労災認定の対象となる精神障害での休職中の解雇について

1 はじめに

 労働者が仕事での長時間労働やパワーハラスメント等の過重労働によってうつ病等の精神障害に罹患し休職中に、会社から解雇すると言われた場合、労働者は仕事を辞めなければいけないのでしょうか?

2 労働者には解雇されない権利があること

 会社は、原則として、労働者が業務上の疾病(労災が認定される精神障害も含まれます。)の療養のために休業する期間とその後30日間は、労働者を解雇してはならないとされています。すなわち、労働者には、解雇されない権利があります[i]

3 会社から解雇を言い渡されそうな場合や、言い渡された場合

 しかし、実際には、精神障害の労災が認められる場合でも、労働者が実際に労災の認定を受けなければ、会社は、仕事が原因とする精神障害ではないとして、就業規則等で定める休職期間の満了後に、労働者を解雇することがあります。

 ですので、労災申請を早く行うのが望ましいです。労災認定を受ける前に解雇すると言われた場合、解雇されないように働き掛けることも大切です。

 精神障害の労災の認定を受けられるにもかかわらず解雇されてしまった場合、労働者は会社に対して解雇が無効であると、任意の交渉や法的手続で主張することも可能です。

 結果的に労災の認定を受けられなかったとしても、労働者の病状の経過観察や医師の意見の有無、その内容等によっては、解雇が無効である可能性もあります。

 治療の経過や会社の様子等を見ながら、ご自身の健康にも十分配慮しながら、どのように対応するのが適切か検討することが重要です。

 精神障害の労働災害は、当事務所へご相談ください。お問い合わせは、「お問い合わせフォーム」からお願いいたします。

4 参考文献

 川人博他「過労死・過労自殺労災認定マニュアル」57頁

 岡村親宜「過労死・過労自殺と労災補償・賠償」28頁以下

 古川拓「労災事件救済の手引」第2版・300頁以下


[i] 労働基準法19条 使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後30日間並びに産前産後の女性が第65条の規定によって休業する期間及びその後30日間は、解雇してはならない。ただし、使用者が、第81条の規定によって打切補償を支払う場合又は天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合においては、この限りでない。

 2項 前項但書後段の場合においては、その事由について行政官庁の認定を受けなければならない。

 労働基準法81条 第75条の規定によって補償を受ける労働者が、療養開始後3年を経過しても負傷又は疾病がなおらない場合においては、使用者は、平均賃金の1200日分の打切補償を行い、その後はこの法律の規定による補償を行わなくてもよい。

 労働基準法75条 労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかった場合においては、使用者は、その費用で必要な療養を行い、又は必要な療養の費用を負担しなければならない。

 2項 前項に規定する業務上の疾病及び療養の範囲は、厚生労働省令で定める。

 労働者災害補償保険法19条 業務上負傷し、又は疾病にかかった労働者が、当該負傷又は疾病に係る療養の開始後3年を経過した日において傷病補償年金を受けている場合又は同日後において傷病補償年金を受けることとなった場合には、労働基準法第19条第1項の規定の適用については、当該使用者は、それぞれ、当該3年を経過した日又は傷病補償年金を受けることとなった日において、同法第81条の規定により打切補償を支払ったものとみなす。