1 はじめに
2022年5月20日東京地方裁判所判決は、ホストラブ(ホスラブ)への「ブスも大概にしろブスー!」等との表現の投稿について、慰謝料請求が認められた事例です。
慰謝料として10万円の金額が認められています。また、匿名の投稿主を特定するために弁護士に支払った費用(調査費用)99万円も損害として認められています。
2 裁判所の判断
裁判所は、ホストラブ(ホスラブ)への「ブスも大概にしろブスー!」等との表現の投稿について、以下のとおり判断して、肖像権侵害と違法な侮辱1であることを認めました。
「本件投稿1についてみると、人は、自己の容ぼう等が撮影された画像をみだりに公表されないことについての人格的利益を有するところ、被告は、本件投稿1において、原告の「整形前」の顔か、「ダウンタイム」、すなわち、整形後その効果が表れるのを待つ時間の顔であるとして、原告の顔写真を添付し、併せて、「ブスも大概にしろブスー!」、「お前がおかめ納豆やんけwww」などと原告の容ぼうを嘲る表現をしていると認められる。証拠(甲9)によれば、原告が自らLINE上で公開した顔写真を加工したものが本件投稿1で用いられていると認められるところではあるが、原告において、本件投稿1のような態様で使用することまでを許容していたとは到底認められず、本件投稿1のような態様で使用することは、社会通念上受忍限度を超えるものであって、原告の肖像権を侵害するものであると認められる。
また、人が自己自身の人格的価値について有する主観的評価(名誉感情)も法的保護に値する利益であって、社会通念上許される限度を超える侮辱行為、すなわち、およそ誰であっても、そのような行為をされたならば到底容認することができないと感じる程度の著しい侵害行為であれば、人格権を侵害するものとして不法行為が成立するところ、上記のとおり、本件投稿1は、その内容に照らして、社会通念上許される限度を超える侮辱行為であると認められる。」
「本件投稿2についてみると、本件投稿2には、「アフターで枕するのかな」、「こんな性病とお客さんになる人は馬鹿だよ」という表現があるところ、その前後の文脈からすれば、前者は、原告が店舗での営業を終えた後に客に対していわゆる枕営業を行うつもりなのか、後者は、性感染症にり患している原告の客になる者は馬鹿であると述べるものであって、本件投稿1と同様、原告を嘲るものであって、社会通念上許される限度を超える侮辱行為であると認められる。」
裁判所は、以下のとおり、名誉毀損2については、否定しました。
「名誉毀損にいうところの名誉とは、人がその品性、徳行、名声、信用等の人格的価値について社会から受ける客観的な評価(社会的名誉)を指し、ある表現行為の内容が人の社会的評価を低下させるか否かについては、一般の読者の普通の注意と読み方を基準として判断することになる。上記のとおり、本件投稿2にある上記表現のうちの前者は、原告が店舗での営業を終えた後に客に対していわゆる枕営業を行うつもりなのかと述べるものであるところ、一般の読者の普通の注意と読み方を基準とすると、投稿者の推測が記載されていると読め、原告の社会的評価を低下させるものであるとは認められない。また、後者については、原告が性感染症にり患しているという事実が摘示されていると認められるが、どのような原因によって性感染症にり患したかまで記載されているものではなく、一般の読者の普通の注意と読み方を基準とすると、上記表現のみによって原告の社会的評価が低下するとは認められない(その原因が必ずしも性行為によるとは限らないし、また、性行為が原因であってもその相手が誰であるかによって評価は異なるといえる。)。以上からすれば、名誉権侵害をいう原告の主張は理由がない。」
名誉毀損を理由にして匿名の投稿主を特定する場合(発信者情報開示請求や損害賠償請求をする場合)、事実を摘示するものか否か、事実を摘示するものとして、一般の読者の普通の注意と読み方を基準にしたときに、社会的評価が低下するのかは、検討が必要です。
また、本件では、冒頭で述べたとおり、精神的苦痛は、10万円と評価されています。被害者からすれば、低い金額であると思われます。
さらに、匿名の投稿主を特定するために弁護士に支払った費用(発信者情報開示請求等の弁護士費用)99万円が損害として認められています。しかし、発信者情報開示請求の弁護士費用が損害として認められないこともあります。また、判決で損害として認められても、実際に相手方が賠償するとは限りません。発信者情報開示請求の弁護士費用は、一般的には、数十万円します。被害者が経済的な損失を被るリスクがありますので、留意が必要です。