「ろくでもない演出家を晒すスレ」等の説明がされているスレッドに実名を記載して虚偽の事実を摘示したこと等について、慰謝料等約85万円の損害賠償請求が認められた例

1 事案の概要

 2024年2月8日東京地方裁判所判決は、原告が、被告がインターネット上の掲示板に投稿した投稿記事によって名誉を毀損された等として、被告に対して損害賠償請求をした事案です。

 原告は、アニメーション業界において作画や演出等を手掛けている方です。

 被告は、アニメーションスタジオに所属し、アニメーションの制作進行を担当している方です。

 本件では、名誉毀損1、侮辱2、営業権侵害を理由に損害賠償請求されていますが、結論としては、名誉毀損の主張のみが認められています。

 なお、原告は、匿名の投稿主であった被告を特定するために、発信者情報開示請求を行っていました(調査費用として、82万5000円の損害を主張されていました。)。

2 裁判所の判断

 名誉毀損についての裁判所の判断は、以下のとおりです。

⑴ スレッドの投稿

 「本件スレッドの投稿番号1には、本件スレッドにつき、「何かと問題ばかり起こす」、「ろくでもない演出家を晒すスレ」との説明がされており、その例示として、「ザル」、「皮肉を言う」、「汚い絵でリテイクばかり」、「途中で降りる」などが記載されている。(甲6)」

⑵ 名誉毀損の判断

 「本件投稿は、原告について、「仕事持ちすぎて演出になると相当ざるになる」、「前カットの繋がりガン無視して上げてくることある」という内容であるところ、前者の記載については、「ざる」の具体的な内容やそのように表現した根拠が記載されておらず、これをもって、原告の仕事ぶりにつき一定の事実を読み取ることはできないから、事実摘示とはいえない。

 「他方、「前カットの繋がりガン無視して上げてくることある」という記載については、一般の閲覧者の通常の注意と読み方を基準とすれば、原告が、演出の仕事において、前のカットと次のカットとの繋がりを無視して仕上げることがあるとの事実を摘示したものと読み取ることができる。カットの繋がりに矛盾が生じないように仕上げることはアニメーションの演出の仕事において基本的な事項の一つといえるから、上記事実摘示は、原告の社会的評価を低下させるというべきである。」

 (中略)

 「被告は、違法性阻却事由として、原告が、業務の進捗を滞らせ、途中で解約されたことがある旨を主張するが、演出の仕事において、前のカットと次のカットとの繋がりを無視して仕上げる旨の事実摘示が真実であることの理由にはなっておらず、違法性阻却事由に関する主張は採用することができない。

 なお、「相当ざる」等の表現については、以下のとおり、違法な侮辱であるとも認められていません。

 「原告は、アニメーション業界において、作画や演出等を手掛けている者であり、自身が関与した作品における仕事ぶりについて、当該作品の閲覧者等から評価を受けるべき立場にあるといえること、本件投稿は、原告の仕事ぶりに対する評価を記載したものであって、人格非難等に及んだものではないことに照らすと、本件スレッドの表題が「B」であることを考慮に入れたとしても、本件投稿の「相当ざる」などの表現が受忍限度を超えて原告の名誉感情を侵害するものとはいえない。

⑶ 損害

 以下のとおり、合計85万2500円が損害として認められています。

 「(1)慰謝料について
 本件投稿が、何かと問題ばかり起こすろくでもない演出家を晒すという趣旨の「B」に原告の実名を記載して投稿されたものであること、原告の演出家としての仕事内容について、カットの繋がりを無視して仕上げるという虚偽の事実を摘示したものであることなどを考慮すると、原告の受けた精神的苦痛を慰謝するに足りる額は50万円とすることが相当である。」

 「(2)調査費用等について
 原告が、D法律事務所に対して、令和4年1月23日に振り込んだ16万5000円及び同年2月1日に振り込んだ11万円は、本件投稿のIPアドレスの開示及び消去禁止の手続に要する着手金等であり、これらは、本件投稿の投稿者を特定するために必要な支出というべきであるから、被告の不法行為によって原告に生じた損害といえる。
 他方で、株式会社Cの名義で振り込まれたものについては、例え、株式会社Cの全株式を原告が保有しているとしても、両者は別人格である以上、当然に原告に生じた損害であるとはいえない。
 (中略)

 よって、調査費用等の損害は、27万5000円である。」

 調査費用がどこまで損害として認められるのかは裁判例によって判断が異なるところですが、仮に全額が認められる場合でも、委任契約書の内容や費用の支出の方法によって判断が異なる可能性があります。

 「(3)弁護士費用について
 合計額77万5000円の1割に相当する7万7500円は弁護士費用として不法行為と相当因果関係のある損害に当たるというべきである。」

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    1. 誹謗中傷の名誉毀損 ↩︎
    2. 誹謗中傷の名誉感情侵害(侮辱) ↩︎