サービスドライバーの残業代の請求と変形労働時間制の例

1 ヤマト運輸(未払割増賃金)事件(令和4年2月22日大阪地方裁判所判決労働判例1302号6頁)

⑴ 当事者

 被告は、宅配等の各種輸送に関わる事業を行う会社です。

 原告は、被告との間で労働契約を締結して、被告社内においてサービスドライバーとして勤務していた労働者です。

⑵ 本件の概要

 本件は、原告の確認を経ていることに照らして勤怠確認リストの記載内容から実労働時間を認定し、また、被告が運用する変形労働時間制が、労働基準法の要件を満たし、同法の趣旨に反しているともいえず、有効である等と判断された事案です。

⑶ 裁判所の判断

ア 実労働時間の認定について

 実労働時間の認定について、本件判決は、ある期間において休憩を取得することが一切できなかった等の原告の主張を排斥した上で、以下の内容等の認定をしています。

 「原告は、平成29年度5月以降の勤怠確認リストの欄外に署名押印をしているところ、署名押印の存在によって、原告がその内容、すなわち、業務用端末機器の操作時刻に係る「PP入力実績」欄に加え、「勤怠登録」欄の「出勤」「退勤」「休憩」記載の時刻ないし時間数を確認していたことが推認できるというべきである。」

 「このように、業務に従事した原告自身の確認を経ているものであることに照らせば、勤怠確認リストにおける「勤怠登録」欄の「出勤」記載の時刻が始業時刻であり、「休憩」記載の時間が休憩時間であるものとして、勤務日ごとの始業時刻及び休憩時間を認定することが相当である。」

イ 変形労働時間制の効力について

 本件判決は、以下の内容等を述べ、変形労働時間制が無効である旨の原告の主張も排斥しています。

 「被告の変形期間内の所定労働時間は、法定労働時間の総枠を超えるものでないことが認定できるというべきである。」

 (中略)

 「被告では、就業規則に基づき、所定労働時間を明示するものとして前月10日までに勤務交番表を作成してこれを事業所に摘示しているのであるから、これによって変形期間内の全ての週及び日の所定労働時間を特定し、SDにそれを周知しているということができる。」

 (中略)

 「所定労働時間を短縮する方向での変更であって、それが実労働時間の短縮にも結び付いていることに加え、(略)被告が就業規則所定の手続(略)を経てその変更を行っていること等を併せ考慮すれば、平成29年9月度における所定労働時間の変更は、被告の変形労働時間制を無効にすべき性質のものと解することはできない。」

2 残業代請求も客観的な証拠に基づいて見通しを慎重に検討する必要があること

 本件では、原告が未払いの残業代の請求をしたところ、原告の請求が棄却されています。

 実労働時間については勤怠確認リスト等の客観的な証拠では証明できない部分の主張・立証が試みられ、変形労働時間制については、その効力が無効であるとの主張・立証もなされています。

 事件番号が令和元年の番号なので、令和元年に訴訟が提起され、令和4年に判決が下されており、審理に長期間を要したのが分かります。原告が、相当、主張・立証を行ったのではないかと思われます。

 実際の労働時間と(手元にある)客観的な証拠から証明できる労働時間にズレが生じることがあります。

 不足している証拠を集められるのか、集められない場合に労働時間を証明できないリスクを依頼者が受け入れられるか等、当然ですが、残業代の請求も、適宜、慎重に見通しを検討して、対応する必要があります。