複数の不適切行動を理由とした解雇が有効とされた例

1 勤務成績不良等の理由による解雇

 「能力不足や勤務成績不良等の理由による不当解雇(違法な解雇)」において書かせていただいたとおり、能力不足や勤務成績不良等を理由として解雇された場合、労働者は、解雇の効力を争うことができます。

 労働契約法は、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」と定めています(労働契約法16条)。

 したがって、能力不足や勤務成績不良等を理由とした解雇は、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は」、無効です。

 近畿車輛事件は、「勤務成績又は業務能率が著しく不良で技能発達の見込みがなく、他の職務にも転換できない等、就業に適さない、あるいはこれに準ずるものとして」された解雇の効力が有効(無効ではない)と判断された事例です。

2 近畿車輛事件(令和3年1月29日大阪地方裁判所判決労働判例1299号64頁)

⑴ 当事者

 被告は、鉄道車両の製造・販売等を業とする株式会社です。

 原告は、被告との労働契約に基づき、被告において勤務していた労働者です。

⑵ 本件の概要

 本件は、原告の複数の不適切行動を理由とした被告の原告に対する解雇が有効とされた判決です。

⑶ 裁判所の判断

 「原告が平成25年6月から平成26年5月にかけてグループウェア上に行った多数の書き込みは、被告への反抗の態度や勤務意欲の欠如を示す不適切な内容というべきものであり、グループウェアの使用目的からすれば、被告の業務に支障を生じさせかねないものであったといえる(略)。しかも、原告は、3度にわたり文書で注意ないし警告を受けていながら、反省・改善の意思を示さず、むしろ反発する態度を示しているのであって、その結果、平成27年1月15日に譴責の懲戒処分を受けたものである(略)。」

 「それにもかかわらず、原告は、その後も、平成27年11月16日の部内連絡会のスピーチにおいて勤務意欲を欠く内容の発言を行い(略)、同年10月6日から平成28年3月にかけて被告敷地内で勤務中にパンダの縫いぐるみや被り物を着用し、これに対する被告の注意指導に抗議を行い(略)、平成29年7月から平成31年3月までの間にも、仮入門証、定期健康診断問診票、給与所得者の扶養控除等申告書及び年次休暇届にそれぞれ不適切かつ非常識な多数の記載をして提出することを繰り返していたのであるが(略)、これらの一連の行動や対応を行う業務上の必要性や合理性はおよそ見いだし難い。」

 「このような経過の末、原告は、平成31年4月11日のフィードバック面談において人事評価に不満を抱き、事実上の最低評価であるD評価が目標であり、設計業務に必要なCDAの操作方法が分からなくなったと述べて、勤務意欲の喪失を明らかにするとともに、同月12日及び15日には指示された業務を行わなかった上、同月15日及び17日に2件の事故を起こし、被告に対し不自然・不合理な言い分を述べるなどしていたものである(略)。これらのことからすると、仮に原告が指摘するように同月16日及び17日には従来の設計業務に従事したことがあったとしても、同日の時点においては、客観的にみても、原告によって本来の担当業務が正常に遂行・継続されることは、もはや期待し難い状態となっていたというべきである。」

 (中略)

 「本件解雇から1年以上経過後に適応障害と診断されていることをもって、原告が平成31年3月半ば頃までには同疾病を発症していたと認めることはできない。また、原告の一連の行動等が同疾病に起因する内容・性質のものであると認めるべき的確な医学的根拠も示されていない。そうすると、原告の一連の行動等が精神的な不調に起因するものであったと認めるには足りない。」

 (中略)

 「原告の懲戒処分歴、これを含めた被告の注意・指導に対する原告の反省・改善の欠如、一連の原告の言動から窺われる被告への反発や勤務意欲の低下・喪失及びその顕在化の程度及び態様等を併せ鑑みれば、(略)原告の各主張を踏まえても、被告が、原告について、勤務成績又は業務能率が著しく不良で技能発達の見込みがなく、他の職務にも転換できない等、就業に適さない、あるいはこれに準ずるものとしてした本件解雇には、客観的に合理的な理由があり、かつ、社会通念上も相当なものであったと認められる。」

3 解雇の有効性の判断

 裁判所が、容易には解雇の社会的相当性を認めず、労働者側に有利な諸事情を考慮したり、解雇以外の手段による対処を求めたりすることが多いとの指摘は、あります。

 ですが、本件判決のように解雇が有効と判断される例もあります。

 訴訟の中で明らかになる事情もあるかと思いますが、不当解雇の効力を法的に争うか否か、争うとしてどのように争うのか等も、慎重に検討が必要だと思います(不当解雇の効力はなるべく争わない方が良いという趣旨ではなく、簡単に勝てるとの見立てで労働審判の申立てや訴訟の提起をしたけれども、実際はそうではなかった、というケースは可能な限りない方が良い、という趣旨です。)。