求人票記載の労働条件が、当事者間においてこれと異なる別段の合意をする等の特段の事情がない限り、労働契約の内容となると解すべきものとされた事例

1 はじめに

 求人票に明記された給与等の労働条件と実際の労働条件が異なるという労働問題があります。

 例えば、求人票では期間の定めがないことになっているけれども、実際の労働条件では期間の定めがあることになっている。求人票では月給が30万円になっているのに、実際の労働条件では25万円になっている。このような場合、労働者は、会社に対して、期間の定めがないことや、30万円の給与(差額分の5万円)の支払いを求められるのでしょうか。

 求人票に明記された労働条件と実際の労働条件が異なる場合、明記された労働条件が労働契約の内容になるのかは、基本的には、労働者と会社の間でどのような合意がなされたかという労働契約の解釈が問題になります1

 以下の裁判例は、求人票に記載されていたとおり、期間の定めのない労働契約の成立を認めた事例です。

2 1990年3月8日大阪高等裁判所判決労働判例575号59頁

 「職業安定法18条(注:現行法5条の3)は、求人者は求人の申込みに当たり公共職業安定所に対し、その従事すべき業務の内容及び賃金、労働時間その他の労働条件を明示すべき義務を定めているが、その趣旨とするところは、積極的には、求人者に対し真実の労働条件の提示を義務付けることにより、公共職業安定所を介して求職者に対し真実の労働条件を認識させたうえ、ほかの求人との比較考慮をしていずれの求人に応募するかの選択の機会を与えることにあり、消極的には、求人者が現実の労働条件と異なる好条件を餌にして雇用契約を締結し、それを信じた労働者を予期に反する悪条件で労働を強いたりするなどの弊害を防止し、もって職業の安定などを図らんとするものである。かくの如き求人票の真実性・重要性、公共性等からして、求職者は当然求人票記載の労働条件が雇用契約の内容になるものと考えるし、通常求人者も求人票に記載した労働条件が雇用契約の内容になることを前提としていることに鑑みるならば、求人票記載の労働条件は、当事者間においてこれと異なる別段の合意をするなど特段の事情がない限り、雇用契約の内容になるものと解するのが相当である。

 「これを本件について敷衍するならば、控訴人は、本件求人票の雇用期間欄に「常用」と記載しながら具体的に雇用期間欄への記載をしなかったものであるから、控訴人の内心の意思が前認定のとおり期間の定めのある特別職を雇用することにあったにせよ、雇用契約締結時に右内心の意思が被控訴人に表示され雇用期間について別段の合意をするなどの特段の事情がない限り、右内心の意思にかかわりなく、本件求人票記載の労働条件にそった期間の定めのない常用従業員であることが雇用契約の内容になるものと解するのが相当である。

  1. 水町勇一郎.詳解労働法第3版.一般財団法人東京大学出版会,2023.9,p.490 ↩︎