1 はじめに
労働者が会社に対して残業代を請求したところ、会社は、労働者に対して、労働者が会社に対して負っている損害賠償債務等と相殺をすると主張してきました。
労働者の会社に対する残業代を請求する権利と、労働者が会社に対して負っている損害賠償債務等は、相殺することができるのでしょうか。
2 残業代を請求する権利と会社への債務の相殺が原則としてできないこと
会社は、労働者に対して、賃金の全額を支払わなければなりません。このことを、全額払い原則といいます1。全額払い原則は、会社が一方的に賃金を控除することを禁止して、労働者に賃金の全額を確実に受領させ、労働者の経済生活を脅かすことのないようにしてその保護を図る趣旨によるものです2。
会社が労働者に対して有している損害賠償請求権等と、労働者の会社に対する残業代を請求する権利を相殺することは、賃金の控除に当たります。そのため、実務上、相殺も、全額払い原則に違反すると考えられています。
したがって、残業代を請求する権利と会社への債務の相殺は、原則として、違法です。
3 さいごに
しかしながら、残業代を請求する権利と会社への債務の相殺が違法だとしても、会社が事実上相殺をしてしまう場合があります。
そもそも会社への損害賠償義務等が実際に生じているのかも争う必要があるときもありますが、会社が相殺をしてしまった場合は、労働者は、会社に対して、残業代を支払うよう法的に請求する必要があります。
交渉による請求でも1、2か月前後(場合によってはそれ以上長い期間)時間が必要ですし、訴訟や労働審判等の裁判上の手続をとる場合は数か月の時間が必要です。
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