本人の視点から自死(未遂を含む。)の理由を考えること

 過労自殺の労災等のご相談において、故人が何をどう悩まれていたのかを考えさせていただくことがあります。職場での悩みもあれば、私生活での悩みもあると思います。あるいは、自死か否かが分からないご相談では、自死の可能性があるのか考えさせていただくこともあります。

 自死の可能性やその理由を考える際に、できる限り本人の立場に立って(立とうとして)、考えることも重要だと思います。

 本人の立場に立って考えることの重要性について、ショーン・C・シアさんは、ストレッサーの受け止め方が人それぞれである旨述べられています。

 具体例として、ショーン・C・シアさんは、高校のミュージカルで狙っていた主役を逸した若者の例を挙げています。

 皆様は、高校のミュージカルで狙っていた主役を逸することが、自死の理由になると思いますでしょうか。

 ショーン・C・シアさんは、たいていの若者が、このような落胆を人生によくある挫折の一つというように適当な名目で追いやってしまうと述べられています。

 しかし、ショーン・C・シアさんは、続けて、例えばその若者が家庭内でアルコール依存症の父親に絶えずバカにされ、虐待されていたらどうであろうか、さらに、演劇志望者向けに授与する大学の奨学金を獲得することで、自分の悪夢から逃れたいと、それこそ夜も眠れなくなるほど強く夢見ていたとしたらどうか、と述べられています。

 そして、その若者の世界に入り、その若者が日々のストレッサーを見ている視点を借りて、特定の出来事をみないと、本人の悲痛の意味などは明らかには見えてこない旨述べられています。

 第三者の視点から客観的にストレッサーを理解することも重要ですが、本人の視点から理解する(しようとする)ことも重要なのだと思います。

 参考文献

 ショーン・C・シア.自殺リスクの理解と対応 「死にたい」気持ちにどう向き合うか.株式会社金剛出版,2012,p.43‐44