うつ病等の労災申請では、労基署は、精神障害の労災の認定基準に基づいて、労災か否かを判断しています。
具体的には、精神障害の労災の認定基準では、原則として、次の3つの条件を満たす必要があります。
すなわち、①うつ病や適応障害等の病気になっており、②病気になる前のおおむね6か月の期間に仕事による強いストレスがあり(働きすぎや、上司からのパワハラ等)、③仕事以外のストレス等によって病気になったとはいえないことという条件を満たす必要があります。
そして、過労自死(自殺)について会社に対する損害賠償請求でも、仕事による強いストレスの有無や、うつ病や適応障害等の病気になっていたか否か等が問題になります。
しかし、仕事以外の理由によるうつ病等の精神疾患による影響による自死(自殺)については、例外的に、会社に対して、損害賠償請求が認められる場合もあります。
平成27年7月8日千葉地方裁判所判決は、業務起因性がない精神疾患(会社の労災ではない精神疾患)の診断を受けている従業員の自死にかかる安全配慮義務違反については、次のとおり、判断しています。
「被告は、Aの職場復帰を認めた平成23年10月7日の時点で、①Aが精神科に通院し、抗うつ剤のジェイゾロフトなどの処方を受けていること、②Aは、女性従業員2名からモラルハラスメントを受けていると思い込んでおり、CがAの思い過ごしであるなどと話し、また、その女性従業員と勤務日がなるべく重ならないような工夫をしたものの、同月2日には首つり自殺未遂を起こすに至ったこと、③Aは、同月4日に行われたG医師との面談において、自殺未遂を起こしたことについて、もともと生への執着がないと話し、また、就労環境について、女性従業員との間でわだかまりがあり、他の従業員からまた問題を起こすのではないかという目で見られていると話していることなどを知っていたことに照らせば、Aの精神状態や他の従業員との人間関係に改善が見られない状態で、職場復帰を認めれば、Aが再度自殺を試みることは予想できたというべきである。そして、Cは、G医師から、Aに臨床心理士の診察を受けさせることを強く勧められ、また、Aについては組織としての対応が必要であることから、臨床心理士からも話をしたいと言われており、専門家の助言を得る機会が十分あったにもかかわらず、それらを行うこともせず、女性職員等との人間関係も特別調整することもしない状態で、Aを自分だけの判断で職場に復帰させた上に、従前以上の業務を担当させたものである。
その結果、Aは、職場復帰後、外形的には精力的に職務をこなしていたものの、内面では、極めて多忙であることに疲弊し、職場での人間関係は更に良くなくなっていると感じていたことが認められ、その結果、被告の職場を壊したのは自分であり、自殺することしか責任を取る方法はないと思い込み、自殺に至ったものと推認できる。
Cは、10月2日の自殺未遂についても、縄にタオルが巻いてあったことから、本当に自殺をするつもりであったか疑問を持っており、Aが自殺をして行方不明になっているときも、主治医であるB医師に対し、本人は皆が大騒ぎをして心配させて振り回しているようなところがあるので、そっとしておこうと思っていると話すなど、Aの精神状態や自殺リスクについて、非常に軽く考えており、そのため、G医師や臨床心理士からの上記助言や申入れに対しても真剣に対応しなかったものと考えられる。
Cは、Aの職場復帰に当たり、Dの勤務日との調整をするなど一応の配慮をしているほか、A自身、継続的にB医師の診察を受けており、専門家による指導下にあったという事情は認められるものの、そのような状況下においてすでに自殺未遂を起こしているわけであるから、このことをより深刻に捉え、Aの職場復帰の可否を判断するに当たっては、Aに上記臨床心理士の診察を受けさせ、あるいは、自ら臨床心理士や主治医であるB医師と相談するなど、Aの治療状況の確認や職場における人間関係の調整などについて専門家の助言を得た上で行うべきであった。
しかるに、Cは、上記のとおり、自分だけの判断でAの職場復帰及び業務内容を決めたものであり、その業務内容も前記のとおり、Aの精神的・身体的状態を十分配慮したものとはいえないものであったことからすれば、被告(C)の対応は、Aの生命身体に対する安全配慮義務に違反するものというべきである。」
実務上は、仕事によってうつ病等の精神疾患に罹患し、その影響で自死(自殺)したとの主張ができるかをまず検討すべきだと考えられます。
その主張が難しい場合でも、亡くなった方の症状やご様子、会社の認識や対応次第では、会社に対して、自死(自殺)について損害賠償請求できる場合もあります。
過労自死(自殺)については、弁護士にご相談ください。
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