過労自殺・過労うつ等の労災申請において、通勤時間は労働時間に含まれるの?

1 はじめに

 過労死・過労自殺・過労うつ等の労災申請において長時間労働の有無が問題となる場合に、通勤時間が労働時間に含まれるのか、業務の過重性として評価されるのかが問題となることがあります。

2 純粋な通勤時間

 純粋な通勤時間は、労働時間(業務の過重性)として評価するのが困難です[i]

3 会社からの指示によって増加した通勤時間

 会社からの指示によって増加した分の通勤時間は、労働時間として評価するのが相当です。

 例えば会社からの指示によって1時間増加したのであれば、その1時間は、労働時間として評価されるべきです。

 なお、厚生労働省労働基準局補償課が取りまとめた「労働時間の認定に係る質疑応答・参考事例集」では、以下の考え方が示されています。

 すなわち、「移動時間については、使用者が、業務に従事するために必要な移動を命じ、当該時間の自由利用が労働者に保障されていないと認められる場合には、労働時間に該当するものである」との考え方を示した上で、「所定労働時間外であっても、自ら乗用車を運転して移動する場合、移動時間中にパソコンで資料作成を行う場合(略)等であって、これらの労働者の行為が使用者から義務付けられ、又はこれを余儀なくされていたものであれば、労働時間として取り扱うことが妥当であり、労働時間に該当するか否かを、実態に応じて個別に適切に判断すること」とされています(28頁)。

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4 参考文献

 令和3年3月付け厚生労働省労働基準局補償課「労働時間の認定に係る質疑応答・参考事例集」(厚生労働省労働基準局補償課長令和3年3月30日基補発0330第1号別添)

 井上繁規「時間外労働時間の理論と訴訟実務」378頁以下

 古川拓「労災事件救済の手引」第2版・93頁

 大阪過労死問題連絡会編「過労死・過労自殺の救済Q&A」第3版・125頁以下


[i] 労働者災害補償保険法7条2項が参照されることがあります。

労働者災害補償保険法7条1項 略

 2項 前項第3号の通勤とは、労働者が、就業に関し、次に掲げる移動を、合理的な経路及び方法により行うことをいい、業務の性質を有するものを除くものとする。

 1号 住居と就業の場所との間の往復

 2号 厚生労働省令で定める就業の場所から他の就業の場所への移動

 3号 第1号に掲げる往復に先行し、又は後続する住居間の移動(略)

 3項 略