セクハラの虚偽申告についての損害賠償請求

1 はじめに

 先日、セクハラ加害者に対する解雇が有効と判断された裁判例を紹介いたしました1

 セクハラをしたとして懲戒解雇等をされる方のなかには、実際にセクハラをした方もいれば、虚偽の申告をされた方もいます。

 本日は、セクハラの虚偽申告を理由とした慰謝料請求が認められた裁判例を2つ紹介いたします。

 内容は以下のとおりですが、虚偽申告の内容等を考えると、もっと高い水準の慰謝料が認められても良いのではないかと思います。名誉毀損2と侮辱3について、裁判所に高額な慰謝料を認めてもらうのは容易ではないと改めて思いました。

 また、以下の裁判例では強姦等の虚偽申告が問題となっています。しかし、例えばキスをした程度だと、より一層慰謝料が低くなる可能性があると思います。

2 1994年4月11日東京地方裁判所判決労働判例655号44頁

【事案概要】

 本件では、被告会社に勤務していた女性従業員が、被告会社に対して未払賃金の支払いを請求するとともに、被告会社の専務によってわいせつ行為、性的嫌がらせ等を受けたとして被告会社と専務に対して損害賠償請求をしました。

 専務は、原告が主張する事実が存在しなかったとして、原告に対して損害賠償請求を求めました。

【裁判所の判断】

 裁判所は、専務の原告に対する請求について、原告が指摘する性的嫌がらせ等の事実が認められないとして、30万円の慰謝料を認めました。

 「原告は、前記第二の一3の内容(注:被告乙沢が平成元年九月三〇日(日曜日)と同年一〇月一〇日(祝日)の二回にわたり、強姦未遂行為に及び、平成二年以後もなお性的嫌がらせを続けようとし、他の従業員の面前で原告に対し、暴言を浴びせた等の内容)を記載した内容証明郵便を被告らに送付したものであるところ、証拠によると、その結果、右内容証明郵便に記載された内容は、被告乙沢の兄である被告会社代表者乙沢丙夫の知るところとなったことが認められる(中略)。

 右事実によると、被告乙沢は、原告の右内容証明郵便の送付により精神的苦痛を受けたものと推認されるところ、(中略)被告乙沢が原告に対し、わいせつ行為等の不法行為をしたとの事実を認定することはできないから、右送付行為は、正当な権利行使とは認められず、違法性を有するというべきである。原告は、事実の流布の範囲が限られていることを問題にしているが、右書面の記載内容にかんがみると、被告乙沢の名誉感情が著しく侵害されたことは明らかであるから、右送付行為が違法であるとの結論に変わりはないというべきである。また、(中略)原告は、自己の主張を裏付ける証拠がはなはだ不十分であるにもかかわらず、右書面を送付したものであるから、原告には少なくとも過失があるといわなければならない。したがって、不法行為が成立するのであり、右行為の態様、内容、右相当因果関係のある流布の範囲その他本件に顕れた諸般の事情を考慮すると、被告乙沢の精神的苦痛に対する慰謝料としては30万円が相当である。

3 2013年11月8日大阪地方裁判所判決労働判例1085号36頁

【事案概要】

 本件では、原告が、同僚の女性教員である被告乙山花子に対して車中で暴行を加え、わいせつ行為を行ったとして、被告学校法人から懲戒解雇されました。

 原告は、被告学校法人に対して懲戒解雇が無効であるとして労働契約上の権利を有する地位にあることの確認等を求めました。

 また、原告は、被告乙山花子に対して、虚偽の被害申告を行ったことにより精神的損害を被ったとして、損害賠償の支払いを求めました。

【裁判所の判断】

 「被告乙山は、平成21年7月16日、H教諭に対し、帰宅途中の電車の中で、原告から平手打ちをされた旨話をし、翌17日、「9月22日に平手打ちをされています」、「肉体関係を拒むと平手打ちされました。両手を捕まれ押さえつけられたこともあるので、あざができたこともありました。力では対抗できませんでした。」、「時期を見て動くので、待ってください。今は絶対に動けません」などと記載したメールを送り、同月20日、ドライブに行った帰りの車の中で原告からスカートの中に手を入れられ、肉体関係を拒絶したら平手打ちをされた、両腕をつかまれたなどと話をした。」

 「H教諭は、同月21日頃、I教諭に対し、車の中で肉体関係を拒むと原告に平手打ちをされたとの話を被告乙山から聞いたことを伝えた。I教諭は、同月下旬頃、H教諭から聞いた話を学校長に伝え、更に翌8月6日頃、被告乙山に対し、上記話の真偽を確認し、間違いないとの回答であったので、その場で学校長に電話をし、被告乙山に電話を替わった。学校長は、被告乙山に対し、学校としては見過ごせない問題であるから調査を進めたい旨伝えると、被告乙山は、専任試験がありこれに専念したいので保留にさせてほしい旨答えたが、学校長は調査を進めることとした。」

 「学校長らは、同年9月6日、被告乙山から事情を聴取するとともに、同人に対し、出来事を時系列に従って記載した書面を提出するように求め、同年10月25日頃、被告乙山は被告A学院に対し書面を提出し、その後、追加の書面を提出した。被告乙山が提出した上記書面には、平成21年9月22日に自動車内で原告が胸を服の上から触り、下半身にまで手が伸びたので、拒むと平手打ちを2回ほどされたことのほか、同日以降も原告が馬乗りになるなどして力ずくで性交渉を求め、そのため足やクビなどの筋肉がつったり、あざができたりしたことがあったこと、平手打ちをしたり、押さえつけたりして性交渉を求めてきたこと、平成22年3月5日及び同年4月30日には性行為を強要された旨記載されている。」

 「被告A学院は、平成22年9月11日及び同年10月4日に原告に対する非公式の事情聴取を行い、被告乙山の供述をまとめた録取書を提出し、同月10日付けで意見書を提出した。上記録取書には、平成21年9月22日に原告の手が下半身に伸びてきたので、拒むと2回ほど平手打ちをされたことのほか、同年9月24日以降の状況として、自動車内で原告に体を触られ、拒むと力ずくで触ろうとするので、あざができたり、足や腕がつることもあったこと、平成21年9月26日には、原告の自宅で押し倒され、抵抗したが何度も押し倒され、性器を無理矢理くわせさせられたこと、同年12月24日には、被告乙山の自宅において、原告が被告乙山の上に乗ってきて、手を無理矢理ズボンの中に入れて下半身を触られ、抵抗すると近くにあった本棚に頭をぶつけたりし、下半身だけ脱がされ挿入されたこと、平成22年3月5日には、肉体関係を強要されたこと、平成22年4月30日には、原告が下半身を触ろうとし、抵抗しても顔が原告の膝の上にあり、原告の上半身と手で押さえつけられているので声が出ず、被告乙山を膝の上にのせて挿入したことなどが記載されている。」

 (中略)

 「被告乙山が申告した被害事実は刑法犯に当たり得る行為であり、懲戒手続においてこれらの事実が認定されることになれば懲戒解雇に処せられる可能性が高い上、原告の名誉を毀損する内容であるから、上記申告の内容が虚偽であるとすれば、原告に対する不法行為を構成するというべきである。」

 (中略)

 「被告乙山は、原告に対して好意を抱き、原告に対して交際する気があるのかないのかを明確にするよう求めていたが、原告は被告乙山と交際することを明言しないまま、性的関係は持ち、最終的には原告から被告乙山との縁を切るという原告の不誠実な態度に対する怒りから、虚偽の事実を含む被害の申告をしたものと認めるのが相当である。」

 「そうすると、被告乙山の被害申告は、平成22年9月22日の出来事については明らかに虚偽であると認めるに足りる証拠はないが、その後原告から受けた被害に関する部分は虚偽が含まれていると認めるほかなく、不法行為に当たるというべきである。」

 本件判決は、結論として、80万円の慰謝料を認めています。

 

  1. セクハラ加害者に対する解雇が有効と判断された事例 ↩︎
  2. 掲示板・SNS上の誹謗中傷の名誉毀損 ↩︎
  3. 掲示板・SNS上の誹謗中傷の名誉感情侵害(侮辱) ↩︎