1 はじめに
会社の人事管理の手段として配点と同様に活用されているのが、出向と転籍です。
出向は、労働者が自己の雇用先の会社に在籍のまま、他の会社の従業員や役員となって相当長期間にわたって他の会社の業務に従事することをいいます。在籍出向、長期出張、社外勤務などとも呼ばれます。
転籍は、労働者が自己の雇用先の会社から他の会社へ籍を移して、他の会社の業務に従事することをいいます。移籍とも呼ばれます。
それでは、出向や転籍があった場合、労働者の労災は、どのように考えられるのでしょうか?
2 出向労働者の労災
出向労働者は、自己の雇用先の会社に在籍のまま、他の会社員の従業員や役員となります。
そこで、労災保険法上の事業主、すなわち会社は、出向元の会社なのか、出向先の会社なのかが問題となります。
この点、通達では、①出向の目的、②出向元の会社と出向先の会社とが出向労働者の出向について行った契約、③出向先の会社での出向労働者の労働の実態等に基づいて、出向労働者の労働関係の所在を判断して、決定するとされています。
さらに、通達では、以下の3点を満たす場合には、出向先の会社を労災保険法上の会社として取り扱うこととしています。
① 出向労働者が、出向先の会社の組織に組み入れられていること。
② 出向労働者が、出向先の会社の他の労働者と同様の立場(ただし、身分関係と賃 金関係を除く。)であること。
③ 出向労働者が、出向先の会社の指揮監督を受けて労働に従事していること。
3 転籍労働者の労災
転籍の場合には、転籍元の会社との労働契約関係が終了しており、転籍先の会社との労働契約関係が開始しています。
したがって、労災保険法上の会社は、原則として、転籍先の会社になります。
4 出向や転籍によって海外勤務になった労働者の労災
なお、労災保険の適用範囲は国内に限られますので、出向や転籍により労働者が海外勤務になる場合、海外で被災したときに、被災した労働者が国内の労災保険の適用を受けられるかが問題となります[i]。
この点、「海外派遣者の特別加入」[ii]がなされていると、海外の会社に派遣された労働者[iii]も、国内の労働者と同様の保護を受けられます。
出向や転籍がある場合の労働災害は、当事務所へご相談ください。お問い合わせは、「お問い合わせフォーム」からお願いいたします。
5 参考文献
「出向労働者に対する労働者災害補償保険法の適用について」(1960年11月2日基発第932号)
菅野和夫「労働法」第12版735頁
下井隆史「労働基準法」第5版488頁
水町勇一朗「詳解労働法」第2版525頁、1341頁
[i] 「海外出張」とみなされる場合は、「海外派遣者」に該当せず、当然に(特別加入がなくても)、労災保険の給付を受けることができます。「海外派遣」と「海外出張」のいずれであるかは、①国内の会社に所属して、その会社の使用者の指揮に従って勤務するのか、②海外の会社に所属して、その会社の使用者の指揮に従って勤務するのか、という点から勤務の実態を総合的に勘案して判定されるべきものとされています(下井隆史「労働基準法」第5版488頁)。
[ii] 労働者災害補償保険法33条本文 次の各号に掲げる者(略)の業務災害、複数業務要因災害及び通勤災害に関しては、この章に定めるところによる。
第1号~6号 (略)
第7号 この法律の施行地内において事業(事業の期間が予定される事業を除く。)を行う事業主が、この法律の施行地外の地域(略)において行われる事業に従事させるために派遣する者(略)
同法36条第1項 第33条第6号の団体又は同条第7号の事業主が、同条第6号又は第7号に掲げる者を、当該団体又は当該事業主がこの法律の施行地内において行う事業(事業の期間が予定される事業を除く。)についての保険関係に基づきこの保険による業務災害、複数業務要因災害及び通勤災害に関する保険給付を受けることができる者とすることにつき申請をし、政府の承認があったときは、第3章第1節から第3節まで及び第3章の2の規定の適用については、次に定めるところによる。
第1号 第33条第6号又は第7号に掲げる者は、当該事業に使用される労働者とみなす。
第2号 第34条第1項第2号の規定は第33条第6号又は第7号に掲げる者に係る業務災害に関する保険給付の事由について、同項第3号の規定は同条第6号又は第7号に掲げる者の給付基礎日額について準用する。この場合において、同項第2号中「当該事業」とあるのは、「第33条第6号又は第7号に規定する開発途上にある地域又はこの法律の施行地外の地域において行われる事業」と読み替えるものとする。
第3号 第33条第6号又は第7号に掲げる者の事故が、徴収法第10条第2項第3号の2の第三種特別加入保険料が滞納されている期間中に生じたものであるときは、政府は、当該事故に係る保険給付の全部又は一部を行わないことができる。[iii] 「海外派遣者」に当たるには、海外事業が海外支店や現地法人等であるか、派遣の形態が転籍や出向等であるかなどは問われません(下井隆史「労働基準法」第5版488頁)。