1 はじめに
労働問題の一つとして、労働者が休業させられた場合の手当の問題があります。
労働基準法によって、会社の責に帰すべき事由による休業の場合、会社は、休業期間中、当該労働者に対して、休業手当(平均賃金の100分の60以上の手当)を支払わなければなりません(労働基準法26条)。休業には、丸1日の休業だけではなく、1日の所定労働時間の一部のみの休業も含まれます1。休業手当が生ずる休業の具体例としては、会社に過失がない機械・設備の故障・検査、原料の不足、監督官庁の勧告による操業停止等による休業が考えられます2。
また、民法によって、会社の責に帰すべき事由によって労働者が労務を提供できなくなったときは、会社は、労働者からの賃金請求を拒むことができません(民法536条2項)。労働義務の履行不能は、工場の焼失など物理的な履行不能に限られず、会社による労務受領拒否、自宅待機・出勤停止命令、解雇なども含まれると考えられています3。
労働基準法の休業手当の保障は、民法の賃金の請求権の保障よりも、保障の範囲が広い(一致しない)と考えられています4。
以下の裁判例は、労働基準法の休業手当や、民法の賃金の請求権の保障について判断した事例です。
2 2021年12月23日東京地方裁判所判決労働判例1270号48頁
⑴ 労働基準法の休業手当について
「労働基準法26条の休業手当は、労働者の最低生活を保障する趣旨で定められた規定であり、同条所定の使用者の帰責事由は、使用者側に起因する経営、管理上の障害を含むものと解するのが相当である。
前期認定事実によれば、被告は、平成31年3月25日、事業を停止し、原告を含む全従業員に対して休業を命じたこと、同休業の事由は、被告が親会社であるバイボックステクノロジーから資金の供給を停止されたことによるものと認められる。
したがって、上記休業は、被告の経営上の障害によるものというべきであり、労働基準法26条所定の使用者の帰責事由が認められる。」
⑵ 民法上の賃金の請求権の保障について
「使用者による休業の命令が、民法536条2項所定の債権者の責めに帰すべき事由に該当するか否かは、休業に合理性があるか否かにより判断すべきであり、その合理性の有無は、使用者側の休業の実施の必要性の内容・程度、休業により労働者が被る不利益の内容・程度、他の労働者との均衡、事前・事後の説明・交渉の有無・内容等を総合的に考慮して判断することが相当である。」
結論として、「被告が事業を停止したことが合理的であるとは認められず、被告が原告に対して休業を命じたことについて、民法536条2項所定の債権者の帰責事由が認められる。」と判断されています5。