1 はじめに
自損事故で運転者が亡くなったとの報道に接することがあります。
報道では亡くなった経緯は詳細にはわかりません。
ですが、事故死だったのだろうか。自殺だったのだろうかと、考えることがあります。
2 事故死と自殺
自動車事故死には事故死もありますが、自殺もあるとの指摘がなされています。
自殺報道が自動車事故死に及ぼす影響についての調査結果では、自殺報道と自動車事故死に相関関係があったとされています。
当該調査結果によると、とくに増加したのは、他の自動車や歩行者に被害を与えずに、壁などに激突して、運転者だけが亡くなる自損事故だったようです。
のみならず、亡くなった運転者の特徴は、自殺報道で報じられていた方と類似していたようです。
また、アルコール依存症の事故死の中には、交通事故死等、形を変えた自殺行動であるものも含まれている可能性があるとの指摘もあります。
3 事故死と自殺をどのように判断するのか
事故死か自殺かは、生命保険の死亡保険金が保険会社から支払われるか(自殺免責)、労災の判断において自殺として扱われるか(過労自殺)[i]等、法的にも問題になることがあります。
ですので、法的な観点からも、事故死なのか、自殺なのか、検討が必要になる場面があります。
検討が必要な場面になったときには、人が亡くなっており、ご遺族もおりますので、事故の状況はもちろん、亡くなった方のそれまでの生活、人生からして、どちらと判断し得るのか考えたいと思っています。
4 参考文献
高橋祥友「自殺の危険」第4版・100頁、308頁以下、311頁以下
[i] なお、過労死・過労自殺ではなく、過労事故によって労働者が亡くなったことについて、会社等の責任が認められた事例もあります(川崎市過労交通事故死訴訟和解勧告決定・2018年2月8日横浜地方裁判所川崎支部判決判例時報2369号12頁)。