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うつ病や自死等の労災申請・損害賠償請求・安全配慮義務違反等、解雇・退職勧奨、残業代請求等の労働者側の労働問題を主に取り扱う栄田法律事務所(神奈川県横浜市)です。 | うつ病や自死の労災申請等の労働問題なら栄田法律事務所へ
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パワハラによるうつ病・適応障害や過労自死(自殺)の労災申請ではパワハラの経緯等が重要であること

2025 10/12
労働問題 ハラスメントに関する問題(パワハラ、セクハラ、マタハラ、カスハラ等) 労働災害の問題(過労死・過労自殺・過労うつ等) 裁判例
2025年10月12日
弁護士栄田国良(神奈川県弁護士会所属)

はじめに

 精神障害の労災の認定基準では、上司等からのパワハラによる心理的負荷(ストレス)も、仕事における心理的負荷(ストレス)として評価されています1。

 上司等からのパワハラのみでうつ病等の労災や過労自死(自殺)と認められることもあれば、それ以外のノルマ、長時間残業、休日出勤等の心理的負荷(ストレス)も考慮されてうつ病等の労災や過労自死(自殺)と認定されることもあります。

 上司等のパワハラ等によるうつ病や過労自死(自殺)の労災申請では、①上司等のパワハラ等の実態がどのようなものであったか、②実態を評価した時に心理的負荷(ストレス)の強度の程度がどの程度になるか、③実態を立証できるか等が問題となります。

 上司等からのパワハラ等の実態を立証できる可能性があるとして、上司等からのパワハラの心理的負荷(ストレス)の強度の評価が容易ではないこともあります。

 例えば、上司から「殺すぞ」、「アホ」等と叱責されていたとしても、叱責に至る経緯等が異なれば、労基署による心理的負荷(ストレス)の評価が異なる可能性があります。

 パワハラによる心理的負荷(ストレス)の強度を適切に評価するには、その表現や内容だけでなく、パワハラに至るまでの経緯等を十分に検討、立証、評価することが必要です。

 平成29年4月26日大阪地方裁判所判決は、労災保険の休業補償給付が認められなかった事案です。

 同事案において被災者は様々な主張をされていたのですが、次に述べるように、社長が、被災者に対して、「殺すぞ」、「殴ったるで」といった脅迫的言動を用いたり、「馬鹿」、「アホ」、「人間力ゼロ」、「恥」といって被災者を侮辱し、人格や人間性を否定し、かつ、机を多数回叩いたり、怒鳴ったりしたことについても、心理的負荷の強度が「中」程度と評価されています。

 実務上、心理的負荷の強度が「中」程度だと、労基署は、原則として労災と認めません。

平成29年4月26日大阪地方裁判所判決の業務における心理的負荷にかかる判断

 上記裁判例は、以下のとおり判断しています。

 「ウ 3月9日の出来事①について
 (ア) 上記認定事実(4)のとおり,本件面談におけるE社長の発言は,「殺すぞ」,「殴ったるで」といった脅迫的言動や「馬鹿」,「アホ」,「人間力ゼロ」,「恥」といった原告を侮辱し,人格や人間性を否定する内容を含むものであり,かつ,机を多数回叩いたり,怒鳴ったりした点をも併せ考えると,業務指導の範囲を逸脱しているものといえ,「(ひどい)嫌がらせ,いじめ」に該当すると認めるのが相当である。
 (イ) もっとも,上記認定事実(1),(4)及び(5)及び弁論の全趣旨によれば,①本件面談は,そもそも原告の希望により設定されたものであること,②E社長ら上司5名が出席することについても,原告に対し,事前に通知されており,原告はこれに異議を述べていない上,原告は,録音機器を用意して本件面談に臨んでおり,実際に本件面談前から一定の準備をしていること,③原告は,本件面談以前にもE社長と直接面談を行ったことがあるところ,同面談において,E社長は,原告に対し,特段脅迫的な発言や人格を否定する言動をしたことはなかったこと,④本件面談におけるE社長の発言は,本件面談が,就業時間内にその内容如何にかかわらず組合活動を行ったこと(本件組合活動)について,E社長を含む人事担当者らに顛末を説明し,謝罪するための場であったにもかかわらず,それとは無関係な組合活動の内容について,当初の予定(事前に原告に対しても伝えられていた弁明の時間は面談冒頭の5分間程度というものであった。)を超えて延々と自らの主張を述べたことに激高してなされたものであり,その原因の一端は原告の言動にあることも否定できないこと(また,このような本件面談の経緯に照らせば,E社長らが事前に結託して各言動を行ったものとも認められない。),⑤原告は,E社長が厳しく叱責している間も,自らの主張を繰り返し述べて固執する態度を示した上,E社長の発言を否定したり,その発言を遮って自らの主張を続けたりしているのであり,必ずしも一方的にE社長らが原告を糾弾しているというものではなく,原告の上記態度が激高したE社長の言動を更にエスカレートさせた側面も認められ,また,原告の発言内容の中には,本件面談の目的である,就業時間内の組合活動の有無とは無関係の組合活動の内容に関する主張も少なからず含まれており,これは原告がG TLらから注意を受けた趣旨や本件面談が設けられた目的等を真に理解しているのか疑問に感じられる言動といえ,しかも,これらを指摘しても同種の発言を繰り返すなどしているのであって,このような原告の態度や言動が,本件面談におけるE社長の叱責や暴言が一時のものとして沈静化しなかったことの一因であるといえること,⑥原告が,E社長らの発言により恐怖や不安で押し黙ってしまったというような状況でもなく,本件面談後には普通に食事も食べており,特に憔悴した様子もなかったこと,⑦本件面談以外に,E社長らから原告の人格や人間性を否定するような発言はなされておらず,その後原告に対して同種の発言等が繰り返されるような状況にはなかったこと(弁論の全趣旨),以上の点が認められる。
 以上の点に鑑みれば,本件面談におけるE社長らの発言は,「(ひどい)嫌がらせ,いじめ」に該当するものの,認定基準において,その心理的負荷が「強」として例示されている「部下に対する上司の言動が,業務指導の範囲を逸脱しており,その中に人格や人間性を否定するような言動が含まれ,かつ,これが執拗に行われた」に該当するものとはいえない。そうすると,3月9日の出来事①(本件面談)は,社会通念上客観的にみて,精神障害を発症させるに足りる強度の精神的負荷であるとまで認めることはできない。」
 (中略)
 「ク 総合評価
 上記認定説示した事実関係等を踏まえると,3月の出来事の中で最も心理的負荷が強いのは3月9日の出来事①(本件面談におけるE社長らの発言)であるが,その程度は「中」に当たると認めるのが相当であること,これに続く心理的負荷が認められる3月6日の出来事についても,その心理的負荷は「弱」程度に止まるものであること,以上の点に照らすと,3月の出来事を全体として考察しても,その心理的負荷の強度は「中」と評価するのが相当である。そうすると,原告が主張する3月6日以前の出来事を併せ考慮したとしても,これら一連の出来事による心理的負荷の程度は,社会通念上客観的にみて,本件精神障害を発症させる程度に強度なものであったとは認められない。」

さいごに

 上記の裁判例では、社長による面談での言動に至る経緯等が詳細に述べられています。

 確かに「殺すぞ」、「馬鹿」等は、いわゆるパワハラに該当する可能性が高いと考えられます。

 ただ、うつ病等や、過労自死(自殺)の労災では、パワハラに該当するか否かだけではなく、(むしろ)パワハラによる心理的負荷(ストレス)の強度が問題になります。

 例えば、上記の裁判例と同じように「殺すぞ」等と叱責されたりしても、上記の裁判例(の認定)とは異なり、被災者が、社長から、一方的に、正当な理由もなく、ただただ人格を否定する等されていたのであれば、心理的負荷(ストレス)の強度の評価が異なってくる可能性があります。

 うつ病等や過労自死(自殺)の労災では、実際にどのような言動があったのか(やそれを立証できるのか)も重要ですが、叱責等がなされた経緯等も把握、立証、評価することが極めて重要です。

 パワハラに至る経緯等も把握、立証、評価するためには、法律相談・打ち合わせや証拠収集を十分に行う必要があります。労基署に調査を任せるのではなく、労災請求前に十分に行えるのが理想です。

 なお、上記裁判例の事案における社長の言動等は、平成19年頃の出来事です。精神障害の労災の認定基準は、令和5年9月に改正され、上司等からのパワハラによる心理的負荷が「中」程度だとしても、会社が把握等していても適切な対応が無く改善がなされなかった場合には、心理的負荷が「強」程度と判断されるようになりました(明記されました。)。上記裁判例の事案でも、社長による面談での言動だけでは結論が変わらなかったかもしれませんが、その前後でもパワハラがあって改善されなかった等の状態があると、心理的負荷が「強」程度と評価される可能性もあります。

 また、 上記裁判例では、労災保険の休業補償給付の請求をしている期間より前に適応障害が治ゆ2したと判断され、休業補償給付の請求が認められないと判断されています。そのため、社長の言動等による心理的負荷(ストレス)の強度の程度まで判断しなくても判決(結論)を出すことができました。

 上司等からのパワハラ等によるうつ病等や過労自死(自殺)の労災申請は、弁護士にご相談ください。

 当事務所もご相談をお受けしています。

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