1 残業代請求における労働時間とは?
会社は、労働者に労働基準法上の時間外労働(週40時間、1日8時間の法定労働時間を超える労働)等をさせた場合、残業代等を支払わなければなりません1。
時間外労働を計算するための労働時間について、判例は、「労働基準法・・・32条の労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間」をいうと判示しています2。
それでは、具体的には、何をしている時間が労働時間に当たるのでしょうか?
例えば、勤務時間中にお客さんの対応をしていた、パソコンで資料を作成していた、会議に出席していたような場合、その時間が労働時間に当たるのは分かりやすいと思います。
他方で、労働時間に当たるのか分かりにくい(問題になる)時間もあります。
作業前後の諸活動、手持時間、仮眠・休憩時間、研修・教育・委員会活動等、持ち帰り残業、通勤時間・移動時間・出張時間等の時間は、労働時間に当たるのか否かが問題となります3。
例えば、仮眠・休憩時間も労働時間に含めて残業代請求をする場合、仮眠・休憩時間が労働時間に当たらないと判断されると、労働時間が減りますので、残業代の金額も減額になります。
以下では、仮眠・休憩時間の残業代の請求が否定された事例を紹介いたします。
2 2021年2月26日東京地方裁判所判決労働判例1312号73頁
休憩、仮眠時間の労働時間制については、以下のとおり、労働時間に該当しないと判断されました。労働時間に当たる時間が減ったので、その分、原告が請求できる残業代の金額も減っています。
「労基法32条の労働時間(以下「労基法上の労働時間」という。)とは,労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい,実作業に従事していない時間(以下「不活動時間」という。)が労基法上の労働時間に該当するか否かは,労働者が不活動時間において使用者の指揮命令下に置かれていたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものというべきである(最高裁判所平成12年3月9日第一小法廷判決・民集54巻3号801頁参照)。そして,不活動時間において,労働者が実作業に従事していないというだけでは,使用者の指揮命令下から離脱しているということはできず,当該時間に労働者が労働から離れることを保障されていて初めて,労働者が使用者の指揮命令下に置かれていないものと評価することができる。したがって,不活動時間であっても労働からの解放が保障されていない場合には労基法上の労働時間に当たるというべきである。そして,当該時間において労働契約上の役務の提供が義務付けられていると評価される場合には,労働からの解放が保障されているとはいえず,労働者は使用者の指揮命令下に置かれているというのが相当である(最高裁判所平成14年2月28日第一小法廷判決・民集56巻2号361頁,同裁判所平成19年10月19日第二小法廷判決・民集61巻7号2555頁参照)。
そして,以上の理は,本件雇用契約における労働時間該当性の判断においてもこれを異にして解すべき理由はない。そこで,本件につき,原告が本船勤務日の休憩,仮眠時間において役務の提供をすることが義務付けられていたと評価されるか否かについてみると,以下のとおりである。」
「前記認定事実によれば,被告においては,本船業務を一人又は2,3名程度の複数名で執り行っていたものであるところ,シフト等により休憩,仮眠時間が割り当てられ,これをとるものとされていたものである(前記1(1)ウ,エ)。この間,原告を含め,休憩,仮眠時間を取っていた被告の従業員が即時の対応を義務付けられていたことを裏付ける的確な証拠はない。」
(中略)
「トラブル発生の頻度をみても,緊急対応が必要となった大きなトラブル事象は657隻の取扱い中,1件にとどまっている上(前記1(2)ア),これ以外のトラブル事象をみても,多くは入港前やマニホールド業務時間中の発生事象で,かかる時間帯における休憩時間にあって,原告や被告従業員が,休憩をしていない従業員に代わり,即時の対応を余儀なくされたというような事実は認め難い。CCR業務(定常荷役中)のトラブル事象に至ってはトラブルの発生頻度自体も低く(前記認定事実のとおりで,4回にわたる桟橋補助業務を含めて3パーセントから5パーセント程度にとどまる。),やはり,休憩や仮眠に当たっていない従業員が,これに当たっている従業員に代わって,即時の対応を余儀なくされたというような事実は認め難い。むしろ,証拠(乙24,36)より窺われる時間管理後の原告の休憩,仮眠時間の取得状況に照らすと,桟橋補助業務に当たっていたときはともかく,本船勤務日毎に,特段の中断なく,まとまった休憩,仮眠時間をとることができていると認められる。
そして,これら休憩,仮眠時間にあっては休憩室等の提供も基本的にはされていたものである(前記1(1)カ)。また,夜通しの勤務であることから仮眠時間中に仮眠がしっかりとられるべきということはいえても,休憩,仮眠時間中の過ごし方が被告により決定されていたものとも認められず,その間における場所的移動が禁止されていたとも認め難い(証人B47頁。同証言に反し,そのような指揮命令があったことを裏付ける的確な証拠はない。)。
そうすると,休憩,仮眠時間において労働契約上の役務の提供が余儀なくされ,これが義務付けられていたと認めることはできないところであり,労働からの解放が保障されていないものとして被告の指揮命令下にあったと認めることはできず,他にこの点を認めるに足りる的確な証拠はない。」
(中略)
「以上のとおりであるから,前記休憩,仮眠時間が労働時間に該当すると認めることはできない。」
他の労働事件でもそうですが、残業代請求においても、証拠を集めることが重要です4。
タイムカードや出勤簿等、労働時間が記入されている客観的な資料を集めることも重要です。
ですが、それだけだと、記入されている時間の範囲内に実際にどの程度業務を行っていたのかが分からないこともあるので、労働実態が分かる客観的な資料を集めることも重要です。
残業代請求は、労基署等に相談することも可能です5。ですが、証拠収集等、初動が大事ですので、よろしければ、弁護士にご相談ください。当事務所もご相談をお受けしています。
- 残業代請求等における割増賃金について ↩︎
- 平成12年3月9日最高裁判所第一小法廷判決民集54巻3号801頁 ↩︎
- 水町勇一朗.詳解労働法第3版.一般財団法人東京大学出版会,2023.9,p.696‐703 ↩︎
- 労働者の会社に対する残業代請求の手続の流れ ↩︎
- 賃金や残業代の未払いの労働問題を労働基準監督署に相談できる? ↩︎