労働審判とは?労働問題の迅速な解決手段?

1 労働事件の裁判には長い時間が必要?

 最高裁判所事務総局が公表した裁判の迅速化に係る検証に関する報告書によれば、2022年の労働事件の裁判の平均審理期間は、17.2か月でした。つまり、約1年半でした。

 民事第一審訴訟事件の裁判の平均審理期間は10.5か月だったので、民事第一審訴訟事件よりも、労働事件の裁判の平均審理期間は長いです。

 なお、審理期間が6か月以内の労働事件の裁判の割合は、15.1%でした1

 また、審理期間が1年超2年以内の労働事件の裁判の割合は、41.7%でした2。民事第一審訴訟事件と比べると、割合が顕著に高いです。

 そして、審理期間が2年を超える労働事件の裁判の割合は、20.4%でした3

 以上のように、労働事件の裁判には、平均的には、約1年半程度の時間が必要です。

 例えば残業代が支払われない、不当な解雇をされた、給与を一方的に減額された等、労働問題は、労働者の生活に多大な影響を及ぼすおそれがあります。

 ですので、一刻も早い解決を望まれることが多いと思います。

 しかし、実際のところ、労働問題の解決に裁判まで必要となると、大体上記のような時間が必要になるのが実情です。

2 労働審判であれば労働問題を迅速に解決できる?

 労働審判とは、不当解雇、給与の不払いや、残業代の未払い等、個々の労働者と会社との間の労働関係のトラブルを、その実情に即し、迅速、適正かつ実効的に解決するための手続です4

 裁判では裁判官が審理・判断をしますが、労働審判手続は、労働審判官(裁判官)1名と、労働審判員2名で組織する労働審判委員会が行います。労働審判員は、労使(労働者と使用者)の専門的知識と経験を持つ方です。

 また、原則公開の裁判とは異なり、労働審判手続は、非公開の手続です。

 労働審判手続は、原則として、3回以内の期日(手続)で審理を終えることになっています。そのため、裁判と比べると、迅速で、柔軟な解決が期待できます。

 2022年の労働審判での労働事件の平均審理期間は、90.3日(約3か月)でした5。裁判での労働事件の平均審理期間と比べて、労働審判手続の平均審理期間が圧倒的に短いことがわかります。

 労働審判手続でも、解雇、給与の減額や残業代の未払い等の労働問題を数日や数週間程度で解決することはできませんが、裁判での解決までの期間と比べると、労働審判手続は、かなり迅速に労働問題を解決できる手続といえます。

 ですので、労働問題の迅速な解決を目指す場合等に、労働審判手続を活用することが考えられます。

3 さいごに

 労働問題の迅速で柔軟な解決を期待できる等、労働審判手続は労働者側にとってもメリットがある手続です。

 例えば、労働審判では付加金が命じられないこと(「残業代の請求と付加金」をご覧ください。)等も考える必要がありますが、残業代の請求も、労働審判手続を利用することで、迅速で、柔軟な解決ができる可能性があります。私自身も、残業代の請求については、まずは労働審判手続の利用を検討することが多いです。

 ただ、複雑な法律問題がある事案、白黒はっきりしたい事案や、労働審判での解決が見込めない事案(例えば不当解雇や懲戒解雇された労働者が復職を強く望んでいるが、会社が復職を受け入れるのが難しい場合)等、労働審判手続ではなく、裁判等の他の法的手続が適しているケースもあります。

 どの法的な手続が適しているかの判断には、専門的な知識が必要になります。

 労働審判手続や裁判等の法的な手続での労働問題の解決は、弁護士にご相談ください。

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  1. 最高裁判所事務総局.裁判の迅速化に係る検証に関する報告書,2023.7,p.127 ↩︎
  2. 最高裁判所事務総局.裁判の迅速化に係る検証に関する報告書,2023.7,p.127 ↩︎
  3. 最高裁判所事務総局.裁判の迅速化に係る検証に関する報告書,2023.7,p.127 ↩︎
  4. https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_minzi/roudousinpan/index.html ↩︎
  5. 最高裁判所事務総局.裁判の迅速化に係る検証に関する報告書,2023.7,p.133 ↩︎