第1 はじめに
労働問題の一つに、長時間労働やパワハラ等の職場での過労による、過労うつや過労自死といった精神障害の労働災害があります。
過労うつや過労自死の労災の請求は、労働基準監督署長に対して行います。そして、労働基準監督署長は、労災であるか否かを判断します。
第2 労災保険の不服申立手続
労働基準監督署長が不支給決定を出した(労災と認めなかった)場合、被災者やそのご遺族は、不服を申し立てることができます1。
1 労働保険審査官に対する審査請求
被災者やそのご遺族は、労働保険審査官宛に、審査請求の申立てを行うことができます。審査請求は、原則として、処分のあった日の翌日から3か月以内に行う必要があります。
審査請求を行うための準備として、労働局に対して、労働基準監督署の調査記録の保有個人情報開示請求を行った方が良いです2。
2 労働保険審査会に対する再審査請求
審査請求の審査結果に対して不服がある被災者やそのご遺族は、労働保険審査会に対して、再審査請求の申立てをすることができます。審査請求の決定を受けた日の翌日から2か月以内に行う必要があります。
また、審査請求をした日の翌日から3か月経過しても審査請求の決定がないときは、決定を経ないで、再審査請求の申立てを行うことも可能です。
再審査請求を行うことによって、労働基準監督署の調査から審査請求までの記録を送付してもらうことができます3。その記録からは、それまでに知ることができなかった事情が明らかになることもあります4。
3 行政訴訟
審査請求の結果に不服がある場合、労働基準監督署長が所属する国を被告として、処分取消訴訟を起こすことができます。
また、再審査請求に不服がある場合も、処分取消訴訟を起こすことができます。
審査請求があった日から3か月経過しても決定が出ない場合、審査請求が棄却されたものとみなすことができます。
審査請求及び再審査請求と違って、取消訴訟は、裁判所の裁判手続です。裁判を起こしてから1年以上の時間が必要になる場合もあります。
第3 さいごに
令和5年度「過労死等の労災補償状況」5によれば、精神障害の労災について、審査請求、再審査請求、及び訴訟によって処分取消となったこと等に伴い新たに支給決定がなされた事案は、2022年度が25件(うち自死については1件)、2023年度が18件(うち自死については5件)です。
2022年度の精神障害の労災請求の請求件数は2683件(うち自死については183件)で、決定件数は1986件(うち自死については155件)で、支給決定件数は710件(うち自死については67件)です。
また、2023年度の請求件数は3575件(うち自死については212件)で、決定件数は2583件(うち自死については170件)で、支給決定件数は883件(うち自死については79件)です。
不支給決定が出された後に審査請求等によって支給決定を得るのが容易ではないのが分かります。
労災認定を諦めずに戦う場合、新たに証拠を集める、過重性の構成を再検討する、発病時期を再検討する等、出来る限りのことを行う必要があります。
職場での過労が原因であるにもかかわらず労災と認められず、不服申立てを検討している場合、弁護士にご相談ください。当事務所も過労うつ・過労自死のご相談をお受けしています。
- なお、給付基礎日額の決定に対する不服申立ても可能です。
労働災害(労災)の給付基礎日額の算定における固定残業代の有効性が判断された事例 ↩︎ - 労災請求に対する労基署の判断内容等に関する記録の開示請求 ↩︎
- 新潟県弁護士会.労働災害の法律実務.株式会社ぎょうせい,2022.9,p.32 ↩︎
- ロア・ユナイテッド法律事務所編.労災の法律相談改訂版.株式会社青林書院,2023.1,p.305‐306 ↩︎
- https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_40975.html ↩︎