1 はじめに
残業が多いこと等による長時間労働等による過重な仕事が原因による過労死は、労災が認められる可能性があります。
それでは、労災における過労死は、どのような病気(疾病)が対象になるのでしょうか。
2 過労死の対象となる疾病
⑴ 認定基準の考え方
ア 対象となる疾病
過労死の認定基準によると、脳・心臓疾患の対象となる疾病[i]は、以下のとおりとされています。
① 脳血管疾患
脳内出血(脳出血)
くも膜下出血
脳梗塞
高血圧性脳症
② 虚血性心疾患等
心筋梗塞
狭心症
心停止(心臓性突然死を含む。)
重篤な心不全
大動脈解離
イ 対象となる疾病以外の取り扱い
また、過労死の認定基準では、対象となる疾病以外の取り扱いについて、以下のとおりとされています。
① 動脈の閉塞又は解離
体循環系の各動脈の閉塞又は解離については、基礎疾患の状況や業務の過重性等を個別に検討し、対象となる疾病と同様の経過で発症し、業務が相対的に有力な原因であると判断できる場合には、「その他業務に起因することの明らかな疾病」[ii]として取り扱うとされています。
② 肺塞栓症
肺塞栓症やその原因となる深部静脈血栓症については、動脈硬化等を基礎とする対象となる疾病とは発生機序が異なることから、認定基準の対象となる疾病とされていません。
肺塞栓症等については、業務による座位等の状態やその継続の程度などが、深部静脈における血栓形成の有力な要因であったといえる場合に、「その他身体に過度の負担のかかる作業態様の業務に起因することの明らかな疾病」[iii]として取り扱うとされています。
⑵ 認定基準の留意点
ア 不整脈について
認定基準の留意点では、「旧認定基準においては不整脈が一義的な原因となった心不全症状等について、『心停止(心臓性突然死を含む。)』に含めて取り扱うこととされていた。しかし、心停止とは異なる病態である心不全を『心停止(心臓性突然死を含む。)』に含めて取り扱うことは適切でなく、また、不整脈によらず、心筋症等の基礎疾患を有する場合にも、業務による明らかな過重負荷によって当該基礎疾患が自然経過を超えて著しく増悪し、重篤な心不全が生じることが考えられる。このため、不整脈によるものも含め『重篤な心不全』が対象疾病に追加されたこと。」と記されています。
さらに、不整脈は、「心室細動や心室静止等の致死的不整脈による心停止、又は心室頻拍、心房頻拍、心房粗・細動等による心不全症状あるいは脳虚血症状などにより死亡又は療養が必要な状態になったものをいうことから、その症状に応じて、心停止、重篤な心不全、脳梗塞など対象疾病のいずれに当たるかを確認し、該当する疾病として取り扱う」と記されています。
イ 心不全について
認定基準の留意点では、「心不全とは、何らかの心臓機能障害が生じて心ポンプ機能の代償機転(略)が破綻した結果、呼吸困難・倦怠感や浮腫が出現し、運動耐容能が低下した状態を指す。」等と記した上で、「入院による治療を必要とする急性心不全を念頭に、対象疾病が『重篤な心不全』に限定されたものである」等と記されています。
ウ 脳卒中について
認定基準の留意点では、「脳内出血、くも膜下出血及び脳梗塞については、一過性脳虚血発作(略)も含めて脳卒中と総称される」と記した上で、「疾患名を確認し、対象疾病以外の疾病であることが確認された場合を除き、認定基準によって判断して差し支えない」と記されています。
⑶ そのほかの疾患
過労死の認定基準は、脳血管疾患と虚血性心疾患等に関するものです。
しかし、脳血管疾患や虚血性心疾患等でなくても、労災が認定されることがあります。
例えば、以下の疾病のものが、労災と認定されたことがあります。
① 喘息死
② てんかん発作が原因による死亡
過労死の労働災害は、当事務所へご相談ください。お問い合わせは、「お問い合わせフォーム」からお願いいたします。
3 参考文献
「血管病変等を著しく増悪させる業務による脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準について」(厚生労働省労働基準局長令和5年10月18日改正基発1018第1号)
「血管病変等を著しく増悪させる業務による脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準に係る運用上の留意点について」(厚生労働省労働基準局補償課長令和5年10月18日改正基補発第1018第1号)
脳・心臓疾患の労災認定の基準に関する専門検討会「脳・心臓疾患の労災認定の基準に関する専門検討会報告書」
大阪過労死問題連絡会編「過労死・過労自殺の救済Q&A」第3版・112頁、113頁
川人博他「過労死・過労自殺労災認定マニュアル」42頁、43頁
古川拓「労災事件救済の手引」第2版・80頁以下
佐久間大輔「労災・過労死の裁判」168頁以下
[i] 労働基準法施行規則別表1の2第8号