亡くなった子どもに対する敬愛追慕の情がSNSへの投稿により侵害されたとの理由の損害賠償請求が否定された例

 SNSや掲示板における故人に対する誹謗中傷も、敬愛追慕の情の侵害を理由として、不法行為を構成する場合があります1

 2024年8月30日大阪地方裁判所判決は、敬愛追慕の情の侵害が問題となった事案です。

 故人のご遺族は、Twitter(現X)における故人のツイートに対して、誹謗中傷と思われる投稿がされたような外観の画像を入手しました。

 そこで、ご遺族は、弁護士に相談・依頼し、Twitterの運営会社(コンテンツプロバイダ)に対して発信者情報開示の仮処分の手続2を行い、IPアドレスの開示を受けた後、通信会社(アクセスプロバイダ)に対して発信者情報開示請求を行い、IPアドレスに割り当てられた契約者の情報の開示を受け、投稿主と思われる者を特定しました。

 しかし、本判決は、以下のとおり判断して、投稿に係る画像が捏造されたものである可能性を否定できないとして、ご遺族の被告に対する損害賠償請求を棄却しました。

 「本件画像は亡長女のツイートへの返信投稿のような外観を有するところ、返信投稿であれば返信先や投稿日時が表示されるはずであるにもかかわらず(乙11)、本件画像にはこれらの表示がない(甲1)。そして、本件画像が、その外観に照らし、返信投稿自体ではなく、ツイートに添付された画像を表示させた画面をスクリーンショットしたものと認められること(甲1、乙8)をも併せ考慮すると、本件画像については、トリミング(切り抜き)等の加工がされている可能性が高いものといえる。さらに、前記認定事実(1)のとおり、本件画像の出所は不明であり、被告C(注:ご遺族が依頼した弁護士)は本件返信自体の存在を確認できなかったところ、亡長女の死亡の翌日である令和2年5月24日に本件画像が添付されたツイートを投稿したアカウントについては、捏造した画像を投稿しているとの指摘がインターネット上でされており、本件画像についても同アカウントの利用者が捏造したものであるとするツイートがされていることが認められる(乙12~16)。」

 (中略)

 「以上によれば、本件画像は捏造されたものである可能性を否定できないから、本件画像があることをもって直ちに本件返信が本件アカウントから投稿されたと認めることはできず、ほかにこれを認めるに足りる的確な証拠もない。そうすると、本件返信が本件アカウントから投稿されたことを前提とする原告Aの請求は、その余の点について判断するまでもなく、いずれも理由がない。

 裁判所の手続上での発信者情報開示請求自体必ずしも容易に認められるものではないと思いますが、裁判所の手続上での発信者情報開示請求が認められても、その後の損害賠償請求において不法行為が否定される場合があるので、留意が必要です。

  1. 誹謗中傷の故人に対する名誉毀損 ↩︎
  2. 誹謗中傷・風評被害の発信者情報開示の仮処分手続 ↩︎