1 はじめに
2021年6月23日東京地方裁判所判決は、Googleマップ上におけるクリニックに対する匿名の口コミに関する経由プロバイダへの発信者情報開示請求が棄却された事例です。
原告は、皮膚科のクリニックを経営する医師です。
被告は、経由プロバイダです。
口コミでは、「本件クリニックの受付から診察までの待ち時間が1時間30分だったこと,診察時間は30秒だったこと,診察は投稿者がベッドの上にいて,医師が遠くの椅子に座ったまま少し見るだけだったことなどが記載されてい」ました。
2 裁判所の判断
裁判所は、以下のとおり述べて、名誉毀損の成立を否定し、発信者情報開示請求を認めませんでした。つまり、匿名の投稿主を特定することはできませんでした。
「本件投稿は,原告が経営する本件クリニックに係る口コミであり,主として診察内容への不満を述べるものであること,本件クリニックは法人ではなく,本件クリニックに所属する医師は原告のみであること(弁論の全趣旨)からすれば,本件クリニックに対する口コミは,原告を対象としたものと認められる。
本件投稿には,本件クリニックの受付から診察までの待ち時間が1時間30分だったこと,診察時間は30秒だったこと,診察は投稿者がベッドの上にいて,医師が遠くの椅子に座ったまま少し見るだけだったことなどが記載されているが,投稿者が予約をしていたのか否か,どのような病状で受診したのかは不明であり,これらの対応が仮にとられていたとしても直ちにそれが不適切だということにはならないし,その記載内容は,一般読者から見て,投稿者が長時間待たされたと感じたこと,診察時間が短時間かつ簡易な内容で終わったと感じたことを述べているに過ぎないと理解されるものにとどまっている。
そして,本件のような口コミに一定の否定的な意見が掲載されることは,その性質上,やむを得ないというべきであって,この程度の記載をもって,直ちに原告の社会的評価を損害賠償により慰謝を要する程度にまで低下させるものとは認められない。
よって,本件記事により原告の名誉に関する「権利が侵害されたことが明らかである」(法4条1項1号)とまでいえない。」
名誉毀損には事実を摘示するものと、感想等の意見論評をするものがあります。発信者情報開示請求では、一般的には、事実を摘示するものについては、摘示された事実の反真実性を主張します。また、意見論評をするものについては、前提事実の反真実性、または人身攻撃に及んでいることを主張します1。
Googleの口コミの場合、体験に基づく感想であると判断されてしまうと、前提事実の反真実性の主張は、容易ではありません2。
本件では、口コミは、名誉毀損に当たらないと判断されました。仮に口コミが名誉毀損に当たるとしても、「その記載内容は,一般読者から見て,投稿者が長時間待たされたと感じたこと,診察時間が短時間かつ簡易な内容で終わったと感じたことを述べているに過ぎないと理解されるものにとどまっている」と判断されていることから、前提事実の反真実性の主張がハードルになったと思われます。