公務員の労働問題である分限処分や懲戒処分とは?

1 はじめに

 公務員については、公務員と使用者の関係について、公法上の任用関係であって、労働契約関係とは異なると理解されています。労働契約法でも、「この法律は、国家公務員及び地方公務員については、適用しない」と定められています1

 普通の会社員とは異なる地位・身分にあることから、公務員の労働問題は、会社員の労働問題と違った問題があります。

2 分限処分と懲戒処分?

⑴ 分限処分とは?

 判例は、「分限制度は、公務の能率の維持およびその適正な運用の確保の目的から同条に定めるような処分権限を任命権者に認めるとともに、他方、公務員の身分保障の見地からその処分権限を発動しうる場合を限定したもの」と理解しています(1973年9月14日最高裁判所判決判例時報716号27頁)。

 公務員には身分保障があります。

 国家公務員については、国家公務員法において、「職員は、法律又は人事院規則で定める事由による場合でなければ、その意に反して、降任され、休職され、又は免職されることはない。」、「この法律又は人事院規則で定める事由に該当するときは、降給されるものとする。」と定められています2

 地方公務員についても、地方公務員法において、「職員は、この法律で定める事由による場合でなければ、その意に反して、降任され、又は免職されず、この法律又は条令で定める事由による場合でなければ、その意に反して、休職され、又は降給されることがない。」と定められています3

 例えば、国家公務員の降任、免職、休職等については、以下の法律等が定められています。

 国家公務員法28条1項 職員が、次の各号に掲げる場合のいずれかに該当するときは、その意に反して、これを降任し、又は免職することができる。
一 人事評価又は勤務の状況を示す事実に照らして、勤務実績がよくない場合
二 心身の故障のため、職務の遂行に支障があり、又はこれに堪えない場合
三 前二号に規定する場合のほか、その職に必要な適格性を欠く場合
四 職制若しくは定数の改廃又は予算の減少により廃職又は過員を生じた場合
2項 職員が、次の各号に掲げる場合のいずれかに該当するときは、その意に反して、これを休職することができる。
一 心身の故障のため、長期の休養を要する場合
二 刑事事件に関し起訴された場合
3項 職員の意に反する降任、免職、休職及び降給の手続及び効果は、法律に特別の定めがある場合を除くほか、条例で定めなければならない。
4項 職員は、第16条各号(第二号を除く。)のいずれかに該当するに至ったときは、条例に特別の定めがある場合を除くほか、その職を失う。

 国家公務員法79条 職員が、左の各号の一に該当する場合又は人事院規則で定めるその他の場合においては、その意に反して、これを休職することができる。
一 心身の故障のため、長期の休養を要する場合
二 刑事事件に関し起訴された場合

 分限処分については、分限事由に該当するか等について任命権者にある程度の裁量が認められています。

 しかし、分限制度の目的と関係がない目的や動機等に基いて処分が行われた場合等、分限処分が違法であると判断される場合もあります。

⑵ 懲戒処分とは?

 判例は、「当該公務員に職務上の義務違反、その他(中略)公務員としてふさわしくない非行がある場合に、その責任を確認し、公務員関係の秩序を維持するため科される制裁」と理解しています(1977年12月20日最高裁判所判決民集31巻7号1101頁)。

 例えば国家公務員の懲戒処分の事由については、国家公務員法において次のように定められています。

 国家公務員法82条1項 職員が次の各号のいずれかに該当する場合には、当該職員に対し、懲戒処分として、免職、停職、減給又は戒告の処分をすることができる。
一 この法律若しくは国家公務員倫理法又はこれらの法律に基づく命令(中略)に違反した場合
二 職務上の義務に違反し、又は職務を怠った場合
三 国民全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあった場合
2項 略

 また、地方公務員の懲戒処分の事由については、地方公務員法において、次のように定められています。

 地方公務員法29条1項 職員が次の各号のいずれかに該当する場合には、当該職員に対し、懲戒処分として戒告、減給、停職又は免職の処分をすることができる。
一 この法律若しくは第57条に規定する特例を定めた法律又はこれらに基づく条例、地方公共団体の規則若しくは地方公共団体の機関の定める規程に違反した場合
二 職務上の義務に違反し、又は職務を怠った場合
三 全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあった場合

2項~4項 略

 懲戒処分についても、懲戒処分を行うか等について、任命権者に裁量が認めれています。

 しかし、裁量権の逸脱ないし濫用にあたる場合には、懲戒処分が違法と判断されます(1977年12月20日最高裁判所判決民集31巻7号1101頁)。

 懲戒処分の前提となる事実に誤認がある場合等に、裁量権の逸脱ないし濫用があると認められます。

 国家公務員の懲戒処分の指針として、「懲戒処分の指針について」(人事院事務総長発2000年3月31日職職‐68)が定められています。地方の自治体においても同指針と同じような内容の基準が作成されていることがあります。懲戒処分の指針も、参考になります。

3 違法・不当な分限処分・懲戒処分を受けたら?

 違法・不当な分限処分や懲戒処分を受けた場合、公務員は、どのようにその効力を争うことができるのでしょうか。

 会社員の場合、迅速で柔軟な労働問題の解決を期待できる労働審判手続を利用できますが4、公務員の場合は利用することができません。

 労働審判の利用の可否以外にも会社員と違う部分があり、会社員の労働問題とは、争い方が違っています。公務員という身分・地位の特殊性が違いの理由です。

 公務員の場合、原則として、人事院等への審査請求や、審査請求を経た取消訴訟(裁判)によって、分限処分や懲戒処分の効力を争う必要があります。

 公務員のなかにも様々な方がおり、審査請求を経ない取消訴訟(裁判)や、不当労働行為についての中央労働委員会に対する不当労働行為の救済申立てを選択する必要がある場合もある等、労働問題の解決の手段が色々あります。

4 さいごに

 公務員の労働問題は、会社員の労働問題とは違う部分があります。ただ、弁護士がお役に立てる、解決できる法的な問題であることは、会社員の労働問題と同じです。

 公務員の労働問題について、ご自身では解決が難しい場合は、弁護士へご相談ください。

 当事務所もご相談をお受けしています。当事務所へは、「お問い合わせフォーム」からお問い合わせ願います。

 

  1. 労働契約法21条1項 ↩︎
  2. 国家公務員法75条 ↩︎
  3. 地方公務員法27条2項 ↩︎
  4. 労働審判とは?労働問題の迅速な解決手段? ↩︎