仕事上の原因によらない怪我や病気によって労働者が休職した場合の収入の確保

1 はじめに

 仕事上の原因によらない怪我や病気によって労働者が休職した場合、労働者は、生活費等に必要な収入をどのように確保すればよいのでしょうか。

2 私傷病休職における収入の確保[i]

 私傷病休職とは

 仕事上の原因によらない怪我や病気を理由とする休職は、私傷病休職といいます。

 私傷病休職を含む休職制度は、会社が任意に設けるものであり、その内容についての法規制はありません。

 どのような場合に休職が適用されるのか、休職期間とその計算方法、休職期間中の賃金等の扱い、休職期間満了時に復職又は自然退職・解雇になるか等については、会社の就業規則等の内容を確認する必要があります。

 例えば、休職期間中の賃金については無給とするものや、休職期間満了時に休職事由が消滅していない場合に自然退職・解雇とするもの等があります。休職・復職時の手続については、会社が労働者に対して、会社の指定する医師への受診等を求めたりすることもあります。

 傷病手当金の受給による収入の確保

 休職期間中の賃金が無給とされている場合、収入が途絶え、生活費が不足する事態に陥る可能性があります。賃金以外の収入を確保する手段が必要になりますが、健康保険の被保険者であれば、傷病手当金を受給することが考えられます。

 傷病手当金は、被保険者[ii]が療養のため労務に服することができないとき、労務に服することができない期間のうち賃金の支給を受けなかった期間について支給されるものです(健康保険法99条、108条1項)。

 4日目の休業分から支給され(健康保険法99条1項)、支給開始日から通算して1年6か月が支給期間になります(同条4項)。

 傷病手当金の額は、支給開始日以前の継続した12月間の各月の標準報酬月額を平均した額の30分の1に相当する額の3分の2に相当する金額とされています(健康保険法99条2項)。標準報酬月額は、被保険者の報酬月額に基づき、決まります(健康保険法40条)。ここでいう報酬は、賃金、給料、俸給、手当、賞与その他いかなる名称であるかを問わず、労働者が、労働の対償として受けるすべてのものをいいます。ただし、臨時に受けるもの等、含まれないものもあります(健康保険法3条5項)。

 離職した日の前日まで引き続き1年以上被保険者である等、条件を満たせば、離職後も継続して傷病手当金が支給されます(健康保険法104条)。退職日の前日までに連続して3日以上休職し、退職日も休職している必要があります。業務の引継ぎのために退職日等に1日でも出勤すると、傷病手当金は打ち切られるので、注意が必要です。

 離職前に条件を満たしていれば、離職後の申請も可能です。

 なお、当初は私傷病休職の手続をとり、その後仕事上の怪我や病気と認定されれば、当初から仕事上の怪我や病気と扱われます。労災申請をして労災の認定を受けるまで、傷病手当金を受給することも考えられます。

 私傷病休職や、労災認定による休業補償は、当事務所へご相談ください。お問い合わせは、「お問い合わせフォーム」からお願いいたします。


[i]水町勇一朗著「詳解労働法」第2版532頁。第二東京弁護士会労働問題検討委員会編著「労働事件ハンドブック」改訂版301頁以下、815頁以下。日本労働弁護団編著「新労働相談実践マニュアル」214頁以下。大橋さゆり他著「弁護士・社労士・税理士が書いたQ&A労働事件と労働保険・社会保険・税金」15頁以下、89頁以下、148頁以下。君和田伸仁著「労働法実務 労働者側の実践知」383頁以下。

[ii] 任意継続被保険者を除きます(健康保険法99条)。