1 はじめに
2024年8月30日大阪地方裁判所判決の事案は、医師である原告が、Googleマップを運営・設置する法人に対して、Googleマップ上の医院のページにおいて原告の名誉を毀損し、原告への侮辱に当たるクチコミ記事の投稿の削除を請求した事案です。
以下の内容等のクチコミ記事の投稿の削除が請求されていました。
本件判決ではクチコミが①から⑥の部分に分割され、検討されています。以下の部分④と部分⑤は、本件判決における④及び⑤の部分です。
部分④ 伝えたことを何も聞かず確認もせず、患者とも薬の会話は一切なしで、自分の思い込みだけでメチャクチャ適当な処方を出しておいて、開き直って詭弁の嵐。
薬剤師に指摘されて修正するレベルだから、何も考えていないのがわかる。
薬剤師さん、バカを指摘してくれてありがとう!
看護師さんや、検査技師さんかな?
人の話をしっかり話を聞いておけば、こんなことにならなかったはずですけどね。
確認が至らなかったですね。
ご迷惑をおかけしました。
と言えば、一瞬で終わる話。
それを、
△「私の言っている事は間違いない。」
いう姿勢を貫きとおす図太さ。
今まで、謝ったことない感じの謎の人でした。
何を処方されているか、しっかり伝えたのに、話しが通じていないのはなぜ?
その結果、濃度0.02%の目薬を処方しておいて、
謎△「私は間違ってない!」と言いながら、
謎△「濃度0.1%に直した処方をした。何が問題があるのか?
と、開き直る。
自分を正当化する事だけを言いたい放題。
1/50ですよ?
もう一つの目薬も、1.5%を0.5%と、1/3の成分で処方してあったのは、笑い話にもならない。
こちらも、当然の如く1.5%に修正して、
謎△ 「何か問題があるのか?」的な発言。
絶対自分の処方ミスである間違いをそれと認めない、開き直りの詭弁者で、最悪な態度をとる謎医師。
命にかかわる薬だったら、どうするんだろ?
麻酔科医じゃなくてよかったね。
眼科でも勘違いされると困るんだけど・・・
失明したらどうするの?
あれだけ差がある物を平気で確認もせずに処方するなんて、全身麻酔で手術中に痛みで目が覚めるよ!
と言うか、医者としての自覚ある?
問題ないなら、わざわざ処方を直す必要はない。
変わったなら、こういう理由で濃度を下げた物を処方したからと伝えてくれれば問題なし。
なのに、修正した処方をしておいて、
謎△ 「私は間違った事はしていない」
もっと言うと、「私がこう言ってるのに、あなたはなぜ聞かないのか?」的な印象しか受けなかった。
処方を修正したという事は、間違いを認めたという事でしょ?
間違ってなければ、治さなければ良いですよね。
部分⑤ 塗り薬も然り。
湿疹が出るので、塗り薬を、お願いした。
話が通っていなかった。
と言うか、全く聞いていない?
聞く耳持ってないの?
塗り薬も追加しましたから。
は?
最初から、お願いしたいとお伝えしてありましたが?
そうしたら、なんと、
「私が診察した時は、必要ないと思ったから出さなかったのです。」
と説明された。
そのように説明しておきながら、
「患者さんが必要と言うなら、出します。
と、ダブルスタンダードを、極める発言。
はい?出ていなかったじゃないですか。
尚且つ、診察した時、ひと言も湿疹の話に触れなかったのに?
診察しなかったじゃないですか?と聞いたら、
「みました。しました。」
はい?
確かに顔は見ましたよね?
目も見ましたね。
でも、湿疹のところは、見てないでしょ?
あの暗い中で、みた?
少なくとも、診ていないですね。
もし診てたら、湿疹の様子は、悪く無いけど、薬必要ですか?
と聞きません?
普通の医師は聞いてくれます。
まぁ、そんな謎医師ですね。
重要な局面の判断は、絶対に任せたく無い人です。
結論としては、本件判決では、削除請求が認められていません。
2 裁判所の判断
⑴ 名誉毀損の成否
名誉毀損は、他人の社会的評価を低下させることをいいます。判例では、「人の品性、徳行、名声、信用等の人格的価値について社会から受ける客観的評価である名誉に違法に侵害」することとされています1。
以下では部分④及び⑤についての名誉毀損の成否に関する判示を引用します。
「部分④は、原告が、投稿者を診察した際、投稿者の話を何も聞かずに薬の処方をしたため、濃度0.1%で処方すべき目薬を濃度0.02%、濃度1.5%で処方すべき目薬を濃度0.5%で処方した旨の事実を適示した上で、原告が自らの思込みで処方ミスを犯したとの意見・論評を述べるとともに、そのことを投稿者から指摘されたのに対し、「私は間違ってない!」「濃度0.1%に直した処方をした。何か問題があるのか?」などと発言した旨の事実を摘示した上で、原告が自らの誤りを認めることなく、詭弁を弄して開き直りの対応をしたとの意見・論評を述べるものである。
しかしながら、前者について、投稿者が主張する濃度の目薬を原告が処方すべきであったことを裏付けるべき事情は、部分④中に何も示されていないのであって、原告が自らの思込みで処方ミスを犯したとの前記指摘が、眼科医学に関する専門知識を有しない、医療の素人である患者の立場からの一方的な見解を表明したものにすぎないことが、記載内容それ自体から明らかというべきである(部分④には、原告が、薬剤師等から指摘を受けて、処方内容を修正した旨の記載はあるものの、その際の原告と薬剤師等との間の具体的なやり取りには一切言及されておらず、これを読んだ一般の閲読者において、真に原告が薬剤師等から処方ミスの指摘を受けた事実が存すると誤読する可能性に乏しいというべきであるし、単に医師が一旦処方した目薬を別の濃度の目薬に差し替えた旨の記載から、直ちに医師に処方ミスがあったと軽々に受け止める者がいるとも思えない。さらに、部分④には、原告が、診察に際し、自らに処方すべき薬剤に関する投稿者の説明を全く聞かず、確認もしなかった旨の記載もあるが、患者にどのような処方をするかは医師が自らの診断に基づき自身で判断すべき事柄であって、そのことは、医療に関する専門的知識を有しない一般の閲読者にも周知の事実というべきである。)。
また、後者についても、そもそも、部分④の閲読者において、真に原告に処方ミスがあったと理解する可能性に乏しいことは、前記説示のとおりであり、そうである以上、原告が自らの誤りを認めることなく、詭弁を弄して開き直りの対応をしたとの前記指摘が、原告に処方ミスがあったと強弁する投稿者の立場からの一方的な見解であることも、また明らかといわなければならない(原告が投稿者を診察した際に投稿者と言い争いとなった経緯に関する記載をもって、医師でありながら患者との間でトラブルを招いたとの評価を招来するとみる余地がないではないが、トラブルの理由や背景事情等を捨象し、ただ医師と患者間で診察に際しトラブルが生じたという事実のみから、直ちに当該医師につき否定的評価がされるべきものではなく、そのことは、一般人も当然理解し、閲読の際に前提にしているところといって良い。)。
そうすると、一般の閲読者の普通の注意と読み方を基準とすれば、部分④によって原告の医師としての資質や能力についての社会的評価が低下するとはいえず、その他本件において、原告の前記主張を認めるべき証拠はない。」
「部分⑤は、投稿者が湿疹の症状に対して塗り薬の処方を希望していたが、原告が、診察の際に湿疹について問診をしたり、患部を確認したりすることなく、塗り薬を処方しなかったため、投稿者から指摘を受け、塗り薬を処方することとして診断内容を変更した上、「私が診察した時は、必要ないと思ったから出さなかったのです。」「患者さんが必要と言うなら、出します。」などと発言した旨の事実を摘示し、原告が患者である投稿者からのクレームによって自らの診断内容を曲げたとの意見・論評を述べるものである。
しかしながら、部分⑤中、投稿者が塗り薬の処方を希望した際の具体的な状況は明らかでなく、当初から投稿者から希望を伝えていたという一方で、診察時に湿疹の症状が話題になることもなかった(当然、投稿者自身も診察の際に湿疹の症状を申告しなかったというのであろう。)と述べるなど、当日の経過に関する記載内容それ自体が合理的でなく、信を措くに足りないというべきである。前記(2)に説示したとおり、薬剤の処方が医師の診断に基づき行われるべきことは周知の事実であって、部分⑤を読んだ一般の閲読者において、塗り薬の処方等につき自らの希望や意向を一方的に述べ、医師等からの専門的知見に基づく説明を容れようとしない投稿者の生硬さを感じることはあっても、部分⑤中の記載から、直ちに原告の医師としての資質・能力に疑問を呈することなどないというべきである。
以上のとおり、部分⑤は、断片的で必ずしも合理的と思われない投稿者の主観的な体験に基づいて、原告への非難を一方的に述べるものにすぎず、一般の閲読者の普通の注意と読み方を基準とすれば、部分⑤によって原告の医師としての資質や能力についての社会的評価が低下するとはいえず、その他本件において、原告の主張を認めるべき証拠はない。」
⑵ 侮辱の成否
裁判例では、「名誉感情も、法的保護に値する利益であり、社会通念上許される限度を超える侮辱行為は、人格権の侵害として、慰謝料請求の事由となる」とされています。そして、「侮辱」とは、人格に対する否定的な価値判断をいい、「バカ」、「あほ」、「まぬけ」等の悪態は侮辱と評価しえ、社会通念上許される限度を超えるものについては不法行為と評価し得ます2。
本件判決は、侮辱について、以下のとおり判断しています。
「原告は、本件記事が、「ド!ハズレ医師がいるので当たらないことを祈る!」「来るたびに、目につくダメさ加減。」(部分①)、「3回目の女性医師が、最悪のハズレでした。」「最低最悪、説明責任を果たすことのない、医師としてのコンプライアンス欠如、自己中、この世は私だけ?」「あの謎の人物と絶対に二度と会わないようにするために。」「あの謎の人の診察を絶対受けないようにするために。」「最悪の診察を受けてしまったので、ここに書き留めておきます。」「あの人は、めちゃくちゃだからなぁ。」「医師免許はあるみたいだけど、ただそれだけの人?」(部分③)、「薬剤師さん、バカを指摘してくれてありがとう!」「あれだけ差がある物を平気で確認もせずに処方するなんて、全身麻酔で手術中に痛みで目が覚めるよ!」「と言うか、医者としての自覚ある?」(部分④)、「普通の医師は聞いてくれます。」「まぁ、そんな謎医師ですね。」「重要な局面の判断は、絶対に任せたく無い人です。」(部分⑤)など、社会通念上許容される限度を超えた侮辱を含んでいるから、原告の名誉感情を侵害すると主張する。
原告が侮辱的表現と指摘するもののうち、「ド!ハズレ医師」「ダメさ加減」「自己中」「最低最悪」「めちゃくちゃ」「バカ」「謎医師」等は、当該言説の対象者に対する否定的評価を意味する表現であるが、インターネット上の書込みにまま見受けられる下品で相手を揶揄する言辞の一つとはいえても、社会通念上誰しもが看過し難い、明らかで程度の甚だしい侮辱に該当するとまではいい難いのであり、また、これらの表現が用いられた回数、態様も、執拗といい得るまでではない。また、その他の表現は、表現それ自体の侮辱性というよりも、部分④及び⑤で摘示された投稿者が原告の診察を受けた際のトラブルを前提として、原告を非難するものといって良く、それらが具体的、実質的な根拠を欠いた、患者である投稿者の立場からの一方的な見解を表明したにすぎないことは、前記1(2)ないし(4)に説示したところから明らかというべきである。本件記事は、一般の閲読者の普通の注意と読み方を基準として、社会通念上許容される限度を超え、原告の名誉感情を侵害するものとはいえず、その他本件において、原告の主張を認めるべき証拠はない。」
3 さいごに
本件判決は「一般の閲読者の普通の注意と読み方を基準とすれば、部分⑤によって原告の医師としての資質や能力についての社会的評価が低下するとはいえ」ない等と判示しています。しかし、医院の利用を検討している普通の方は、クチコミを読んだときに、原告の医師としての資質や能力がないと考える可能性はないのでしょうか。
特に専門家に対するクチコミの発信者情報開示請求や削除請求にはある程度のハードルがあるように思います。
Googleマップ上のクチコミの発信者情報開示請求や削除請求は弁護士にご相談ください。当事務所もご相談をお受けしています。