陸上自衛隊員のパワハラ自死、過労うつ、事故等の公務災害について

1 はじめに

 長時間の勤務、隊内でのパワハラやセクハラ等によって陸上自衛隊員がうつ病や適応障害等の精神疾患を発病した場合や過労自死された場合、あるいは事故によって負傷・死亡した場合等、自衛隊員やそのご遺族は、どのような補償を受けることができるのでしょうか。

 会社員が負傷・死亡した場合、会社員やそのご遺族は、労災請求をして労災認定を受けることで、補償を受けることができます。

 陸上自衛隊員が負傷・死亡した場合、自衛隊員やそのご遺族は、国家公務員災害補償制度と同一水準の補償を受けることができます。

2 国家公務員災害補償制度とは?

 国家公務員災害補償制度は、一般職の国家公務員が公務上の災害等を受けた場合に、国が使用者として、その国家公務員又はそのご遺族に対して、災害によって生じた損害を補償し、併せて被災した国家公務員の社会復帰の促進並びに被災した国家公務員及びそのご遺族の援護を図るために必要な福祉事業を行うことを目的としています。

 詳しくは、「国家公務員が過労自死した場合の公務災害について」をご覧ください。

3 陸上自衛隊員が国家公務員災害補償制度と同一水準の補償を受けられること

 国家公務員災害補償制度の対象となる国家公務員は一般職の国家公務員ですので、特別職の国家公務員である自衛官は、国家公務員災害補償制度の対象ではありません。

 しかし、自衛官については、個別の法律等によって、おおむね国家公務員災害補償制度と同一水準の補償が行われています。

 ですので、陸上自衛隊の自衛隊員が公務で負傷・死亡した場合も、自衛隊員やそのご遺族は、国家公務員災害補償制度と同一の水準の補償を受けられます。

 なお、陸上自衛隊員の中には営舎内に居住している方もおり、どこまでが公務といえるのかは判断が難しい場合もありますが、2009年4月15日東京地方裁判所判決判例タイムズ1304号189頁は、自衛隊員が営舎内で就寝中に同僚から殺害された事案について、公務災害に当たると認めています。

4 公務災害の補償の実施の流れ

 補償の実施は、実施機関(人事院が指定する国の機関等)によって行われます。実施機関は、具体的には、防衛省等の機関です。

 人事院は、国家公務員災害補償法の実施に関して、完全な実施の責に任ずる等の権限及び責務を有しており、公務上の災害の認定等を行います。

 実施機関の長は、人事院の定める組織の区分ごとに、それぞれの組織に属する職員のなかから、補償事務主任者を指名します。国家公務員災害補償制度では、補償事務主任者を通じて、災害の発生状況を捉えさせることとされています。

 公務上の認定や公務外の認定までの流れは、概ね以下のとおりです。

 ① 被災者又はそのご遺族の申出、又は補償事務主任者による探知

 ② 補償事務主任者による報告書の作成、実施機関への提出

 報告書には、災害発生の場所及び日時、災害発生の状況とその原因や、公務上の災害であると認める理由等が記載されます。

 ③ 実施機関による公務上外の判断

 ④ 公務上外の認定

 ⑤ 通知

 なお、過労自死等の場合、人事院との協議・承認等を経ることになっています(手続がより複雑になります。)。

 陸上自衛隊員については、防衛大臣の指定する防衛省の機関である実施機関が、補償を受けるべき者に対して、国家公務員災害補償法によって権利を有する旨をすみやかに通知しなければならないとされています。

 実施機関の長には、陸上幕僚長が指定されています。

 陸上幕僚長及びその権限の一部の委任を受ける方面総監が認定権者とされ、方面総監に公務災害の認定等の権限が委任され、業務隊長等に補償金の支給等の権限が委任されています。

 補償事務主任者は、業務隊長等とされています。すなわち、業務隊長等が、報告書を作成します。

 業務隊長等の組織の内部の者が報告書を作成しますので、自衛隊員の公務災害の場合、自衛隊員やそのご遺族が証拠を集めることが最も重要です。

5 国家賠償請求について

 自衛隊員が公務において負傷・死亡し、公務災害と認められ、公務災害の補償を受けても、逸失利益や慰謝料等の損害がすべて補償されるわけではありません(「死亡事故や過労死・過労自死の労災において会社に対して請求できる損害賠償の内容」もご覧ください。)。

 また、公務災害の制度は、国(自衛隊)の対応に違法性(故意・過失、安全配慮義務違反)があったか否かを問う制度ではありません。

 さらに、国家賠償請求のなかで、さらなる事案の究明を行ったり、再発防止策の策定を求めること等もできます。

 ですので、場合によっては、公務災害認定の手続のみならず、国家賠償請求も検討する必要があります。

 なお、公務災害の制度と国家賠償請求は別の手続であり、どちらかを先に行わなければならないと定められているわけではありません。

 ですので、国家賠償請求だけを行ったり、国家賠償請求を先行することも可能です。

 ですが、労災請求と会社に対する損害賠償請求と同じく、通常は、公務災害の手続を先行するのが良いと考えられます(「労災申請と会社に対する損害賠償請求の進め方」参照)。

6 さいごに

 自衛隊員の公務災害については、弁護士にご相談ください。

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