原告が、Twitter(現X)への「ゲス」や「幼稚」等の表現が用いられた投稿により違法な侮辱をされたとして、Twitter(現X)に対して電話番号等の開示を求めた発信者情報開示請求が棄却された事例

1 はじめに

 2023年12月14日東京地方裁判所判決は、原告が、Twitter(現X)において匿名の投稿主の投稿によって侮辱されたとして、Twitter(現X)の運営会社(コンテンツプロバイダ)に対して、匿名の投稿主の電話番号等の開示を発信者情報開示請求訴訟によって求めた1が、原告の請求が棄却された事例です。つまり、匿名の投稿主の電話番号等の開示が認められなかった事例です。

2 裁判所の判断

 匿名の投稿が違法な侮辱にあたるか以外にも争点がありますが、以下では、匿名の投稿が違法な侮辱にあたるかの裁判所の判断をみます。

 原告が侮辱であると主張した投稿では、「ゲス」、「短気」や「幼稚」といった表現が用いられていたようです。具体的には、「本件投稿1及び本件投稿2はほぼ同じ内容であり、原告の性格について、「ゴテゴテの敬語で丁寧な人物装ってる」、「どんだけゲスで短気で幼稚かってもうバレバレ」と揶揄する表現をした上で、「素の口癖でべらべらしゃべってくれたほうが人間らしくていいよ(^_^;)」と発信者の意見を述べる内容であ」ったようです。

 原告は、「ゲス」について、「下種(下衆、下司)を指し、下種とは心の卑しいことやその者を指す言葉である。通常の社会生活において投げかけられることは滅多にない強い侮辱的表現である。」と主張していました。

 また、原告は、「短気」について、「辛抱ができず、すぐ怒ったりいらいらしたりすること、短慮であることを指す言葉である。一般的には、怒りの感情を抑えることができないという強い侮辱的表現である。」と主張していました。

 さらに、原告は、「幼稚」について、「考え方が未発達であること、子供であることを指す言葉である。一般的には、考え方が浅はかであるという強い侮辱的表現である。」と主張していました。

 そして、原告は、文脈全体も踏まえて、投稿について、「原告を根拠なく、執拗かつ強く非難するものであるといえ、原告が事実無根の理由でこのような非難を受ける理由はないから、社会通念上許容される限度を明らかに超えたものである。」と主張していました。

 裁判所は、以下のように判断し、結論として、違法性を否定しました。

 「本件投稿1及び本件投稿2が、原告の名誉感情を違法に侵害するものといえるか否かを検討する。」

 (中略)
 「名誉感情を侵害する表現行為が行われたという場合にそれが違法と評価されるのは、当該表現行為がされた状況下においてその表現が持つ客観的な意味が、表現の対象とされた者の人格的価値等を無価値なものと否定するか、それに近いようなものである場合など、表現の態様、程度等からみて社会通念上許される限度を超える侵害があったと認められる場合に限られるというべきである。」
 (中略)
 「(5)以上(4)に認定した事実によれば、原告は、「E1」の投稿したツイートに不快感を覚え、本件アカウント①において、「E1」とそのフォロワーを一方的にブロックする設定をしたこと、そのことについて、「E1」から疑問を述べるツイートの投稿がされ、それに対して原告が釈明する趣旨のツイートを投稿するというやりとりが行われるなど、原告の執った措置についてツイッター上において議論がされていたこと、このような状況の中で、本件発信者1が、原告の考えを批判する趣旨のツイートを投稿したことを契機として、原告の執った措置に批判的な本件発信者1と原告との間でツイートの投稿の応酬がされる状態となり、原告が本件発信者1のしたツイートを引用して「おっしゃるとおり私は性格に難がある」などと記載したツイートを投稿するなどしたことに対して本件発信者1によって不快感が述べられるなど議論が感情的になる中で、本件発信者1によって本件投稿1がされ、さらに本件発信者2によって本件投稿2がされたことが認められる。このような本件投稿1及び本件投稿2がされるに至った経緯に加え、本件投稿1及び本件投稿2においては「丁寧な人物を装ってる」、「どんだけゲスで短気で幼稚」というような原告の性格を揶揄する表現が用いられているものの、文章全体の趣旨としてはあくまで原告の投稿したツイートの表現を批判する内容にとどまっており、人身攻撃とまでは直ちに認め難いこと、本件投稿1及び本件投稿2の後に本件発信者1及び本件発信者2が更に原告を攻撃する内容の投稿をすることもなかったこと、原告本人尋問の結果によれば、原告は原告アカウントを保有し、本件ゲームのスコアをツイートするなどの活動をしていたが、原告アカウントの保有者が原告であることは明らかにしておらず、本件ゲーム愛好家の間において、必ずしも「◆◆」と称される存在の理解が一定しているわけではないと認められることにも照らすならば、原告の名誉感情が害された程度も一定の限度にとどまるものと解され、本件投稿1及び本件投稿2によってされた表現行為が社会通念上許される限度を超えた名誉感情の侵害とまではいうことができない。

 侮辱による発信者情報開示請求等が認められるためには、社会通念上許容される限度を超えることが必要です2。本件では、投稿の内容はもちろん、それだけでなく、投稿に至った経緯等も考慮され、違法性が否定されています。

 「ゲス」や「幼稚」等の表現は侮辱であると考えられます。しかし、具体的な投稿の内容や投稿の経緯等次第では、匿名の投稿主を特定するための発信者情報開示請求において、違法性が否定される可能性があります。

 発信者情報開示請求が認められないと、匿名の投稿主を特定できず、弁護士費用等の負担だけが残る可能性があります。発信者情報開示請求を行うか否かも、慎重な検討が必要です。

    1. 電話番号等は保全の必要性がなく、仮処分の手続を利用できません。Twitter(現X)の誹謗中傷について、IPアドレスから匿名の投稿主を特定する場合、仮処分の手続の利用等が考えられます。
      掲示板・SNS上の誹謗中傷・風評被害の発信者情報開示の仮処分手続 ↩︎
    2. 掲示板・SNS上の誹謗中傷の名誉感情侵害(侮辱) ↩︎