわざるを得ない。
 カ 支援の有無について
 原告は、本件事業場では上司が厳しい納期に追われ、原告のような新人社員からの質問に丁寧に答えることができる状況ではなく、新人社員に業務を丸投げし、できなければ叱責するという常況にあった旨を主張する。
 しかしながら、前提事実等によれば、原告の指導係となったS1及びD1係長は、それぞれの指導方針や指導方法の違いはあったとしても、本件会社に採用されて間もない原告に対して相応の指導を行っていたことが認められ、他に本件全証拠を子細にみても、原告に対する支援や指導がされていなかったことを認めるに足りる的確な証拠はない。したがって、原告の上記主張は採用することができない。
 キ 総合評価
 前記アないしカの事情を総合すれば、原告は、本件疾病①を発症した平成26年9月12日頃の直前6か月の間、発病前1か月に84時間44分の時間外労働を行い、発病前4か月の時期に12日間連続勤務を行ったものの、その翌週及び翌々週にはまとまった休暇を取得しており、また、直属の上司からの叱責はあったものの業務上の指導の範囲を逸脱するものとはいえず、沖縄プロジェクト等の納品が期限を経過したなどを理由に原告が個人責任を追及されるような状況にもなかったことがうかがわれるから、これらの出来事の心理的負荷の程度は「中」から「弱」にとどまり、発症前6か月間に原告において業務による強い心理的負荷があったとは認め難いものといわざるを得ない。
 したがって、原告が平成26年9月12日頃に本件疾病①を発症したことについて、平均的な労働者を基準とし、原告の置かれた具体的状況における心理的負荷が、客観的にみて、また、医学経験則に照らして、当該平均的な労働者にも精神障害を発病させるに足りる程度に過重なものであったとは認められないから、本件疾病①について業務起因性がある旨の原告の主張は採用することができない。」

 うつ病等や過労自死(自殺)の労災申請は、生活の保障や会社に対する責任追及をするため等にも、必要な手続です。ただ、実際に労災申請をするか否かを判断する際に、労災に届く可能性があるか否かの情報が必要です。私も、証拠がないとの理由で被災者やそのご遺族が訴える実態を証明できなかった(事実として認定してもらえなかった)ことがあります。労災申請前にできるだけ証拠を集めて、具体的な見通しを立てることが重要です。

 うつ病等や過労自死(自殺)の労災申請は、弁護士にご相談ください。

 当事務所もご相談をお受けしています。

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