地方公務員が過労死・過労自殺した場合の公務災害について

第1 はじめに

 長時間労働やパワーハラスメント等によって地方公務員が過労死・過労自殺した場合、遺族は、どのような補償を受けることができるのでしょうか?

 会社員が過労死・過労自殺した場合、遺族は、労災認定を受けることで、補償を受けることができます。国家公務員が過労自死した場合、遺族は、国家公務員災害補償制度等による補償を受けることができます(「国家公務員が過労自死した場合の公務災害について」参照)。

 他方で、地方公務員が過労死・過労自殺した場合、遺族は、地方公務員災害補償制度という制度等の補償を受けることができます。

 会社員の労働災害等と地方公務員の公務災害とでは、制度が異なり、手続の流れや公務災害が認められるための条件等も異なってきますので、地方公務員の公務災害について理解することが必要です。

第2 地方公務員災害補償制度

 地方公務員災害補償制度は、地方公務員等が公務上の災害(負傷、疾病、傷害又は死亡)等を受けた場合に、その災害によって生じた損害を補償し、必要な福祉事業を行い、被災した職員及びその遺族の生活の安定と福祉の向上に寄与することを目的とする制度です。

第3 地方公務員災害補償制度の適用関係

 地方公務員等の災害補償制度の適用範囲と補償を実施する機関を整理すると、以下のとおりです(2022年12月付地方公務員災害補償基金宮城県支部作成「公務災害・通勤災害補償事務の手引」8頁「地方公務員の災害補償制度の適用範囲及び実施機関」参照)。

 

区分身分対象者適用法令補償実施機 関
  常勤職員地方公務員特別職地方公共団体 知事・市町村長・一部事務組合管理者副知事・副市町村長 教育長・監査委員・企業管理者  地方公務員災害補償法  地方公務員災害補償基金
一般職地方公共団体 一般職員(事務・技術・その他の職員)教員 警察職員 消防職員 企業職員 船員
非公務員一般地方独立行政法人役員 職員
  非常勤職員  地方公務員  特別職地方公共団体  
 議員、監査委員、行政委員会の委員、附属機関の委員、統計調査員、民生委員、母子・父子自立支援員、婦人相談員、その他の非常勤職員(他の法令の適用を受けない者)地方公務員災害補償法に基づく条例地方公共団体
その他の非常勤職員(労働者災害補償保険法第3条適用事業所に勤務する者)労働者災害補償保険法国(厚生労働省)
 消防団員及び水防団員消防組織法、水防法及び消防団員等公務災害補償等共済基金法に基づく条例地方公共団体
 学校医、学校歯科医及び学校薬剤師公立学校の学校医、学校歯科医及び学校薬剤師の公務災害補償に関する法律に基づく条例
特定地方独立行政法人  
 使用者たる役員地方独立行政法人が定める地方独立行政法人
常勤的非常勤職員地方公務員災害補償法地方公務員災害補 償基金
一般職地方公共団体  
 常勤的非常勤職員 再任用短時間勤務職員地方公務員災害補償法地方公務員災害補償基金
臨時職員等(他の法令の適用を受けない 者)地方公務員災害補償法に基づく条例地方公共団体
臨時職員等(労働者災害補償保険法第3 条適用事業所に勤務する者)労働者災害補償保険法 
特定地方独立行政法人  
 常勤的非常勤職員 再任用短時間勤務職員地方公務員災害補償法地方公務員災害補償基金
臨時職員等労働者災害補償保険法国(厚生労働省)
船員船員保険法国(厚生労働省)
非公務員一般地方独立行政法人  
 使用者たる役員地方独立行政法人が定める地方独立行政法人
常勤的非常勤職員地方公務員災害補償法地方公務員災害補 償基金
臨時職員等労働者災害補償保険法国(厚生労働省)

注1 「常勤職員の一般職」の中には、女子教職員の出産に際しての補助教職員の確保に関する法律に規定する産休補助教員、休職補充等の教育職員、地方公務員の育児休業等に関する法律に規定する臨時的に任用された教職員も含まれます。

注2 地方公共団体の職員であった者が、公益法人等に派遣されている場合は、地方公務員災害補償法ではなく労働者災害補償保険法の対象となります。

注3 「労働者災害補償保険法適用事業所」とは、労働基準法別表第一に該当する事業所であり、水道、交通、保健衛生、清掃などの事業所が該当します。

第4 地方公務員災害補償基金

 地方公務員災害補償基金は、本部と支部によって構成されています。

 本部は、東京都にあります。支部は、各都道府県及び指定都市に置かれています。

 参考:地方公務員災害補償基金のHP

第5 公務災害認定請求から補償までの流れ

 1 公務災害認定請求

 地方公務員災害補償基金が行う補償は、被災職員又は遺族からの請求によって行われます。

 被災職員又は遺族は、地方公務員災害補償基金支部長に対して、被災職員の所属長の証明を受け、任命権者を経由して、その災害が公務災害等であることの請求を行います。

 「任命権者を経由して」とされていますが、認定請求書は、所属長を通じて、任命権者に提出します。

 所属長は、本庁の課長相当職以上の職にある者、事務所長、事業所長、学校長や警察署長等です。

 任命権者は、市町長、一部事務組合管理者、水道事業管理者、教育委員会、県警察本部長や消防長等です。

   

 2 公務災害認定請求の結果

 地方公務員災害補償基金支部長は、認定請求について審査を行い、災害が公務災害か否かを認定し、結果を請求者と任命権者に通知します。

 3 補償の請求

 被災職員又は遺族は、公務災害等と認定されたものについて、補償の請求書を提出し、補償を受けます。

第6 補償の内容

 公務災害と認定されると、被災職員又は遺族は、各種の補償を受けることができます。

 過労死・過労自殺の場合、被災職員の遺族は、遺族補償、葬祭補償、遺族特別支給金・遺族特別援護金・遺族特別給付金という補償を受けることができます。

 1 遺族補償

  ⑴ 遺族補償年金・遺族特別給付金(年金)

   ① 受給資格者

 受給資格があるのは、次の遺族で、被災職員の死亡の当時その収入により生計を維持していた方です。ただし、受給資格が喪失することもあります。

    ア 配偶者(妻又は60歳以上の夫)

    イ 子(満18歳になる年度の年度末まで)

    ウ 60歳以上の父母

    エ 孫(満18歳になる年度の年度末まで)

    オ 60歳以上の祖父母

    カ 兄弟姉妹(満18歳になる年度の年度末までか60歳以上)

    キ 55歳以上60歳未満の夫、父母、祖父母、兄弟姉妹

 被災職員の死亡の当時に一定の障害の状態にあった夫等については、年齢の制限はないです。

   ② 受給権者

 受給権者は、受給資格者のうち最も順位が高い方です。

 年金を受ける順位は、上記のアからキの順序(キでは文章の順序)とされています。ただし、キの方については、60歳まで年金は支給されません。

   ③ 遺族特別給付金

 遺族補償年金の受給権者には、遺族特別給付金(年金)が支給されます。

   ④ 支給額

 2024年付地方公務員災害補償基金作成「令和6年度版災害補償のしおり」8頁参照

受給権者と、受給権者と生計を同じくする受給資格者の人数(⑴の①のキの方は60歳まで受給資格者の数に含まれません。)遺族補償年金遺族特別給付金※
  1人a b以外の方平均給与額×153  遺族補償年金の額 ×20/100
b 55歳以上の妻又は一定の障害の状態にある妻  平均給与額×175
2人平均給与額×201
3人平均給与額×223
4人以上平均給与額×245

※ 遺族特別給付金の支給額には上限があります。

  ⑵ 遺族補償一時金・遺族特別給付金(一時金)

 遺族補償一時金は、遺族補償年金の受給資格者がいないときに支給されます。

   ① 受給資格者

 受給資格があるのは、次の遺族です。

    ア 配偶者(55歳未満の夫、被災職員の死亡の当時その収入により生計を維持していなかった配偶者)

    イ 被災職員の死亡の当時その収入により生計を維持していた子、父母、孫、祖父母と兄弟姉妹(被災職員に扶養されていた19歳以上の子、55歳未満の祖父母等)

    ウ ア、イ以外の方で、主として被災職員の収入により生計を維持していた方(被災職員に扶養されていた配偶者の父母、おじ・おば等)

    エ イに該当しない子、父母、孫、祖父母と兄弟姉妹(被災職員に扶養されていなかった子、父母等)

   ② 受給権者

 受給権者は、受給資格者のうち最も順位が高い方です。

 一時金を受ける順位は、アからエの順序(イとエは文章の順序)とされています。

   ③ 遺族特別給付金

 遺族補償一時金の受給権者には、遺族特別給付金(一時金)が支給されます。

   ④ 支給額

 2024年付地方公務員災害補償基金作成「令和6年度版災害補償のしおり」8頁参照

区分遺族補償一時金遺族特別給付金※
a ア、イ、エに掲げる方平均給与額×1,000  遺族補償一時金の額 ×20/100
b ウのうち、三親等内の親族で、職員の死亡の当時18歳未満若しくは55歳以上又は一定の障害の状態にある方  平均給与額×700
c その他の方平均給与額×400

※ 遺族特別給付金の支給額には上限があります。

  ⑶ 遺族特別支給金・遺族特別援護金

 2024年付地方公務員災害補償基金作成「令和6年度版災害補償のしおり」9頁参照

  区分  遺族特別支給金遺族特別援護金
公務災害通勤災害
年金の受給権者300万円1,735万円1,045万円
  一時金の受給権者⑵の④のaに該当する方300万円1,735万円1,045万円
⑵の④のbに該当する方210万円1,215万円730万円
⑵の④のcに該当する方120万円695万円420万円

  ⑷ 葬祭補償

 葬祭を行った方又は社会通念上葬祭を行うと見られる方に、次のいずれか高い額が支給されます。

   ① 315,000円+平均給与額×30

   ② 平均給与額×60

第7 不服申立制度

 1 支部審査会への審査請求

 被災職員又は遺族は、地方公務員災害補償基金支部長が行った公務災害等の認定等の決定(過労死・過労自殺等に当たらないとの内容の決定等)に対して不服がある場合、地方公務員災害補償基金の支部審査会に対して、審査請求をすることができます。

 審査請求は、地方公務員災害補償基金支部長の処分があったことを知った日の翌日から起算して3か月以内に行う必要があります。

 支部審査会の標準的な審理の期間は、おおむね12か月程度だといわれています。

 参考:行政不服審査法第16条の規定に基づく地方公務員災害補償基金支部審査会の標準審理期間について

 2 審査会への再審査請求

 支部審査会の裁決(過労死・過労自殺等に当たらないとの内容の裁決)に対して不服がある者は、さらに、本部の地方公務員災害補償基金審査会に対して再審査請求をすることができます。

 再審査請求は、支部審査会の裁決があったことを知った日の翌日から起算して1か月以内に行う必要があります。

 審査会の標準的な審理の期間は、12か月程度だといわれています。

 参考:行政不服審査法第16条の規定に基づく地方公務員災害補償基金審査会の標準審理期間について

 3 訴訟の提起

 審査請求や再審査請求に対する裁決の結果について不服がある者は、訴訟による救済を求めることができます。

 訴訟の提起は、支部審査会又は審査会の裁決があったことを知った日の翌日から起算して6か月以内にすることができます。

 ただし、審査請求後3か月を経過しても支部審査会による裁決がないときも、訴訟を提起することができます。また、再審査請求をした場合、審査会による裁決を経る前に、訴訟を提起することができます。

第8 国家賠償請求

 公務災害認定によっても補償されない損害は、国家賠償請求によって補償を受けることができます。

 国家賠償請求と公務災害認定請求は別個の手続きです。

 別個の手続きですので、①国家賠償請求だけを行う、②国家賠償請求を先行する、③国家賠償請求と公務災害認定請求を並行することも可能です。

 ですが、実務上、公務災害認定請求を先行することが多いです。

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