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うつ病や自死等の労災申請・損害賠償請求・安全配慮義務違反等、解雇・退職勧奨、残業代請求等の労働者側の労働問題を主に取り扱う栄田法律事務所(神奈川県横浜市)です。 | うつ病や自死の労災申請等の労働問題なら栄田法律事務所へ
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未払い残業代請求と事業場外みなし労働時間制

2024 12/01
労働問題 賃金に関する問題(未払賃金、賞与、残業代等)
2024年12月1日
弁護士栄田国良(神奈川県弁護士会所属)

第1 事業場外みなし労働時間制とは

 会社員から残業代請求を受けた会社は、事業場外(会社の外)での会社員の労働時間について、会社員の実際の労働時間ではなく、みなされた労働時間が、残業代の計算における労働時間であると主張することがあります。

 例えば、実際には会社員が12時間働いており残業時間が存在するにもかかわらず、みなし時間が8時間であることから、労働時間が8時間であり、残業が存在しないとの反論がなされることがあります。

 このような会社の主張は、事業場外みなし労働時間制を根拠にするものです。

 事業場外みなし労働時間制の法的根拠については、労働基準法38条の2は、「労働者が労働時間の全部又は一部について事業場外で業務に従事した場合において、労働時間を算定し難いときは、所定労働時間労働したものとみなす。」等と定めています。

 働かれている皆様の中にも、実際の労働時間ではなく、みなし時間が労働時間とされた上で、給与が支払われている方がいらっしゃるのではないでしょうか。

第2 事業場外みなし労働時間制の目的

 事業場外みなし労働時間制は、労働時間の算定が困難な事業場外(会社の外)での労働について、労働時間の算定の便宜を図るために、労働時間のみなしを行うことができることを定めています[i]。

 事業場外(会社の外)で労働することが多い会社員への適用が想定されています。具体的には、外回りのセールス、取材記者等等の会社員への適用が想定されています。

 また、出張等の臨時的な事業場外での労働の場合にも、利用されています。

 近年の働き方では、テレワークの会社員にも利用されることがあります。

第3 事業場外みなし労働時間制が適用される条件

 事業場外みなし労働時間制は、「事業場外で業務に従事した場合」において、「労働時間を算定し難いとき」にのみ適用されます。

 ですので、事業場外(会社の外)で働いていた場合でも、「労働時間を算定し難いとき」に当たらない場合は、事業場外みなし労働時間制は適用されません。

 例えば、以下のような場合は、「労働時間を算定し難いとき」に当たらないため、事業場外みなし労働時間制は適用されません[ii](「改正労働基準法の施行について」(昭和63年1月1日基発第1号)も参照)。

 ① グループで会社外の労働に従事して、労働時間の管理者が同行している場合

 ② 携帯電話やスマートフォン等で、随時、使用者の指示を受けながら労働している場合

 ③ 訪問先や帰社時刻等の具体的な指示を受けて指示どおりに働いて帰社する場合

 ④ テレワークにおいて、「業務が自宅で行われ、パソコン等が使用者の指示によって常時通信可能な状態に置くこととされておらず、業務が随時使用者の具体的な指示に基づいて行われるものではない」とはいえない場合

 事業場外みなし労働時間制が法的には適用されないにもかかわらず適用されてしまっている場合は、残業代請求において、事業場外みなし労働時間制が適用される条件を満たしていないことを主張・立証する必要があります。

 上述の具体例に当たらない場合は、具体的事案において、平成23年9月14日東京高等裁判所判決労働判例1036号14頁の判旨等の理解に基づいて、主張・立証を検討する必要があります。すなわち、平成23年9月14日東京高等裁判所判決労働判例1036号14頁は、事業場外みなし労働時間制の趣旨や「労働時間を算定し難いとき」の解釈について、次のように判示しています。

 ① 「事業場外みなし労働時間制は、使用者の指揮監督の及ばない事業場外労働については使用者の労働時間の把握が困難であり、実労働時間の算定に支障が生ずるという問題に対処し、労基法の労働時間規制における実績原則の下で、実際の労働時間にできるだけ近づけた便宜的な算定方法を定めるものであり、その限りで労基法上使用者に課されている労働時間の把握・算定義務を免除するものということができる。」

 ② 「使用者は、雇用契約上従業員を自らの指揮命令の下に就労させることができ、かつ、労基法上時間外労働に対する割増賃金支払義務を負う地位にあるのであるから、就労場所が事業場外であっても、原則として、従業員の労働時間を把握する義務があるのであり、労基法38条の2第1項にいう「労働時間を算定し難いとき」とは、就労実態等の具体的事情を踏まえ、社会通念に従い、客観的にみて労働時間を把握することが困難であり、使用者の具体的な指揮監督が及ばないと評価される場合をいうものと解すべきこと及び・・・旧労働省の通知(昭和63年1月1日基発第1号、婦発第1号)が発出当時の社会状況を踏まえた「労働時間を算定し難いとき」の例示であることは、原判決の判示するとおり」である。

第4 さいごに

 事業場外みなし労働時間制が適用されないといえる場合、会社員は、さらに、実際の労働時間を主張・立証する必要があります。実際の労働時間を主張・立証できなければ、実際の労働時間に見合った残業代の請求が認められない可能性があります。

 未払いの残業代の請求についてご自身では解決が難しい場合は、当事務所へご相談ください。お問い合わせは「お問い合わせフォーム」からお願いいたします。


[i] 水町勇一郎.詳解労働法第3版.東京大学出版会,2023.9,763頁

[ii] 水町勇一郎.詳解労働法第3版.東京大学出版会,2023.9,763頁~764頁

労働問題 賃金に関する問題(未払賃金、賞与、残業代等)
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