残業代請求等における割増賃金について

第1 一定の場合に会社が割増賃金を支払わなければならないこと

 残業に対する残業代という言葉も使われますが、会社は、労働者に以下の労働をさせた場合、割増賃金を支払わなければなりません。

1 時間外労働・休日労働の割増賃金

 労働者に労働基準法上の時間外労働(週40時間、1日8時間の法定労働時間を超える労働)[i]や休日労働(週1日の法定休日における労働)[ii]をさせた場合、通常の労働時間または労働日の賃金の2割5分以上5割以下の範囲名で政令の定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければなりません[iii]

 それが60時間を超えた場合、その部分については通常の労働時間の賃金の5割以上の率で計算した割増賃金を支払わなければなりません[iv]

2 深夜労働の割増賃金

 深夜労働(午後10時から午前5時までの労働)をさせた場合、通常の労働時間の賃金の2割5分以上の率で計算した割増賃金を支払わなければなりません[v]

第2 割増賃金の趣旨は?

 時間外労働・休日労働の割増賃金や、深夜労働の割増賃金の趣旨は以下のとおりです。

 したがって、いわゆる残業代等の割増賃金の請求は、労働者の正当な権利です。

1 時間外労働・休日労働の割増賃金の趣旨

 時間外労働・休日労働の割増賃金は、法定労働時間制・週休制の原則の維持を図るとともに、過重な労働に対する労働者への補償を行う趣旨から定められたものです。

2 深夜労働の割増賃金の趣旨

 深夜労働の割増賃金は、深夜という時間帯での労働の強度等に対する労働者への補償という趣旨で定められたものです。

第3 割増賃金の意味とは?

 会社が労働者に対して2割5分以上の割増賃金を支払わなければならない場合、会社が労働者に対してその時間に対応する基本賃金(給与)を支払っていないとき(給与が一切支払われていないとき)、割増賃金は、未払の基本賃金(給与。100%部分)を含む125%以上を意味するものと考えられます。

第4 割増賃金の計算方法

 割増賃金は、「通常の労働時間又は労働日の賃金」を基礎として算定されます[vi]

 「通常の労働時間又は労働日の賃金」とは、その労働を通常の労働時間・労働日に行った場合に支払われる賃金を意味します。

 具体的な計算方法としては、「通常の労働時間又は労働日の賃金」を、所定労働時間数(例えば月給制の場合には月の所定労働時間数)で除して、1時間当たりの割増賃金の単価が算出されます[vii]

  「通常の労働時間又は労働日の賃金」÷所定労働時間数=1時間当たりの割増賃金の単価

 例えば、以下の場合は、1時間当たりの割増賃金の単価は、約1,740円です。

 「通常の労働時間又は労働日の賃金」=月給の30万円

 所定労働時間数=173時間

 ただし、出来高払制等の実際の仕事の成果に応じて額が定められる賃金については、算定期間における基礎賃金の総額を、当該算定期間における総労働時間で除して、算出されます[viii]。そして、実務上、時間外労働時間についても総労働時間の一部として通常の賃金分が支払われているとして、1時間当たりの単価は、通常賃金に割増率を乗じた0.25のみになると考えられています。

  算定期間における基礎賃金の総額÷算定期間における総労働時間×0.25=1時間当たりの割増賃金の単価

第5 残業代等の割増賃金の時効

 残業代等の割増賃金の時効は、現在は3年です[ix]

 ですので、3年前まで遡って請求することができます。

 時効の期間が過ぎると、原則としては請求が認められません。

第6 さいごに

 以上は基礎的な知識ですが、残業代等の割増賃金の請求は、証拠の収集、固定残業代や各種手当等の法的性質の分析、労働時間該当性の法的判断、法的手続を含めた手続選択(任意交渉、労働審判、訴訟等)等が重要になります。

 会社に対する残業代の請求は、当事務所へご相談ください。お問い合わせは、「お問い合わせフォーム」からお願いいたします。

第7 参考文献

 旬報法律事務所編.改訂版未払い残業代請求法律実務マニュアル.学陽書房,2022

 水町勇一郎.詳解労働法第3版.東京大学出版会,2023


[i] 労働基準法32条1項 使用者は、労働者に、休憩時間を除き1週間について40時間を超えて、労働させてはならない。

 2項 使用者は、1週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き1日について8時間を超えて、労働させてはならない。

[ii] 労働基準法35条1項 使用者は、労働者に対して、毎週少くとも一回の休日を与えなければならない。

[iii] 労働基準法37条1項 使用者が、第33条又は前条第1項の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の2割5分以上5割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。ただし、当該延長して労働させた時間が1箇月について60時間を超えた場合においては、その超えた時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の5割以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。

 労働基準法33条1項 災害その他避けることのできない事由によって、臨時の必要がある場合においては、使用者は、行政官庁の許可を受けて、その必要の限度において第32条から前条まで若しくは第40条の労働時間を延長し、又は第35条の休日に労働させることができる。ただし、事態急迫のために行政官庁の許可を受ける暇がない場合においては、事後に遅滞なく届け出なければならない。

 2項 前項ただし書の規定による届出があつた場合において、行政官庁がその労働時間の延長又は休日の労働を不適当と認めるときは、その後にその時間に相当する休憩又は休日を与えるべきことを、命ずることができる。

 3項 公務のために臨時の必要がある場合においては、第1項の規定にかかわらず、官公署の事業(別表第一に掲げる事業を除く。)に従事する国家公務員及び地方公務員については、第32条から前条まで若しくは第40条の労働時間を延長し、又は第35条の休日に労働させることができる。

 労働基準法36条1項 使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定をし、厚生労働省令で定めるところによりこれを行政官庁に届け出た場合においては、第32条から第32条の5まで若しくは第40条の労働時間(略)又は前条の休日(略)に関する規定にかかわらず、その協定で定めるところによって労働時間を延長し、又は休日に労働させることができる。

[iv] 労働基準法37条1項ただし書

[v] 労働基準法37条4項 使用者が、午後10時から午前5時まで(厚生労働大臣が必要であると認める場合においては、その定める地域又は期間については午後11時から午前6時まで)の間において労働させた場合においては、その時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の2割5分以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。

[vi] 労働基準法37条1項、4項

[vii] 労働基準法施行規則19条1項 法第37条第1項の規定による通常の労働時間又は通常の労働日の賃金の計算額は、次の各号の金額に法第33条若しくは法第36条第1項の規定によって延長した労働時間数若しくは休日の労働時間数又は午後10時から午前5時(厚生労働大臣が必要であると認める場合には、その定める地域又は期間については午後11時から午前6時)までの労働時間数を乗じた金額とする。

 一 時間によって定められた賃金については、その金額

 二 日によって定められた賃金については、その金額を1日の所定労働時間数(日によって所定労働時間数が異る場合には、1週間における1日平均所定労働時間数)で除した金額

 三 週によって定められた賃金については、その金額を週における所定労働時間数(週によって所定労働時間数が異る場合には、4週間における1週平均所定労働時間数)で除した金額

 四 月によって定められた賃金については、その金額を月における所定労働時間数(月によって所定労働時間数が異る場合には、1年間における1月平均所定労働時間数)で除した金額

 五 月、週以外の一定の期間によって定められた賃金については、前各号に準じて算定した金額

[viii] 労働基準法施行規則19条1項6号 出来高払制その他の請負制によって定められた賃金については、その賃金算定期間(賃金締切日がある場合には、賃金締切期間、(略))において出来高払制その他の請負制によって計算された賃金の総額を当該賃金算定期間における、総労働時間数で除した金額

[ix] 労働基準法115条 この法律の規定による賃金の請求権はこれを行使することができる時から5年間、この法律の規定による災害補償その他の請求権(賃金の請求権を除く。)はこれを行使することができる時から2年間行わない場合においては、時効によって消滅する。

 労働基準法143条3項 第115条の規定の適用については、当分の間、同条中「賃金の請求権はこれを行使することができる時から5年間」とあるのは、「退職手当の請求権はこれを行使することができる時から5年間、この法律の規定による賃金(退職手当を除く。)の請求権はこれを行使することができる時から3年間」とする。