1 付加金とは?
付加金とは、裁判所が、残業代等を支払わなかった会社に対して、労働者の請求によって、残業代等の未払い賃金のほかに、未払い賃金と同一額の付加金の支払いを命じることができる一種の制裁金です1。
労働審判や訴訟(裁判)において会社に対して残業代の請求をする際、通常、残業代の請求と併せて、残業代と同額の付加金の支払の請求もしています。
例えば、残業代として400万円の残業代を請求する場合、別途、400万円の付加金の支払の請求もしています。
2 付加金の支払はどのような場合に発生するの?
付加金の支払は、労働基準法において、「裁判所は・・・付加金の支払を命ずることができる。」と規定されており、裁判所の命令によって発生します。裁判所は、会社による法違反の程度・態様、労働者の不利益の性質・内容等の様々な事情を考慮して、付加金の支払の要否やその金額を決定します2。
裁判所が命ずるものなので、付加金の支払は、任意の交渉(話し合いでの交渉)や、労基署への相談等では発生しません。
また、労働審判の手続でも、裁判所ではない労働審判委員会は、付加金の支払を命ずることができないと解釈されています。
ですが、実務上、通常、労働審判においても、残業代の請求に併せて、付加金の支払の請求をしています。
付加金の支払の請求には期間の制限があり(除斥期間といいます。)、労働審判で解決できずに訴訟(裁判)に移行する場合に備える必要があるからです。
労働審判では訴訟で裁判官の判決をもらう(付加金の支払を命じてもらう)よりも全体的な金額が下がる可能性はありますが、訴訟での労働時間等の主張・立証の見通し(訴訟で実際に主張のとおりの残業代の発生を証明できるのか等)や、労力(訴訟は、場合によっては2年~3年前後の時間が必要なこともあります。)等を考えると、事案によっては、労働審判で迅速に解決することも一つの選択だと思われます。
残業代の請求において労働審判を申し立てるのか、はじめから訴訟を提起する(裁判を起こす)かについても判断が難しい場合もありますが、残業代の請求については、ご自身では難しい場合は、当事務所にご相談ください。お問い合わせは、「お問い合わせフォーム」からお願いいたします。
- 労働基準法114条 裁判所は、20条、26条若しくは37条の規定に違反した使用者又は39条9項の規定による賃金を支払わなかつた使用者に対して、労働者の請求により、これらの規定により使用者が支払わなければならない金額についての未払金のほか、これと同一額の付加金の支払を命ずることができる。ただし、この請求は、違反のあった時から5年以内にしなければならない。
労働基準法37条1項 使用者が、33条又は前条1項の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の二割五分以上五割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。ただし、当該延長して労働させた時間が一箇月について60時間を超えた場合においては、その超えた時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の五割以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。
2項~3項 略
4項 使用者が、午後十時から午前五時まで(厚生労働大臣が必要であると認める場合においては、その定める地域又は期間については午後十一時から午前六時まで)の間において労働させた場合においては、その時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の二割五分以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。
5項 略 ↩︎ - 水町勇一郎.詳解労働法第3版.東京大学出版会,2023.9,p.121 ↩︎